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俺と糞ゲーⅡ ~2周目はじめました~  作者: ピウス
第1章の1 【2度目の異世界】
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姫様の指輪

「なんとかお金の方は都合がつきました。こちらが当座の資金です。1億でよかったですよね?」


 そういって古銭を一枚シンシアさんの目の前に置く。

 全部は渡さない。金の切れ目が縁の切れ目ということも無いだろうけど……まあ、ここ最近の出来事で色々俺も考えたのだ。

 シンシアさんが気をもんでいるだろうから、早いとこ安心させてあげよう。

 と、ランディさんにお金を用立ててもらったので、一旦工房に戻っておめかししてからこのウルド別邸にやってきた。


「お願いだから連れて行ってください」と土下座せんばかり頼むので、ヌアラも連れてきている。

 2日間絶食していたのでかわいそうな位フラフラだったが、途中のお店でスープを食べさせたので今は元気一杯だ。レイミア姫と随分と仲良くなったようで一緒に遊んでいた。

 ……うらやましい。俺は忙しくて姫さんとほとんど口をきいてすらいないのに。

 当のヌアラは、先ほどまではレイミア姫が作ったという人形用の服を着せてもらって随分とご機嫌だったが、今は白い犬の頭にのって寝転がっている。なんでも毛並みがふさふさで気持ち良いんだと。


「はい。1億あれば当面は何とか。しかし、わずか1週間で用意できるとは、冒険者とはお金が稼げるものなのですね。もちろん、すべてのものが稼げるわけではないでしょうが」


 ヌアラに羨望のまなざしを送っていた俺に、コインを手に取りながらシンシアさんが驚いたようにそういった。


「いえ。実はそれは借金です。あちらは出来たらメリルの地の塩。領内が落ち着いたら、それを扱わせて欲しいということなのですが……」


 シンシアさんが納得したという表情になる。


「なるほど。それならば不思議ではございませんね。メリルの岩塩はこの町でも非常に人気のある商品ですから。しかしそれが1億とは……やはりこのような境遇になりますと足元を見られるものなのですね。御用商人しか扱えないものですので。普通はその倍以上の献上があるものなのですが……」


 そういって悲しげに俺をみる。

 美人ってのはほんとにどんな表情しても綺麗だ。

 ううっ。

 仕方がないので残りの4枚もおく。


「いえ、借り入れたのは5億ヘルです」


 やべえ。なんか着服しようとした感じになってないか?

 いや、その通りではあるんだけど。コレは評価が落ちてしまうのではなかろうか。


「あらあら、まあまあ。それは高額ですね。ええ、かまいません。以前の御用商人はこのたび日和見してらっしゃるようなので、その方にお任せするとお伝えくださいまし。ただし、細かな契約はメリルの地に残る家宰様と相談してからになりますが。それと、あまり小さな商人ですと少々問題なのですけれど……その商人はどなたでございますか?」


 貴族ともなると色々気にしなくちゃいけないんだな。

 正直なところ藁にもすがる思いで俺に相談したんだろうに。

 とはいえ、実のところ意地っ張りな女性というのはそれはそれで魅力的だ。特にシンシアさんみたいな美人さんならなおさらだ。


「ランディさんです。この町で冒険者相手のお店を出している商人ですね」

「ああ、あの方ですか。それでしたら格の点でも問題ありませんわ。むしろこのような状況の中でよく手を上げてくれたものです。献上が5億ヘルというのも少々破格ですし」


 あれ? 献上って……なんか貰ったみたいな言い方なんだけど。


「あっ、いえ、これは借り入れなんですが」

「いえ。これは契約の為の献上ですね。借り入れの形ではありますけど、返さなくてもいいものですから」


 へー、つまるところ契約金とかそんな感じなのだろうか。

 なるほど。ランディさんの言ってたのはこういう意味なのか。

 なんとも複雑なものだ。


「ああ、そうなんですか。分かりました。ではランディさんには私からそう伝えましょう」

「はい。お願いいたします」


 嬉しそうにそう俺にお礼を言うシンシアさん。肩の荷が下りたように凄く晴れやかな表情だ。

 シンシアさんの機嫌もよさそうだし、お金のことに片がついたので、俺は以前から聞きたかったことをシンシアさんにぶつけてみる気になった。


「あの、実は少しお聞きしたいことがあるのですが?」


 俺の言葉に、なぜかあからさまに警戒するような表情になるシンシアさん。


「はい。何でございましょう」

「いえ。私はご覧のように一介の冒険者です。貴族といってもほとんどなにをしていいのかも分かりません。剣を振るうことは出来ますが、領内の問題に適切に対処できるのか不安なのです」


 異世界の領主なんてこの世界の常識知らない俺が出来るわけが無いと思うのだ。

 そもそも俺はこの世界のお金がどうなっているのかすら知らない。なんかカード決済というスゲー進んだテクノロジーを取り入れているのだ。元の世界並みの金融状況だとはっきり言ってお手上げだ。


「それでしたらご心配なさらず」


 なにを聞かれるんだ? と身構えていたのか、シンシアさんはほっとしたようにそう言う。


「城は落ちましたし、一族は姫様を除いて討ち死になさいましたが、ルーグの家臣はメリルの地に今も住んでいるのですから。村々を取りまとめる長。家臣から帰農した者。そういった方々がいる以上、領内の経営についてはご心配には及びません。内向きのことに関しましては家宰様が取り仕切りますし、私も出来うる限り、力を尽くしてお助けいたします」

「そうですか。いえ。安心しました」


 そういって一口お茶をすする。

 よかったー。官僚的な組織があるんであれば、俺は姫様と退廃的な生活が出来そうだ。

 ただ、災厄とやらだけが心配だが、コレは今考えてもどうしようもない。

 後でヌアラを締め上げて情報を聞きだそうと思う。


「あっ!」


 ほっとした俺の耳に聞こえるかわいらしいレイミア姫の声。

 凄く焦ったような驚きの声だが、それでも可愛いんだよなこの子の声。

 そんなことを思いながらそちらを見やる。

 目に入るのは姫様の可愛い姿となぜか凄い勢いで尻尾を振ってる白い犬。

 ……あれ? ヌアラは?


