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5-5 突きつけられる現実

次回でワールドロスト3も終わり

 炎の壁というのは自分には役に立たないと思っていた。それこそ、触れただけで消えるものだと思っていだが、予想よりも厄介だ。とにかく、次から次に生産される熱量はメツを通さなかった。触れたところだけは消えるが、手を離せば、すぐにその穴は埋まってしまう。弾丸を何発か叩き込んでみたが、貫通はするものの、グレイズの直前で蒸発した。どうやら、この炎の壁は本当に足止め目的でこちらを蒸し焼きにするものではないらしい。

「…………」

 それでも急がなくてはならない。この幼女を捕まえ、引渡し、コウの援軍に向かわなくてはならない。それにしなくてはならないことは――。

この炎の壁を突破すること。

幼女を気絶させること。

できるだけお互い無傷で済ますこと。

最後は無視してもかまわないが、動けないほどの攻撃を受けてしまっては、コウが負ける。あの神に一対一など……いや、彼ならやりかねない。時間稼ぎに徹するといっているが、自分で終わらせようとするのは十分に考えられる。

「仕方ないかな」

 深呼吸をし、体をリラックスさせる。そしてメツは駆け出した。

 白光で体全体を覆う。

 自分のファクターを全開にした強引な突破だ。普段、両腕での仕様にとどめているのは、消耗が激しくなるからだ。しかし、相手が時間を稼ぐだけでいいと考えている以上、ここで突っ込むしかない。

 メツのファクターはしっかりと炎の壁を突破させてくれた。しかし、解除した瞬間、すでにグレイズが目前まで迫っていた。

「やっと来たね!」

 幼女が頭から突っ込んでくる。頭突きだ。しかし、外見とは裏腹にそれは恐ろしいスピードだった。ロケットさながらの速度だ。空中で身体をひねって回避、そのまま、グレイズはメツの脇を抜け、炎の壁の向こうに姿を消した。

 舌打ち。

 これは想像以上に厄介だ。

 壁を抜ければ、グレイズが入れ替わるだけ。

 メツのファクターによる突破は消耗が激しい分、乱発できない。

 改めて自分の装備を検分するが、飛び込んでくるグレイズをとめる手段はない。

(殺す以外では……)

 しかし、そうした場合、七月席は怒りのままに力を奮いだすだろう。

 そして、厄介なことがもう1つある。

 場所が入れ替わってしまった。

 グレイズがコウの方向にいる。こうなるのであれば、出会った瞬間に引き返すべきだったか?いや、そうした場合、グレイズは手を抜かず、この密閉空間でファクターを全力使用しただろう。人間が天使や神に勝つことは至難の技なのだ。実際、勝利してきたコウも相手の隙や油断をついての勝利だった。子供とはいえ、いや、子供だからこそ無茶苦茶にファクターは使われた場合、対処できなくなる可能性が大きい。

 その時、ふっ、と炎の壁が消滅した。

 視界がクリアになり、倒れた人々とグレイズがしっかりと見える。

「メツさん。もうおわりだってさ」

 そう言うと幼女は手を振って背中を見せる。

「バイバーイ」

 相変わらずテンションは高くないが、その後、彼女は轟音をたて、大気圏突入中のロケットのように燃えながら姿を消した。

 グレイズの撤退は勝負の決着が付いたことを示していた。




 ロウアーはすでにズタボロだった。

 建物に背を預け、地面に足を投げ出している。

 意識を繋いでいることが信じられないくらいの状態まで痛めつけられた。

 もはや、体の間隔があちこち死んでいる。

 彼女の本来のファクターは強力で圧倒的すぎた。

 相性も悪すぎた。

 彼女は自分に課せられた制限全てを無視できた。

 攻撃、言葉、概念、それら全てを一切無視した。

 速さはすでに眼で追えなくなったし、防御した、という事象すらも攻撃に制限が加わったとみなされ、無視された。ガードしているのに、クゥが攻撃したかったところにダメージが入った。ノーガード状態で一方的に殴られ続けた。

 目の前の彼女は息一つ乱していない。

 同情するような眼差しをロウアーに向けていた。

「ガハッ」

 口から血が溢れる。内蔵をやられた。このままでは意識を失う。

 別にいいか?

 時間稼ぎなら十分にこなした。

「……強いじゃないか。クゥ」

 皮肉っぽく笑みを何とか作り、言葉を紡ぐ。

「これなら……君が絶対神を……アリスを目指せるよ」

 ロウアーの言葉にクゥが奥歯をかみ締める。

「あんたが!私に勝てるわけがないだろう!あんたと私じゃ、アリスとの『深度』が違うんだ!」

「……僕は……アリスを解放する……。絶対神なんてものにされてしまった君の妹を……僕が……。けど、これじゃあ、無理かな。……クゥ。君が妹を、僕が愛した人を解放してくれるのか?」

