2-1 徐々に失われていく正常
お待たせしてしまった。申し訳ありません!
2章スタートです!
文化祭当日。
コウは学校の昇降口の階段に腰掛けて、ぼんやりと校門を眺めていた。
校門までは学生たちが出店を開いており、かなり盛況だ。
昨日、夕飯を食べた後、三人で看板を学校に持っていくと、未だに準備に追われていたクラスメートの手伝いに駆り出された。
解散は9時少し回ったくらい。
頑張ったかいもあり、かなりいい感じにメイド喫茶は出来たと思う。当日はクゥも来るつもりらしい。サキはファクターがある為、来ることはできないだろう。
本当はハヅキとルウラも来る予定だった。
明日はメツと訓練だ。
これらのことを考えないように、努めて頭を空にしていた。
「おい」
背後からの声に振り向くとメイド姿のアイがいた。
「どうした?なんか呆けていたみたいだけど」
上から下に視線を移動させて観察する。
元々、外国の血が混じった彼女がこういった服装を身に纏っていると異様に似合う。
リアルメイド。
海外の金持ちに仕えているような格好だ。
「似合っているな」
頭に拳が飛んできた。
頭を後方に動かし、スウェーでよける。
「な、なに言ってんだ!バカァ!」
濁った頭をなんとか働かせる。
平常に見せかけろ。
「たまに褒めてみたらなにすんだ!」
顔を真っ赤にしたアイに反論。
「馬鹿なことと言った代わりになんか奢れよ。一緒に行ってやるから」
「お前、やくざか?」
言っていることが無茶苦茶すぎて理解不能である。
「いいじゃん。休憩時間で時間もてあましてんのよ。今なら私が可愛く接してやるよ?」
「……薄ら寒いことをいうなぁ。お前」
頭の中に浮かんだのは腕に絡み付いて『一緒に回りましょう。ご主人様』とキャピキャピ声で自分に話しかけるアイだった。
こんなことをされたら、余りの恐怖に発狂してしまうそうである。
「で、私がお前と回ってやるって言ってんだよ。さっさと行くぞ。ウスノロ」
いつの間にか上から目線である。
ため息をついて腰を上げ、一言。
「お前、財布わすれたろ」
アイの肩がビクリ、と動いた。
図星だ。
「やっぱりな」
「な、なんでわかったの?」
「いや、だって。お前がこういうこと言う時ってかなりの確立で財布忘れたときだからさ」
「…………付き合い長いだけのことはあるわね。褒めてやるわ」
「いらん」
「違うんだって!」
(こういうところは姉妹だよなぁ)
コウは手を振って抗弁しようとするアイを見て、しみじみと思う。
ハヅキの思慮深さの一割でも彼女にあれば、と思わずにはいられない。
「……どうぞ」
「そこはかとなく投げやりっぽいのがムカつくけど、私は故意に忘れたわけじゃないのよ!」
「故意だったら、拳骨落としているところだ」
「ほら、昨日さ。メツの家で作業していたじゃない?」
「あいつの家に忘れたのか?」
「うん。だから私はメツにお願いしておいたのよ。持ってきてくれって」
「ふむふむ」
「けど、時間が悪かったのよね。私が気づいたのが9時。メールを送ったのが30秒後。メツを見たのが、その十秒後」
「…………」
無言でスッと財布を取り出し、肩の位置に持ち上げてこれ見よがしに見せ付ける。
「やったー!利子つけて返すから貸して!コウ様、愛してるー!」
「相変わらずの変わり身の早さだなぁ」
溜息をついて財布から千円札ほど取ろうとして所で、背後から知った匂いを嗅ぎ取る。
動きを止めて振り向いたコウの目線をアイも辿った。
「ねぇ、なにあれ?」
「神飛行機と……ミイラだな」
二人の目線の先にはクゥが手を振ってこちらに歩いてきていた。横には顔を包帯でぐるぐる巻きにしたサキがいた。コウはファクターの恒常発動により、匂いでサキとわかったが、他の人がみれば全然わからないだろう。可愛らしい服を着ているところがミスマッチで目を引き、所々、頭の包帯からはみ出している赤毛が不気味だ。
「やぁやぁ、お二人さん。ごきげんよう」
近くまで寄ってきてへらへらと笑うクゥにコウは詰め寄った。
不気味なミイラを指差して問う。
「これは何だ?」
「いいじゃないっすか。これだけ包帯でぐるぐる巻きにしていけば誰にもわかりませんって」
「目立ってどうすんだ!」
「むむむ!」
両者の間にミイラが割ってはいるが、口が包帯に埋まっているため何を言っているのかわからない。その間抜けっぷりに毒気を抜かれる。祟り神だの、最弱にして鉄壁だの、今の姿を見てそう思える輩が果たしているのだろうか?
「なに言っているかわからねぇ。口元を開けて小声で話せ」
「ぷはっ」
サキが口元の包帯を取り、呼吸を数度、繰り返した。それなりに息苦しかったらしい。
「やめて!」
「ばっか!小声で話せって言っただろうが!」
コウは慌ててサキの口を手で押さえる。
ただでさえ、彼女は死んだエリコの生き写しなのだ。下手に注目を浴びると面倒なことになる。
首を立てに振ってサキはコウの拘束を解くように目で訴える。溜息をついてコウは拘束をとく。
「私のために争うのはやめて」
「喰ってやろうか。赤巻神」
こめかみに血管を浮かせてコウは唸る。
「これをみてもそういえるかしら」
そう言うと、サキは懐から可愛らしいワンポイントのプリントがなされた赤い財布を取り出した。
「あ!私のだ!」
サキはアイに財布を手渡す。
「これでも私は尽くす女なのよ」
「ありがとうございます」
「ここで言う台詞じゃねぇだろ」
上機嫌なアイの横でコウは渋面を崩さない。
「本当はこの財布を口実に文化祭に顔を出したかっただけなんっすけどね」
「この変装はお前の入れ知恵か?」
「いや、そんな怖い顔で見つめられても……。あたしだってこれでも頑張ったんっすよ。あたしが校門に着いたときに二月さんに捕まりまして……。これでもあたしは準備のいい女。包帯くらいは常備しているっす」
「都合のいい女だな」
「いや、その感想はおかしい」
「おかしくねぇよ。つーことはなにか?このミイラ女、無理やりここまで来たって事か?」
「私は毎日、窮屈な生活していて気が狂いそうなのよ」
「張ったおすぞ……。お前は自分の立場がわかったんのか?お前の呪いは解けているわけじゃねぇ。たまたま、俺とメツに効かないってだけだ。少しでも俺の日常に不都合をぶつけてみろ。ただじゃすまさねぇ。あのときの言葉を実行して達磨にしてやる」
コウは殺気立っており、今にもサキに飛び掛りそうな勢いだった。
犬歯をむき出しにし、敵意を隠そうともしない。
「今の弱体化したお前なら三分で喰い殺せ……」
「コウ!」
アイに腕を引かれ、ハッとしたように殺気を霧散させる。
深呼吸をし、ひどく疲れたような顔をサキに向けた。
「すまん」
「……いいえ、私が悪かったわ。帰ったほうがよさそうね」
「いや、居ろよ」
コウの言葉に驚いたようにサキは顔を上げる。
「帰ってもらうと……俺が惨めだ」
「…………そう」
短く返答。
「俺はちょっと裏で休む。アイはそこの二人を案内してやってくれ」
そう言うとコウは体育館裏に歩を進めた。
1人になりたかった。
2章をかくスピードが遅くなったのは、皆の態度がはっきりしない話だからです。特にコウ。