「こらシロ。吐き出して」


 レイミア姫は犬の口をこじ開けようとしている。

 ……まさか。


「食われた?」


 泣きそうになってうなずく姫様。

 ヌアラが食われてもいいけど、この子が泣くのは大問題だ。

 カップを置き、俺はゆっくりと犬に近づくと、指で犬の頬をつかむようにして口をこじ開けた。

 犬の口の辺りにはツボがあるからそれを押せば口は簡単に開くのだ。

 エルナで何回も試したから俺は知っている。

 アイツ何度言っても肩口に噛み付く癖が直らなかったんだよな。


 白い犬の口をこじ開けると、ボトッ。

 そんな感じで唾でべとべとになったヌアラがぐったりと床に落ちる。

 ぴくぴく動いているから生きてはいるらしい。

 あわてて姫様はお水を大きめのグラスに注ぐとヌアラをチャポンとつけた。

 心配そうにヌアラを見つめる愁いを帯びた横顔が本当に可愛い。

 しかもいい子だ。


 <鑑定>と念じたわけではないのに、おれが知りたいと思ったからだろう。

 彼女のステータスが頭に浮かんできた。


 【名前】 レイミア

 【職業】 貴族

 【レベル】 5 


 【ステータス】

 HP 20/20

 MP 40/40

 筋力 10

 体力 10

 器用 20

 知力 20

 敏捷 15

 精神 20

 運勢 10


 【装備】

 右手 

 左手

 頭部 

 胴体 貴族っぽい服

 脚部 

 装飾 ≪白蛇神の指輪≫ 

 装飾 



 【スキル】

<△△>・・・≪白蛇神の指輪≫の効果により表示不可

<△△>・・・≪白蛇神の指輪≫の効果により表示不可

<△△>・・・≪白蛇神の指輪≫の効果により表示不可

 △△・・・≪白蛇神の指輪≫の効果により表示不可

 △△・・・≪白蛇神の指輪≫の効果により表示不可

 △△・・・≪白蛇神の指輪≫の効果により表示不可




 へーさすがに貴族ってのは用心深いね。

≪白蛇神の指輪≫ってのは<鑑定>を妨害する効力があるのか。

 俺以外にも<鑑定>のスキルを使える人がいるのだろう。

 考えてみれば初対面でもある程度の情報が分かるのは貴族としてはまずい。

 スキルで変なのがあると信用されないしね。

 ……俺もこれ買わないといけないな。きっと。


「綺麗な指輪ですね。これは何処に売っているんですか?」


 何気なく聞いたとたんに、またしても緊張が部屋中にはしった。

 姫様はびっくりしたように俺を見ているし、シンシアさんはものすごく険しい表情になっている。


(あれ? 俺は何か失礼なことを聞いたのだろうか?)


「これは姫様の母君様の形見です。売り物ではございません」

「あ、それはスイマセンでした」


 なんかシンシアさんが怖い。

 なぜかグラスのお水にお風呂のようにつかりながら、ヌアラがニヤニヤして俺をみているのも気に入らないな。

 こいつほんとに情報出さないし。

 まあ、まだ自動イベントとやらの最中なのだろうが。


「でも、形見ですか。さすがに良い物ですね。アーティファクトですよねコレ」

「え、ええ。さようです。……お分かりになるのですか?」

「はい。一目見れば」

「……」


 なぜかまたしても緊張感が漂う。

 なぜだ! この話題はヤバイ。空気の読めることに定評のある俺は、話題を変えることにした。


「と、ところで、メリルに人形師はいるのですかね? 実は一人雇って欲しいという子がいるのですが? ただ、人形師としてはいいとこ並み程度の腕前ですが」


 実際のところは知らないけど、おっちゃんの口ぶりから察するに、ミューズちゃんの腕前はこんなところだろう。本人に聞かれたら怒られるかもしれないけど。


「あら? 人形師はいくらいても困りませんから是非きていただいてください。メリルは人も少なくなりましたし、人形師でなくとも移住は大歓迎ですわ」


 あーそうか。

 5年前の侵攻とやらで多分貴族だけじゃなくて、領民も結構死んだんだな。

 つーか移住は自由に出来るんだ。農民なんかは土地に縛り付けられているイメージだったけど、この世界は妙なところが先進的なんだよな。


「じゃあ、そう伝えておきましょう。喜ぶと思います」

「はい。その方以外でも、移住を希望される方がいれば是非ご紹介くださいましね」


 本気で人いないんだなメリル。

 産めよ増やせよ地に満ちよ。そんな感じか。


(ふむ)


 それならば、俺も頑張らなくてはいけないな。率先垂範(そっせんすいはん)まずは領主たる俺が領民の範となるべきだろう。

 俺はヌアラをタオルで拭いてあげているレイミア姫を横目にみつつ、領主としての責任感をヒシヒシと感じた。

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