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俺と糞ゲーⅡ ~2周目はじめました~  作者: ピウス
第2章の1 【黒き災厄の足音】
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戦後処理とヌアラの銅像

「エルナありがとうな。助かったよ。エルナたちがいなければメリルは落ちていたかもしれない。シルクとそこの彼も本当にありがとう」


 メリル城の謁見の間。

 左右に嬉しそうな顔が並ぶその部屋で、俺は片膝をついて頭を下げているエルナとシルクそして耳だけ獣人君の3人にそう声をかけた。


「いえ。東雲様であればなんとかなったとは思います。過分のお言葉ありがとうございます」


 顔を上げ、にっこりと微笑みながら答えるエルナ。

 その目がちょっと流れて俺の隣に座るレイミア姫さんを見る。

 んで、また俺に目線が戻ってきた。

 なんとなく目線を逸らす俺。やっぱり怒っているんだろうか……。


 物凄く心配していたのだが、改めてじっくりとエルナを観察しても20年前とほとんど変わっていない。むしろ色気が増してる感じだ。

 これなら十分に賞味期限内です。

 いや! 

 お肉とかもさ、新鮮なものより多少くさりかけの方がおいしいという話しだし、むしろ以前よりも旨みがましているのではなかろうか!

 まっ、まだ鎧を着込んでいるから体の変化は分からないけど……。

 そちらの方は後でじっくりと調べようと思う。

 ただ、少し気になるのはシルクのほうだ。なんか身長がちょっと伸びてないだろうか? 体つきもなんとなく成長しているような気がするんだけど。

 毎日観察していたのではっきりと覚えているのだが……気のせいだろうか?

 もう少し近くで見たいけど、隣に姫さんが座っているからなあ。

 あんまりマジマジとシルクを観察するわけにもいかないか。


「いや、いいタイミングで仕掛けてくれたよ。もう半日遅ければこの城も危なかったと思う」


 これは別に褒めすぎではない。

 実はつい先刻、アリたちがお城に侵入するために掘っていたと思しき坑道を発見したのだが、その坑道、思いのほか深かったのだ。

 調べてみて驚いたのだが、女王アリのいた丘に掘られていたその穴は、実に数百メートルの長さがあった。もう少しで城内に進入されるところだったのだ。一昼夜でよくもそれほど掘り進めたものだとは思う。

 ロープを使って兵士を降ろし内部を検分したところ、壁面が妙に綺麗だったそうだ。

 岩盤の多いメリル城周辺だが、アリどもはどうやら仲間を殺してはその酸性の血液で岩を溶かしながら掘り進んでいたらしい。

 アリのくせに自己犠牲的な行動だ。

 もう少し女王アリを殺すのが遅ければ、間違いなく城内に進入されていただろう。

 そして進入されればお城は落ちていたはずだ。そういった意味では本当にこれ以上ないタイミングで奇襲をかけてくれたもんだ。

 顔にこそ出さなかったものの、俺の独断での突撃に腹を立ててたっぽい家宰さんもそれをみて「危ないところでしたな」と驚いていた。

 もっとも、出撃の際には皆に声をかけてくださいと怒られはしたけど。


「お役に立てたのなら嬉しいです。東雲様には本当にお世話になりましたから。ただ……できたらアリたちは壊滅させたかったのですが……力不足でした」

「ああ、それは仕方がないだろう。エルナたちは良くやってくれたよ。族長殿も素晴らしい奮戦でしたね。お礼を申し上げます」


 俺の言葉にちょっと頭を下げて答える族長さん。


「いや、我らより彼女達の力でしょう。これほどの手練の戦士殿にははじめてお会いしました。彼女達が女王アリを討ち取らねばこれほどの戦果は到底望めませんでしたでしょう」

