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俺と糞ゲーⅡ ~2周目はじめました~  作者: ピウス
第1章の1 【2度目の異世界】
3/57

2回目の異世界

 ザワザワといった雑踏の音が聞こえる。

 運搬に使われる牛の体臭と牛糞、露天で売っているのか焼けたお肉の臭い。

 半年前、神様連中に攫われて生活していた時にかいでいた懐かしい異世界の臭いがした。

 痛む目を無理に開いて周りを見回す。


(あの金髪おっぱいヒデエ事しやがる)


 目から血を流していたのでぼんやりと赤く染まった景色。


(ここは……冒険者ギルドの横手か?)


 大迷宮探索の折、幾度も通った道なので見覚えがあった。

 いくらか建物が建て替えられたりしたのか見覚えのない建物もあるのだが、そこは確かに記憶にある場所だった。

 どうやら俺はアルマリルの町のほぼ中心部に召喚されたようだ。


 ズキズキと痛む目に手をやろうとすると、カチャリと音がした。

 いつの間にか、以前の冒険で手に入れた神器装備一式を身につけていたのだ。

 最後にメガネと戦った時にエルナに投げ渡した神器銃こそないものの、鎧をはじめとした一式が揃っている。


(詰まるところこれは強くてニューゲームといったところなのだろうか? あるいは2週目とか?)


 なんにせよありがたいことではある。


「むーむー」


 黒い鎧下に銀色に輝き魔法を確率で無効にする神器鎧 《メリディオン》  

 頭部には薄く赤みがかった、状態異常に強い耐性を与えてくれる神器兜 《ヒルデグリム》 

 足には所々に魔法銀で強度を強めた回避能力と跳躍力が上がる神器靴 《ヴィーザル》 

 左の指にはMP消費を半減する 《リュミスの指輪》 

 右の指にはシルクとおそろいで買った願いの指輪

 腰には異様なほど良く切れる神器刀 《MURASAMAブレード》 

 その上から吸血鬼討伐の折に吸血鬼さん宅から失敬した闇のように黒い外套を着ている。

 全身黒ずくめ。やはり黒はいい。汚れも目立たないし、何よりかっこいい。



 【名前】 東雲圭

 【職業】 無職 

 【レベル】 63

 

 【ステータス】

 HP 830/830

 MP 830/830

 筋力 415

 体力 415

 器用 415

 知力 415

 敏捷 415

 精神 415

 運勢 415


 【装備】

 右手 《MURASAMAブレード》

 左手

 頭部 《ヒルデグリム》

 胴体 《メリディオン》

 脚部 《ヴィーザル》

 装飾  闇の外套

 装飾 《リュミスの指輪》

(装飾) 願いの指輪


 【スキル】

<神殺し>・・・凄く痛かったんですよね 絶対に許さない

<伝説>・・・最も新しい伝説を紡ぐ者 すべてのステータスに大幅な補正

<英雄>・・・少女を救ったアクメド商店街の英雄 レベルアップ時すべての能力にボーナス

<制限解除>・・・レベル制限99まで解放

<幸運>・・・幸運になる

<究極鑑定>・・・見えるすべてが見える

<再召喚者>・・・美しき地母神【ミュー】によって再度異界より召喚された者

 経験値倍増P・・・パーティメンバー全員の取得経験値2倍

 刀の心得・・・剣道2段の腕前

 第二種免許・・・車ないですけどね

 14歳から大丈夫・・・なにが大丈夫なんだよペド野郎

 獣だって大丈夫・・・種族を超えて愛情を育むもの 要するにケモナー




 先ほど金髪おっぱいを鑑定して酷い目にあったので、恐る恐る自分自身を鑑定する。

 レベルやステータスといったものも前回のクリアー時のまま引き継がれているようだ。

 ……逆に少し怖い。

 俺がこの状態ということは、敵もそれなりの強さを持っているだろうし。

 というか、どうすればゲームクリアーなのだろうか?

 たしか金髪おっぱいは『多少の』アレンジを加えたとか言っていたが。


「むーむー」


 あえて無視していたのだが、さすがにかわいそうになったのでふっと視線を落とす。

 そこにいるのは先ほどから必死にこちらを見てうなっている小人さん。

 オスかメスかわからない中性的な体に緑の髪。髪の色と同じ緑の服を着ている。

 背中には透明な二対の羽根があるから、いわゆるファンタジーでよく出てくる妖精なのだろうか。

 猿轡(さるぐつわ)をされているので必死に目で自己主張している。


(そういやマニュアルとか言う小人をもらってたな)


 ただ、こいつ糞メガネの眷属なんだよな。

 眷属というのはよく分からないけど要するに身内ってことだろう。

 どうせろくでもない性格なんだろうし、いっそこのままほっといてエルナとシルクの3人で幸せに暮らそうか。

 そんなことを一瞬考える。

 だけど俺はゲームをするときには、説明書をじっくりと読み込んでからはじめる性質なのだ。

 いきなりゲームを始めて詰まったら説明書を見る、という人も多いのだろうが正直、命がけのゲームでそれをやる勇気はない。


(まあ、仕方がないか)


