1-4 メツとサキ
第二章が全然進まない…
サキはメツの悩みを聞いていた。
簡潔にいえば、メツは自分が戦力になっていないことを気に病んでいた。
だから、サキに戦い方を教えてくれと頼み込み始めたのだ。
(男ってどうしてそういうこと気にするかな……)
サキは内心、そう思っていたため、恋人の相談事に対してあまり乗り気ではなかった。
それは会話にも現れている。
「貴方はよくやっているわ」
「サキ!僕は真面目に頼んでいる!」
「貴方は最終的にどうしたいの?」
「少しでもみんなに力になりたいんだ!」
「貴方はよくやっていると言っているわ」
「駄目なんだよ!今のままじゃ!」
「そうやって、強くなって何したいの?」
「……今日の晩御飯は!」
「貴方は頑張っているわ…………ハッ!」
しまった。
メツの顔を見ると無言でこちらを睨んでいる。
「…………ハンバーグが食べたいかな?」
「サキ。僕は少しばかり君に対しての見方を変えたほうがいいのかな?」
「まって!違うの!」
「何が違うのさ!大方『貴方は頑張っている』と『どうしたいの?』を適当にバリエーションもたせてローテーションして、僕が自己完結するまで会話を持たせようとしたんだろ!?」
「だって!大抵の会話はそれで何とかなるって!」
そういってサキは傍らに持っていた本をメツに差し出す。
『会話下手な人のために』
タイトルにはそうあった。
「……頑張ったんだよ?」
目に涙さえ浮かべてサキは誤魔化しにかかる。
(ここが正念場だ!頑張れ。私!付き合い始めでいきなり失望されるとかありえない!)
「サキ……そっか。頑張っているんだね」
祟り神として祭り上げられていた彼女は他人とろくに会話したことがない。
先日、本屋に連れ立って行った際に、サキは数冊の小説とこの本をねだったのだ。
早速、実践してみたらしい。
「ごめんね……やっぱり、上手くなかったね」
「その本にそんなこと書いてないけどな」
サキの背後から声。
いつの間にかコウが部屋の仲に居た。
何度か呼び鈴を鳴らしたが、出て来なかったため、勝手に入ってきたのだ。幼少時からの付き合いが許す行動だった。
「……暁コウ!」
とっさにサキは距離をとる。
「随分と警戒されたもんだな」
犬歯を覗かしつつ、コウは笑う。
「……そりゃあ、あんなことされたらね。当然の反応よ」
お互いあまり仲良く慣れそうにない、という共通見解はすでに成り立っていた。
「ところで何で君はこの本の内容知っているんっすか?」
コウから少し遅れて部屋に入ってきたクゥが問う。
「…………俺も読んだんだよ」
消え入りそうな声で白状するコウ。
「………………ごめん」
聞かないほうがよかった、と謝罪するクゥ。
「メツ。お前もこの女に闘い方を聞こうとするな。ようやく、闘いから離れられたんだ。そういうのはよくない」
コウの糾弾にメツは俯く。
「そうだったね。……ごめん」
「いいのよ。私は」
謝罪を入れられ、サキも動揺。
「あんたもだ。あまりメツを甘やかすな」
コウの言葉にサキは彼を睨みつけることで返答とした。
場の空気は最悪だ。
「ちょっと!ちょっと!喧嘩しにここに集まったんじゃないでしょうが!」
クゥが何とか場の雰囲気を直しにかかる。
コウがこの男女に厳しいのは仕方のない一面がある。
メツには戦って欲しくはない。
サキはメツを闘いに引き釣り込んだ張本人。
当人同士の意思が余り介在しない。いわば頑張りすぎの代償のようなものが今の状態だ。
コウが複雑な心境になるのもしょうがないといえた。
「そういや、なんでお前がついてきたんだよ」
「文化祭ってどんなものなのか興味があるってだけっす」
皆、テレビを正面にし、コの字型に配置されたソファに腰掛ける。
皆を呼び寄せたのはコウの恋人の妹だ。
