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エピローグ



 ──対策室。


「「英里(さん)!」」


 バン! と勢いよく机を叩く大小二つの手に、目を通していた書類から視線を外して顔を向ける。


「やあ、おかえり二人とも。ご苦労だったね」


 任務から戻った二人を英里がにこやかに笑って迎えると、ユキとクロトが互いに互いを指差し抗議の声を上げた。


「治療は終わったようだね。報告書だけど──」

「そんな事は後回しだ。今すぐコイツとのコンビを取り消せ!」

「僕からもお願いします! この人と協力なんてやっぱり無理ですよ」


 バチバチと火花を散らして睨み合う二人を見つめ、「ふむ」とぬるくなったコーヒーを一口飲む。


「報告によればなかなかの連係プレイだったって聞いたけど?」

「誰がそんな馬鹿な報告……ッ、あの赤毛ザル!」


 ハッと閃き、ふるふると拳を握り締める。

 と、


「もう! クロトってばまだ治療が終わったばかりなんだから少しは大人しくしなさい」

「手当ては済んだのか。って、どうしたよ?」


 ユウナに続いてひょっこり顔をのぞかせ入ってきたザキにズカズカと詰め寄って、両手で胸ぐらを思い切りつかんだ。


「テ・メ・エ・はああああああ! 何勝手に報告してやがんだ!」

「えー、あれからずーっと仲良く夫婦漫才してたから代わりに気を利かせて報告してやったんじゃん。オレってばやっさしー」

「「誰が夫婦漫才(ですか)だ!」」

「おお、ナイスハモリ。やっぱお前ら息ピッタシだな」

「そんなワケあるか!」

「そうですよ。誰がこんなダメ神なんかと」

「ダメ神言うんじゃねえ、クソガキ!」

「僕はユキです!」

「おーいお前ら、照れるのはわかるけど」

「「だから違うって言ってる(でしょ)だろ!」」


 ガクガクと揺さぶられながら、器用ににやにやと言っていたザキだったが、無言で肩を震わせたクロトの手がギリギリと力を込めてきて、ちょと顔に焦りが浮かぶ。


「えっと、あの、クロトさん? ちょッ、マジ首絞まってんデスけど……」

「絞まってるんじゃなくて絞めてんだよ! このまま死にやがれ」

「ちょ、くるし、苦しいって! ギブギブ! ユキ──」


 思わずユキに助けを求めるが、


「すみません。クロトと同意見なのは不本意極まりないんですけど、僕の為にも死んでください」

「え、何その怖い笑顔。なんか黒いオーラが見えるんだけど、お前そんなキャラだったの?」


 黒い笑顔全開でそう返され、ユウナにも助けを求めようとそちらを見るが、こっちも人差し指を口元に当て、小首を傾げてにっこり一言。


「うーん、自業自得じゃないかしら?」

「デスヨネー。あ、やべ意識が朦朧としてきた。……あー花畑の向こうでカワイさんが手を振ってる……」

「誰ですカワイさんて」

「まあまあ、その辺で許してあげてよ」

「止めるな英里。今度という今度は許さねえ! こんなガキ相手に照れるだの夫婦漫才だのほざきやがって、野郎相手に気持ち悪いこと言ってんじゃねえよ」

「は!? 誰が野郎ですか! 僕は女です」

「………………あ?」


 思いがけず聞こえた言葉にクロトが動きを止めた。


「何だ何だ? ああ、三人とも帰ってきてたのか。おかえり、お疲れさん」

「「おかえり~」」


 書類と箱を抱えカナタ達面々がゾロゾロと入り口から入ってくる。


「いいタイミングだったなユキ。今ちょうど女子の制服が届いた所なんだ。あとでサイズを確認してくれ」

「あ、ハイ」

「で、ザキは今度は何をやったんだ?」

「いやあ、ちょい今回はからかいすぎちまって」


 ほどほどにしておけよー、などと何事もないような会話がクロトの耳を素通りしていく。

 いや、今何かあきらかに聞き捨てならない台詞があった。


「そういえばクロトってばさっきから急に黙ったままだけど、どうしたのかしら?」

「おーい固まってるけど大丈夫かー? クロトー? クロトさーん? クロっち? クロリン? クロリーナ?」

「変な呼び方してんじゃねえ!」


 我に返り、ひらひらと眼前に手をかざすザキの頭にガツンと頭突きをかまし、


「おいガキ」

「何ですか?」


 たっぷり間を置き、ユキに向かって問い掛けた。


「……お前、女だったのか?」

「だからさっきからそう言ってるでしょうが」

「おい、英里」

「この前話したハズなんだけど聞いてなかったのかい? 正真正銘ユキ君は女の子だよ」

「…………」


 思わぬ事実に再び沈黙するクロト。


「クロト?」