 ため息を一つつき、小人さんに「大変でしたね」と好感度稼ぎに心にもない台詞をかける。

 金髪おっぱいはものすごくキツク縛ってたみたいで、散々苦労しながらも小人さんの猿轡を解いた。


「遅いですって! このグズ! かわいい、かわいい妖精が苦しんでるんですから、もっと早く助けろ! このクズ!」


 これが第一声である。

 口が自由になるや否や、唾を飛ばしながらそうまくし立てる妖精。

 違うだろ? まずは助けてくれてありがとうだろ。

 予想してはいたが、こいつもアレな性格なのは間違いないな。

 本当に神様関係者にはろくなのがいねーな。


「……なんというか、ミューさんの眷属っぽいですね」

「様を付けろよこのデコスケ! 畏れ多くも3等神様だって話です」

「……それはスイマセンでした」


 イラつくが、こいつの機嫌を損ねて情報を教えないと言い出されても困る。

 こいつを拷問するのも手間だしと、下出に出る俺。

 聞くこと聞いたらこいつは捨てよう。


「それで、マニュアルさん。この世界の変更点なんかを教えていただきたいんですけど? 前回とどんなところが変わったんですか?」


 妖精さんは「うーん」となにやら考えるように首をひねりながら、ツイッと空中に飛び上がった。

 そのまま俺の目の辺りをホバーリングしている。


「あーそうですねー。色々と有りますけど、いまは自動イベント中なんでそれが終わってから説明しますよ。イベントで色々分かるでしょうからね」


 そう言って酷く底意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 妖精の癖に嫌な目つきをしやがるなこいつ。

 これは何かたくらんでいる目だ。俺をおちょくる時にメガネがしていたから分る!


「えーとじゃあ、最初にどこに行けば良いんですかね? マニュアルさん」

「ご自由にどうぞ。どうせ行くところなんて2つ3つしかないでしょうし。……って誰がマニュアルさんやねん。アタシにはヌアラって立派な名前があるちゅーねん」


 ……時間差ノリ突っ込みまで出来るとは中々侮れない妖精ではあるな。

 なんでエセ関西弁なのかは意味不明だが。

 その妖精は自分で言って自分でウケけたのか、ケラケラとお腹を抱えながら俺の顔の周りを飛び回っている。

 うっとうしいのでハエたたきかなんかでぺチンとしたいところだ。


「はぁー。じゃあ出発しますよヌアラさん」


 ため息を一つつき、俺は以前住んでいた家へと足を向けた。

 エルナとシルクに半年振りに会える。

 そんな期待に胸を躍らせながら。



 ☆★☆★☆★☆★



「……おい。これはどういうことだ?」

「どうって……家ないですね」


 以前住んでいた俺の家がなくなっていた。

 ただ草が生い茂る空き地を呆然と見ながら俺はヌアラを問い詰める。


「なんで家がないかって聞いてるんだけど」

「それは住んでた人が引っ越したか死んだかしたんじゃないですかね?」


 うおい!

 縁起でもないことをさらっと言いやがるなこいつ。

 空き地を前にしばし考える。

 可能性は3つだろう。

 引っ越した。火事などの事故。そしてもう一つが考えたくはないがエルナの死亡……。

 とはいえだ。正直なところエルナの死亡は考えにくいと思うのだ。

 なにせエルナはこの町でも屈指の冒険者となっているはずだ。

 大迷宮の深層ならばともかく、そこらの迷宮は余裕だろう。加えてシルクもいるのだ。

 というか、エルナには十分な財力があるはずだからそもそも迷宮に潜る必要すらない。

 

 となると引越しと火事などの事故あたりだろうか?

 だが、火事ならば半年という期間を考えるに、何かしらの痕跡が残るはずだ。

 空き地をいくら見回しても、木材の燃えカスや煤といったものは見当たらない。

 まあ、地震という可能性もあるが、両隣の家が以前と同じだから俺の家だけ地震で倒壊というのはないだろう。

 いや、まあ、メガネが意趣返しに嫌がらせでやるというのはありえそうだけど。


 引越し。

 これが無難なところだろう。

 でもなあ。エルナが半年程度で俺の帰りを待つのを諦めて引っ越すだろうか?

 女性は男性と比べてそういうところは割りきりが出来るのだろうか。

 というか、もしかして奴隷でなくなれば俺のことなんてどうでもいいとか……。

 ドンドンとネガティブな思考に陥る俺。


「まあ、いきなり失踪した人をいつまでも女が待っているなんてのは男の夢物語ですからね。元気出しなよ。この世界の半分は女性なんですよ」


 暗い表情を浮かべていた俺を慰めようとしたのだろう。

 ヌアラが俺の兜にヒョイッとのると、俺の顔をのぞきこむようにそういった。


(あれ? もしかするとこいつ多少はいい奴なのだろうか?)


 慰めになってないけど。

 でもまあ、気持ちは嬉しいかな。


「まあここで考えていても始まらないな。よし! じゃあ行くか」

「何処にいくんですか?」


 逆さまにぶら下がったまま、くいっと首をかしげるヌアラ。


「そりゃ、初代のマニュアルさんのところさ」


 そういって俺はおっちゃんの工房に足をむけた。

 エルナがどんな事情であるにせよ、工房のおっちゃんであれば知っているだろう。

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