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俺と糞ゲーⅡ ~2周目はじめました~  作者: ピウス
第2章の2 【暗殺者】
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三匹の妖精

「なあ、お前らってさ。いつ帰るんだ?」


 泉からお城に戻った後。

 すぐさま部屋に集めた妖精3匹を前にして俺はそう尋ねた。


「だから帰り方知らないんだって」

「ワタクシもミュー様に出向しろと言われただけですので期限は……」

「それよりお腹すいたんだけど? おやつはなに?」


 頭が痛い。

 結局あの女神、無理やり3匹とも押し付けやがった。

 突っ返そうと女神が消えた水中に潜ってみても影も形もない。

 以前あった特別イベント的なヤツらしい。むしろバッドイベントだが……。

 てゆーか、あの泉に落ちたのが俺だったらどうなっていたんだろう?


 目の前にいる妖精はどうやらいずれもメガネの眷属らしくヌアラにそっくりだ。

 髪の色だけが違うのな。

 マジックで書かれていたのか、【悪】とか【善】とかいった文字はすでに消えているが、ましな性格が金色。チョイ悪は黒だ。オリジナルのヌアラは緑だから妙にカラフルだな。


「んじゃあなにが出来るんだ? いっとくがウチには働かない奴はおいとけないからな」

「ワタクシは簿記2級と秘書3級の資格を持っています。当然ですが魔法のほうもヌアラ並みには扱えます」

「……採用!」


 金髪はなかなかいい人材じゃないか。

 ヌアラを首にすることも考えよう。

 何で妖精が簿記やら秘書やらの資格を持っているのかは謎だけど。


「んでそっちの黒いのは?」

「ボクは姿を消せるので、摘み食いや悪戯を気付かれないで出来ます」

「……あとは?」

「以上です!」

「……残念ですが当社とはご縁がなかったようですね。黒さんの今後のご活躍をお祈りします」

「えー何で不採用なのさ」


 口を尖らせて文句を言うチョイ悪、黒髪妖精。

 むしろなぜ合格できると思ったんだって話だ。


「じゃあ黒いのはこの箱にちょっと入ってくれるかな?」

「なーにこれ」


 不思議そうにそう言いながら、なぜか嬉しそうに俺の取り出した小箱に入る黒いの。

 俺は蓋を閉めて箱の横に「可愛い妖精です♪ 拾ってあげてください」と書いた。

 うむ。後はこれをアルマリルの町に置けばいいな。


「それはあんまりですシノノメ様! 黒い方は私付の侍女として雇います」


 姫様がそんな言葉と共に俺の部屋に入ってきた。

 随分と妖精を気に入っていたようだから、こっそりと部屋を覗いていたらしい。


「侍女? この黒いのってメスなの?」

「メスではありません! 女性です。シノノメ様お間違えのないように」

「あっ、はいスイマセン」


 いかん、いかんですぞ。

 なにが姫様の琴線に触れたのかは分からないけど怒ってらっしゃる。


「ボクというから、てっきり……」

「そういう問題ではありません。以前から思っていたのですが、シノノメ様はヌアラ師匠を粗末に扱いすぎです」


 言い訳をしようとした俺の言葉をピシャリとはねのける姫様。

 その様子を見てヌアラは「わが意を得たり!」とばかりに勢いづいた。


「その通り! よく言ってくれた! さすがアタシの弟子」

「師匠はちょっと黙っててください!」

「あっ、はい」


 師匠立場弱いな。


「いいですかシノノメ様。貴族というものは女性には常に優しさと誠実さをもって接しなくてはなりません」

「はあ」

「貴族の女性に対しては当然ですが、自分の部下や領民の方に対してもそれなりの品格を持って接するべきなのです。シンシアをからかったり、可愛い妖精さんを捨てるなんてことは絶対にしてはなりません。お分かりですか?」


 ちっ。

 シンシアさんめ姫様にチクったな……。

 どうやらからかいすぎたようだ。


「わ、分かりました。今後気をつけます」

「はい。結構です。あとは侍女のお尻を触ったり、間違えて女性用のお風呂に入ったりもやめてくださいね」

「……はい」


 ウウッ。

 権力を盾にした俺の唯一の楽しみがなくなった……。

 仕方ねーじゃん。こちとら禁欲生活が長いんだ。そうでもしないと暴発する危険だってある。

 いわばコレはリスクヘッジ。そう、危機回避の有効な方法なのである。

 

