表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男姫様は魚がお嫌い  作者: 川咲弐号
■ 第5幕 ■
17/25

□1場 アステル VS 謎の女?

「な、なななななな」


 アステルは赤い顔で目を丸くする。ジョージも同じように驚いていた。

 そんな二人をよそにして、女は抱きついた格好のままユキトを見上げる。


「やっぱりユキトだ!」


 その声にユキトは振り向き、そこでようやく女と目が合う。

 いきなり女に抱きつかれて流石のユキトも戸惑うかと思いきや、女の姿を確認すると、目を大きく見開きながらも、あまり驚いた様子もなく常の呑気さで反応す


る。


「あれ、ヴィタさんじゃないですか」


 ヴィタと呼ばれた女はやっと体を離すと、ユキトの腕を軽く叩く。


「こんなところで会えるなんて思わなかったよ」

「それはこっちの台詞ですよ。でも、元気そうで何よりです」

「お互いにね」


 と、ユキトは思い出したようにアステル達の方を向く。


「ヴィタさん。“彼女”はアステルで、スカンクの方はジョージ。僕、今この子達と旅をしてるんです」

「ほほう」


 そう言って、ヴィタはじろじろとアステルの方を見る。品定めをされているようであまり良い気分はしないが、その後すぐにユキトに向き直られたので、それは


それで癇に障った。

 ユキトが事情を考え、女として自分を紹介したその配慮は嬉しくないわけでもないが、それでもアステルは浮かない顔でいる。そっと、肩にいるジョージに小声


で訊ねる。


「ジョージ、あの人知ってる人?」

「いや。少なくとも、ワイが一緒におるようになってからは会ったこと無い人やな。せやけど、こないなカワイコちゃんの知り合いがおうたんなら、はよ紹介して


欲しかったわ~。めっちゃワイ好みや! 特にあの、たわわなお乳がええな!」

「あーはいはい……」


 怪しく身体をくねらすスカンクに冷めた視線を送ってから、アステルは改めて二人の方を向く。

 アステル達のことはそっちのけで、ヴィタはユキトに話を振っている。抱きつくのは止めたものの、今度はユキトの右腕を取り、まるで恋人同士のように腕を組


み始める。


(何あれ、図々しい。ユキトは俺の従者なのに)


 何か腹が立ってきた。主であるはずの自分が、除け者にされるとはどういうことなのかと、だんだんイライラが募ってくる。

 アステルは、ついムキになってユキトの左腕を取る。


「あ、あなたは誰なんですかっ!」


 と、気づいた時には強く言い放っていた。

 ヴィタはぽかんとした顔でアステルのことを見ていたが、やがてユキトから手を放して頭を掻く。


「あれ、まだ名乗ってなかったっけ?」

「名乗ってません!」

「そっか、ごめんねぇ。改めましてヴィタです。よろしくね、アステルちゃん」

「ど……どうもご丁寧に」


 背筋を伸ばして挨拶するヴィタに、どう反応したものかと戸惑い、アステルは曖昧な返事を返した。ヴィタを警戒して、ユキトの腕にしがみつきながら訊ねる。


「あの、あなたは何者なんですか」

「何者と言われても。とりあえず、これを仕事にしている者、かな?」


 そう言って、ヴィタが革製のベルトポーチから取り出したのは、掌に収まる小さな箱型の物。ここまで小さい物をアステルは見たことが無かったが、紛れも無く


カメラだった。


「カメラ……ということは、カメラマン?」

「写真家と言われる方が好きなんだけどね。なんとなく芸術味があって。あたしは世界を巡って、そこで見つけた一瞬の煌めきを写す芸術写真家なの。まあ、お金


が無い時は、報道写真とかブツ撮りとかにも手を出してたけど、今は専らその土地の風景や人を撮ってる」

「じゃあ、今も仕事中なんじゃないですか? なのに、こんなところで男とイチャついているなんて、そんな暇無いと思いますけど?」


 除け者にされ腹を立たされた仕返しのつもりで、いかにも嫌味ったらしく言う。

 それに対して、ヴィタは気にした風ではないが首を傾げる。


「イチャって――――もしかしてヤキモチ?」

「そ、そんなんじゃないけど」

「ひょっとして、アステルちゃん。ユキトのこと好きなの?」

「「それはありえない」」


 ユキトとアステルが同時に言い切った。ただアステルとしてはユキトに言われるのは不愉快なようで、目をつり上げてギロリと睨みつけていた。

 二人の様子を見て、ヴィタは楽しそうに笑うと、アステルに向かって言う。


「まあ、好きかどうかは置いておくとするよ。なんにしても、あたしとユキトはアステルちゃんが思うような関係には、絶対なりっこないから大丈夫」

「何を差して大丈夫かは分かりませんけど、それはまあそうですね~」


 ユキトは頷くと、頬を掻いて苦笑する。


「馬に蹴られて死にたくはありませんから。あ~それ以前に、旦那さんに叩きのめされてしまいそうですね」

「旦那……? えっ、既婚者!?」


 アステルが驚きの声を上げてヴィタを見る。

 ヴィタは「いや~」と頭を掻く素振りを見せるが、その表情を見るにたいして照れてはいないらしい。完全に形だけだ。しかし照れていないからといって、結婚


相手を愛していないというわけではないようだ。

 ヴィタが腕を組んで、しみじみと何度も頷く。


「夫も夫で仕事があるから、家に置いてきてるんだけどね。あたしが旅に出る度に、『行かないでくれ~』って泣きつくの。あたしだって仕事なんだって、いつも


説得してから旅に出なくちゃいけなくて。ホント、普段は格好良いバリバリのビジネスマンなのにさぁ。家では、ヘタレな愛妻家なの」


(なんだろう。内容は愚痴にも思えるのに、結局は惚気話なのかな? これって……)


 げんなりした顔のアステルは、掴んでいるユキトの腕に体重を掛けて脱力する。

 平然とした顔でその重みを支えて、ユキトはいつも通りニコニコと笑う。


「そういうわけだから、イチャイチャなんてするわけがないし、そんな関係にはならないよ。なんだかんだで良い夫婦だからね」

「じゃあ、二人の関係ってなんだ? ただの知り合いにしては仲良さげだし」

「う~んとね。簡単に言うとヴィタさんは、僕の写真の師匠なんだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