「いえいえ、あなた方カエル族の戦士殿の活躍も素晴らしいものだと思います。あなた方の協力がなければ、追撃であれほどの魔物を討ち取ることもできなかったですよ」


 女王を失い巣に戻っていくアリ達を追撃した俺たちは大きな戦果を上げた。

 数が多すぎて殲滅することは出来なかったが、それでもおおよそ半数、500は討ち取っただろう。

 エルナたちの活躍も当然あるが、怒りに燃えたカエルさん達の奮戦がめざましかったのだ。

 筋肉ジーさんのとこの騎士の連中には劣るけど、狩猟で鍛えられている為かカエルさんたちは腕が立つ。そんな彼らの活躍が無ければここまでの戦果は上げられなかっただろう。


 ……うちの騎士団はまだ訓練もろくに受けていない素人なので追撃戦ではほぼ役には立たなかったしな。

 合計でも10匹程度のアリしか始末していない。

 てゆーか、下手すると返り討ちにあう危険もあるからな。カエルさんの後ろから瀕死のアリに止めを刺すぐらいしかしてさせていないのだ。

 軍隊としてそれはどーよ? と思わなくも無いけど、弱いんだから仕方がない。

 人のいないメリルにとって彼らは貴重な人材なのだ。死んだら補償やらなんやらでお金も飛ぶしね。復興にお金もかかるから無駄な出費は冗談抜きでメリルの存亡にかかわる。

 まっ、今後鍛えなければならないだろうが。その点はエルナに任せようと思う。ただ、エルナでは個人的な力量は向上させることは出来るけど、軍隊としての組織的な動きは教えられないだろう。エルナは冒険者であって騎士や兵士じゃないからだ。

 いずれはそういった経験のある軍事教官的な人も必要になるだろうなあ。随分と先の話になるだろうけど。


 因みに、その騎士団はなぜかめちゃくちゃ嬉しそうなミューズちゃんの指導の下、ラウルさんに率いられてアリの死骸から魔石を回収している。

 アリさんたちってば、迷宮に住まう魔物なので体内に魔石があるのだ。

 冒険者ギルドがある街だと魔石の専売契約を結ばないといけないらしいけど、メリルには今のところギルドはないから自由に使うことが出来る。

 ノクウェルをはじめとした人形の強化に使おうと思う。

 特に女王アリから採取した魔石これはめったに手に入らない特上の魔石らしい。

 宝石を見つめる女の子のように、ミューズちゃんがものっそい嬉しそうに魔石を見つめながらそういっていた。

 捨て値で売っても2000万ヘルはするらしいが、高級人形の強化にも使えるらしいので当座は様子見だな。


「シノノメ様。よろしいでしょうか? ワールの街に避難している住民についてですが……」

「あーそうですね。万が一ということもありますから念のため明日まで待って、ワールから呼び戻すということではどうでしょうか?」

「分かりました。ではそのように手配いたしましょう。おっつけ王宮から検分のための御使者殿が参ると思いますので、お疲れかとは思いますがその際には立会いをお願い致します」

「分かりました」

「それと、今ひとつ。タゴガ殿の話ですと大湿地には今だもう一匹女王アリが居るとのこと。ルーグ単独での討伐は難しかろうと存じますので、そのために少し話し合いたいと思うのですが」


 だよなあ。アリどもが1年に1回新たな女王を生むとなると毎年この被害が出ることになる。

 となれば、大湿地まで遠征して巣穴を潰す必要がある。だが、今回は平地で戦えたからなんとかなったが、迷宮を潰すとなるとルーグ単独では厳しいだろう。王国自体の援軍が必要だ。

 家宰さんがわざわざ俺に確認を取るのは俺の領主就任だけを考えれば王国に遠征をお願いするのはマイナスになるからっぽいな。気をまわしてくれてるんだろうね。

 ただ、俺としては姫様達に情がわいてはいるけど、是が非でも領主になりたいということも無い。

 援軍を頼んで失格の烙印を押されるのなら押されてもいいやというのが本音だ。


 家宰さんに返事をしようとして、俺はエルナがちょっと所在なさげに俺をみていることに気がついた。そういやエルナたちは旅をしてきてそのまま戦闘に突入している。休ませてあげないとな。