「うわー東雲ってヘンターイ」

「セクハラというものですわね。上司としては最低の部類です」

「……ヒック、捨てないで下さい。エグ……捨てないで」


 姫様という強力な援軍を得て、勢いに乗る妖精たち。

 というか、おい黒いの。やめろ。姫様がまた怒り出すじゃないか。

 ヌアラもそうだけど、意外と妖精ってのはメンタル弱いよな。

 これ以上姫様を怒らせるわけにもいかず、俺は箱をあけると黒髪妖精をつまんでやさしく膝の上に載せた。


「冗談だよ冗談。愛らしい妖精のお前を捨てるわけないだろ?」

「エッグ、グス……ホント?」


 演技かと思っていたのだが、どうやらマジ泣きだったらしい。

 涙と鼻水でベトベトになった顔を俺のズボンで拭きながら黒髪妖精が俺を見上げた。


「ホントホント」

「じゃあここに居てもいいの?」

「もちろんだ。お前が居たいだけ、いつまでもここに居ていいよ」

「……お給料と衣食住の環境は? 食事にはお肉は絶対につけてくださいね」


 ……このやろう。人が下手に出てれば付け上がりやがって。

 ヌアラと行動パターンが同じじゃねーか。

 俺は黒いのの耳元に口を寄せた。


「……調子にノンなよ?」

「お、おう」


 うん。やはりしつけは大事だな。

 犬とか家族に順位をつけるというし、序列は最初にはっきりとさせたほうがいい。


「さて、じゃあお前らの仕事だけど、金髪妖精は……」

「イヴグウレでございます」

「イヴグウレはシンシアという人について事務を担当できるか? 簿記の資格持ってるのなら出来るよな?」

「ええ、当然です。ですが、そのシンシアという方がワタクシを扱えるのでしょうか?」


 凄い自信だな。

 これでましな性格ってんだから妖精はロクなのがいない。


「まあ、いろいろと教えてやってくれ。ただ、上司はシンシアだからな。そこのところはわきまえるよう頼むよ。……イヴグウレは優秀なようだから言わなくても分かっているだろうけど」

「お任せください。無能な上司は慣れておりますから。しっかりとシンシアという方を立てつつ成果を残してご覧に入れます」


 なるほど。

 コイツは扱いやすそうな妖精だ。

 自己顕示欲が強いから、おだてて使えばいいわけか。

 つーか、コイツが出向させられた理由がなんとなく分かった。


「ヌアラは今までの仕事をするとして……。問題は……」


 黒髪妖精をジロリと見ると、ちょっと身をすくませる。

 脅かしすぎたか。


「ペッポです。姿を消せるので摘み食いや悪戯を気付かれないで出来ます」


 それはもう聞いた。

 なぜ自慢げに言うのだコイツは……。


「あっ! あと少しの距離なら瞬間移動できます」

「……」


 つかえねえ。つかえねえよコイツ。

 まあ姫様の遊び相手にはちょうどいいかな?

 そんなことを考えていると、パタパタと飛んで来たペッポが俺の頭の上にのった。

 瞬間。

 俺の目に見えていた風景が変わった。

 ベットに腰掛けていたのに、なぜか目の前に姫様のかわいい後姿がある。


「うお!」


 声に出して驚く俺。

 姫様も慌ててこちらを振り返って目をぱちくりさせている。


「お前、人も瞬間移動できるのか?」

「うん。あんまり重い人はダメだけど、東雲ぐらいなら一緒に移動できるよ」

「……採用! お前は俺のお付の妖精にしよう」


 コイツを戦闘に使えばすごいんじゃなかろうか。

 瞬間移動して背後とかの死角から一撃!

 やっべ。すげーかっこよくないか。


「ズルイですシノノメ様。この子は私の侍女にするんですからね」

「いやいやレイミア。この子は私が貰います」

「横暴です。第一、シノノメ様はこの子を捨てようとなさってたじゃありませんか」

「さて? 何のことですか?」


 しばしにらみ合う俺と姫様。


「じゃあ、ここは公平にジャンケンで決めましょうか?」

「……嫌です。シノノメ様すっごくお強いんですもの。あっ! そうです。よろしければ将棋で決めませんか?」

「ほう。いいでしょう」


 フン。姫様はまだ将棋を覚えて間もない。

 こう見えても俺は少々自信があるのだ。中学時代にクラスで将棋が流行ったことがあってさ。そのときに色々な定石を覚えているのだ。

 なぜか妙に姫様は自信がありそうだけど……。はっきり言って、この俺に姫様に負ける要素はないと言わせていただこう。



 ☆★☆★☆★☆★



「……ま、参りました」


 自信を持って組んだ必殺の金やぐらがズタボロに切りさかれ、それでもメゲないで頑張って入玉を目指していた俺の王将が無念の討ち死にをした。

 姫様つえええ。

 なんか知らんが普通に定石を知っている上、差す手が尽く俺の上をいった。


「な、なぜ短期間でここまで腕を……」

「あー最近ね。いつもアタシと将棋してたからね」


 呆然としてうめく俺にヌアラがなんか得意げに答えた。


「……お前強いのか?」

「妖精将棋の永世名人だけど?」


 なんか知らんが強そうだな。


「ではシノノメ様。約束通り、この子は私の侍女にしますからね」

「そうですね。3回勝負の最初を勝ったわけですからレイミアが俄然有利ですね。じゃあ、早速2回戦目を始めましょう」

「……」


 俺の言葉に姫様が「あきれました」といった表情を浮かべる。

 だが、こいつの能力はぜひとも欲しい。

 卑怯者と蔑まれようとも、俺はあえてその汚名をかぶろうじゃないか。英雄とは一時の恥を敢えて選び、それを乗り越えるものを言うのだ。


「うわー普通そんなこと言えないよね? ちょっと引くー」

「たしかにかなり見苦しいですね」

「やめて! ボクのために争うのはやめて! ボクは待遇のいいほうにいくから!」


 可愛い妖精たちの声援を受けて背水の陣で勝負に臨む。

 さしづめ俺は国士無双の韓信といったところか。もう何も怖くはない!

 そして始まった2回戦。

 すべての駒を取られ、王将だけにされた俺は泣きながら降参しましたとさ。めでたしめでたし。

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