「何だ、どうした?」

「あー、なるほど」


 微妙な空気に首を傾げるカナタ達に、察したザキがポンと手を打った。


「お前、ユキが女だって気づいてなかったのか」


 ユウナやリオならばともかく、英里の命令とはいえ女嫌いなのによくコンビを組んだものだと思っていたが、「どーりで」とザキが納得する傍らで、他の四人もなるほどと頷く。


「あら? でもこの間の時はクロトもいたわよね」

「「いたいた~」」

「ほら、アイツあの時ちょうど任務が入って話の途中でいなくなったんだよ。でも普通、あれだけ一緒にいれば気がついてもいいもんだけどな」

「そりゃ無理さ。あのクロトじゃ」

「そうねえ」

「まあ、確かにクロトじゃ無理か」

「クロト鈍感~」

「どんかんどんかん~」


 さり気にひどい周囲の意見をよそに、未だに立ち尽くすクロトを見上げ、ユキが眉を寄せる。


「さっきから一体なんなんです?」

「クロト君はちょっとした女嫌いでね」


 にっこりと笑って答えた英里に、額に青筋を浮かべたクロトがユキを押しのけて机越しに英里に詰め寄った。


「テメエ、英里! わかってんなら組ませんじゃねえ」

「反論は聞かないっていっただろう? 我侭はダメだよ。──ああ、そうそう。そういえばボクの言ったことはわかったかい?」

「感知能力のことならあんなの珍しいだけで大して──」

「誰もそれだけだとは言ってないよ?」

「……どういう意味だ」


 問うクロトに、「それがわからないのならまだまだコンビは続行だね」と飄々と言ってのけ、英里がコーヒーを飲もうとした手を止めてユウナに声を掛ける。


「おやコーヒーが冷めちゃったか。ユウナ君お代わりもらえるかな」

「おい待て! まだ話は……」

「いいじゃん。これを期に苦手意識を克服しちまえば」


 ガッシと後ろから首に腕を回して、ザキが悪戯っぽく笑ってうんうんと頷く。


「ついでに少しくらいお前も年頃の青少年てのを謳歌してみれば? お前ってば仕事命もいいけど、もうちょい人生楽しもうぜ。ケンカしてた相手が実は女でそこから恋が芽生える。いわゆる王道だぞ~」

「余計な世話だ! 誰がこんな色気も何もねえ生意気なガキなんぞ」


 ザキの腕を振り払い悪態をつくクロトに、ユキの額にもピキリと怒りマークが浮かぶ。


「それはこっちの台詞です! 僕だってこんな愛想皆無の人格破綻者なんか願い下げです。それに僕の名前はユキだって何度言えばわかるんですか! ああ、クロトって頭悪そうですもんね。大方聞いたそばからすぐ忘れるんですね」

「何だと! もういっぺん言ってみろこのガキ」

「ええ、何度でも言ってあげますよ。このダメ神!」


 火花どころか、燃えさかる炎をバックに睨み合う二人。


「やれやれ、また始まった」

「室長、止めなくて良いんですか?」

「んー、もう別にいいんじゃない?」

「別に良いって……」

「心配いらないって。よく言うだろ『ケンカするほど仲がいい』ってさ。見ろよアイツら」


 両手を頭の後ろで組んで、顎でそう促すザキにつられて二人を眺める。

 言い続ける二人に、よくもまあ息つく暇も無くあれだけ互いにポンポン言い合えるものだと、むしろあそこまでいくといっそ感心してしまう。


「好きの反対は無関心だって言うだろ? ケンカってのはお互いに相手がいるからできるんだよ。じゃなきゃわざわざ相手にしないで無視でもなんでもすりゃいいんだからな」


 そもそもたった一日足らずであんな言い合い、よっぽど相手を気にしてなきゃ出来ることではないのだ。


「嫌よ嫌よもスキのうちってね」

「つまり良くも悪くも、結局はそれだけ互いに相手を意識しているってことなんだよ」

「なるほど……」

「言われてみれば……」

「「二人とも楽しそう~」」

「だろ? 慣れると結構面白いぜ」


 視線の先ではそんなザキ達の会話をよそに、なおも飽きずにケンカする二人の姿があり、重なった二つの声が対策室に響き渡る。


「テメエとは──」

「あなたとは──」

「「絶対にコンビ解消だーーーッ!!」」



 ──こうしてこの日、対策室に新たな名物コンビが誕生したのだった。



これでひとまず終わりです。

ここまでお読みくださってありがとうございます。


以降も1作品ごときちんと書き上げてから分割してアップしていくつもりですので、しばらく間が開いてしまいますが、それでも読んでやるぞという優しい方がいれば今後もよろしくお付き合いください^^;;


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