「了解しました。では、すぐにでも始めましょうか。エルナ達はほんとうに良くやってくれた。長旅の疲れもあるだろうし、城内の温泉でゆっくりと疲れを落としてくれ。料理も用意させよう」

 

 俺の言葉に頭を下げたエルナの尻尾がパタパタと揺れた。

 考えてみれば朝からエルナたちは飲まず食わずだったんだろうな。悪いことをした。


「シンシア」

「はい」

「すまないけど彼女達を客間に案内してください。それと入浴と料理の用意をお願いします。……できたらお肉料理中心で」

「かしこまりました。メリルを救っていただいた恩人でございますし、腕によりをかけてご用意させていただきますわ」

「あっ、あと私の部屋に傷薬を一瓶届けてください」

「傷薬でございますね。かしこまりました」

「えっ! あの? お怪我を?」


 できる使用人らしく理由を聞くことがないシンシアさん。

 一方で、ニコニコとした表情で俺の隣に座っていた姫様が驚いたような声をあげて俺をみた。

 上から下まで何か怪我をしているか調べるように姫様の視線が動く。


「あっうん。まあたいした傷ではないから大丈夫です」


 ちょっと罪悪感を感じながら答える俺。

 怪我はこれからするのだ。


「それと人がいないので大変だとは思いますが、帰ってきたら騎士団の連中とカエルさんたちにもお酒を振舞ってやってください」

「はい。幸い町の方にも手伝ってくれる方がいますのでご心配には及びません。すでに料理の方は準備している最中ですし」


 さすがに仕事が速いなシンシアさん。

 と、ここで俺はヌアラとの約束を思い出した。お昼寝の時間とかでこの場に姿すら見せない奴との約束なんぞ、ブッチしても何の問題もない気はするが臍を曲げられても面倒だ。


「……一応ヌアラも頑張ったからそこそこ高いお酒を適当に見繕って一瓶やってくださいな。お風呂にするんだそうだから」

「そういえばそんな約束してましたね。小牛のひれ肉と……銅像の方はどうしましょうか」

「小牛なあ。普通の肉を豪華なお皿に盛り付けて小牛だっていって食べさせてやってくれ。どーせ味なんぞそうちがわんだろうし。銅像はしばらくは無理ですね。文句を言うようでしたら、あとで俺……私が造るっていってやってください」

「彫刻の才がおありなのですか?」

「……」

「……」

「……いやないけどさ。銅像だって安かないだろ? ヌアラなんぞの銅像にかけるお金なんて無いしな」

「言われてみれば、そうですねえ」


 俺につられて毒を吐くシンシアさん。


「ただ、町の広場に飾るんですよね? あまり、その、上手ではない銅像はちょっと……」

「……」

「……」

「ぜ、前衛的な銅像ということでなんとかならない?」

「なりませんねえ」


 なりませんよねえ。

 

「シノノメ様。それなら私が造りましょうか? 本職の職人のようにはいかないでしょうけど、時間をかければなんとかなると思います」

「ああ、姫様でしたら安心です」


 俺だと不安だというのか。

 確かに姫様は普段から人形の服や小物を作ってるから、手先が器用なんだけど。

 そういや、最近はヌアラが着る服を作ってあげているようで、ヌアラのドールハウスには大量の服が詰まっていたな。


「うん。じゃあ姫様お願いします」

「……」

「……?」


 なぜだ。返事してもらえない。

 姫様は笑顔のまま、ちょっと首をかしげて俺を見つめる。

 しばし考えピンとキタ。


「じゃあ頼むレイミア」

「はい。お任せくださいまし」


 うぬ。ちょっとめんどくさいぞこの子。最近あまり猫被らなくなってんだよな。

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