元々、集合をかけられたのはコウとメツだけだったが、クゥは勝手についてきた。サキは公的には行方不明扱いで、あまりメツの家から出ることができない。
気づけば神を2柱交えての文化祭準備となった。
「俺たちの仕事は看板を作るだけだけどな」
ちなみに文化祭は明日である。
サキとのごたごたが最高潮であった為、連絡が遅れたにだ。コウは昨日それを教えられた。メツは忘れていた。アイは1人で頑張っていたが、昨日、ついにギブアップした。こういった具合だったため、急遽集まることになった。
外枠だけはすでに完成しているため、後は絵を書くだけである。
「どんな看板っすか?」
「メイド喫茶」
「なんかありきたりっすね。嘆かわしい。コウさんは何やってたんすか」
あきれ返ったような感想を漏らすクゥ。
「ありきたりでいいんだよ。大体、この企画が通ったとき、俺は五月の粘着紙の相手でそれ所じゃなかったんだ。赤巻紙ともあんまり間をおかずにだったし……」
「なんかコウさんって間の悪さを引き寄せることに限っては神がかっているっすね」
「カミサマに言われると凹みそうだからやめてくれ……。アイはまだかよ。言いだしっぺが遅刻してどうする」
コウがそういっているうちに呼び鈴が鳴り、メツが応答する。
玄関先でメツを見たアイが絶叫したことが分かった。
彼女は白髪になったメツを見るのは初めてだからだ。
部屋に入ってきた姉と同じきれいな銀髪を肩のところで切りそろえた少女は大きな荷物を抱えていた。ねぎが飛び出している。食材らしい。
「コウ。これ今日の食材……って、あれ?」
普段は元気のいい声を張るアイが呆けたようにコウに持っていた紙袋を渡そうとするので、コウは立ち上がってそれを受け取る。アイは見たことのない女性二人に目を丸くしていた。
「ええと……この方達は?……っていうか……エリコ?」
「紹介するよ。この人はフェ……」
「如月サキです。メツさんの家でお世話になっています」
メツの迂闊な言葉を切って、自分で自己紹介をするサキ。
死んだクラスメイトにそっくりの女性は確かに雰囲気が違う。エリコにあった愛くるしさは余りなく、代わりに静かで落ち着いた雰囲気だ。
別人、と割り切るにはまだ落ち着かないが、アイはいったんこの落ち着かなさを保留することにした。
彼女との思い出はたくさんあるが、しっかりと別れを告げたのだ。
頭を振って、努めてサキとエリコを切り離す。
「あたしはクゥっす。貴方のお姉さんから話はよく聞かされているっす」
差し出されて手に従うままに、クゥと握手したアイは別の疑問に思い当たり、呆然としていた。
「家で世話になっているって何?」
コウは目で脱出経路を探る。
次にアイがとる行動が手に取るようにわかったからだ。とばっちりを食う前に逃げる必要がある。
出入り口はアイに固められている。
窓か?
駄目だ。両腕が塞がっているせいで鍵が開けられない。
思考している間に、コウの腕をアイが掴んでいた。
万力のようだ。
自分の血の気が引く音が聞こえた気がする。
アイと目が合った。
口元は笑っているくせに、目がまるで笑っていない。
「コウ君。ちょっと、こっちで話し聞かせてもらってもいいかな?」
「い、いやだ……」
君付けはやばい。
アイがマジギレしている証拠だ。
後ずさりしようとするが、アイの膂力が勝り、コウを引き寄せる。
クゥが横からコウが持っていた紙袋を取り上げる。
「食材確保!」
「あ、てめぇ!」
いざとなれば防御に使おうと思っていた紙袋を奪われ、動揺。
「いいからこいや。コラァ!」
「やめろ!助けてくれ!俺は悪くない!」
コウはそのままアイに引きずられ、部屋から退場した。
「助けに行かないの?」
「僕だって死にたくない」
「あたしだって死にたくないっす」
サキの問いに両者とも正直な意見を述べた。
三章に入ればあっという間にかけるんですけどね