 吐血しながら言葉を紡ぐ。

 その様子にクゥは痛ましげな表情を浮かべる。

 自分を助けたい、と言ったところか。

 その様子を見てロウアーは確信。

 やはり彼女は絶対神にならない。

 アリスを解放するということは彼女が消えるということ。しかし、イレギュラーな事態で絶対神になってしまった彼女の解放を願う一方で、自分に家族を殺せるのかという葛藤を未だに続けている。

 そんな奴にアリスは任せられない。

 やはり、僕は彼女に勝たなくてはならない。

 思い知らさなくてはならない。

 クゥに、アリスに、我こそが神にふさわしい、と。

 姉をいたぶれば、アリスも心変わりを起こすかもしれない。

いや心変わりなんて関係ないか。

切り札をまだ自分は持っている。

まだ切るところではないが。

とりあえずはクゥに負けないようにする。

「ねぇ、僕をどうする?」

「叩きのめすだけよ」

「そうか」

 右腕の鎖を掲げる。

 それを見てもクゥは眉1つ動かさない。その行為は一切無駄だ。なにも自身に影響を及ぼすことはない。しかし、ロウアーの行動は彼女を標的とする者ではなかった。

「なっ!?」

 ロウアーの鎖が自身の鎖骨部を貫いた。鎖を自身に突き立て、言葉を紡ぐ。

「『クゥが僕に勝つのであれば僕は死ぬ』」

「なにやってんの!」

 急いでロウアーに駆け寄り、鎖を引き抜こうとするが、無駄だ。彼女のファクターは自身にしか作用しない。彼女のファクターは徹頭徹尾、自分の為のファクターなのだ。

「やめなさい!取り消せ!」

 クゥがロウアーの襟首を掴み、要求する。

「い、や、だ」

 ロウアーが口を歪める。

「僕は、彼女に届かないのなら死んで良い。僕の命は、僕の生は彼女を解放する為だけにある。それができないなら死んだほうがましだ。君は強い。僕より強い。僕が神になることを邪魔し続けるというのなら、僕は負け続ける。だったら、ここで死ぬ」

 クゥが目を見開き、ロウアーを見つめる。

 幼少の頃からの付き合いだ。

 彼女は優しい。

 身内が死ぬなど看過できない。

 だからこその葛藤だ。

 結果が誰も死なないように時間を稼ぐ、などと言った停滞策だ。

 世界が融合するなんて一大事はきっといい口実になっただろう。

 半端者め。

 臆病者め。

 僕は違う。

 あらゆる手段を講じて、彼女に、アリスに届く。

「僕はここで死ぬ。いやなら誓って」

 一体、今僕はどんな表情を浮かべているのだろうか?

 申し訳なさそうだろうか?

 勝ち誇っているだろうか?

 きっと、そのどれでもない。

 死人のような、生者を奈落へ引きずりこむような笑みを浮かべているに違いない。

「『もう僕の邪魔をしない。アリスは僕に任せる』。そう言って」

「そんな……!」

 クゥが目にいっぱいの涙を浮かべている。

 本当に僕はひどい奴だ。

 相手の優しさに付け込んでこんなことを言わせている。

 ロウアーが左腕の鎖をクゥの左薬指に巻きつける。

「言え」

 ロウアーの言葉にクゥが肩をビクリ、と震わせる。

「わ、わたしは……」

 迷う。

 言ってしまっていいのか?

 しかし、拒否すればロウアーは死ぬ。

「もう、ロウアーの……邪魔をしない……」

 駄目だ。嫌だ。彼はずっと昔から一緒にいたのだ。

 失いたくない。

 ましてや、自分のせいで殺させたくない。

 涙がこぼれる。

「アリスは……」

 妹をロウアーに任せる。

 嫌だ。

 なんで愛した二人が潰しあう様をみなくてはならないんだ。

「ロウアーに……」

 言葉が続かない。

 しゃっくりをあげながら、クゥは顔を両手で覆う。顔に薬指の鎖が当たり、なおさら惨めになり、嗚咽が大きくなる。

「言え。でなければ僕はここで死ぬ」

 ロウアーの言葉でクゥの顔が上がる。

 ロウアーは満面の笑みを浮かべていた。

「生きて入ればきっとまだチャンスはあるよ。けど死ぬってのは駄目だ。可能性がもうなくなってしまう。大丈夫。ここでクゥが言ってくれれば、まだ可能性はつながるよ」

 嘘だ。

 そんなことこの男は考えていない。

 ここでクゥの気持ちを全て潰してしまうつもりだ。

 それでも……クゥはその言葉に頼るしかなかった。

「まかせ……ます……」

 ロウアーの鎖が一瞬だけ、きつく巻きつき、誓ったということを強調した。

 別にファクターの力を使ったわけではない。

 ただ強調しただけだ。

 お前は言ったのだ、誓ったのだ、と。

 クゥが泣き崩れる。

 それをロウアーは胸で受け止めた。

 もう両手も動かない。

 だから初めから言っていた。

 彼女は絶対に自分に勝てない、と。

(ま、ここまで痛めつけられれば、引き分けだけどね)

 ロウアーはそのまま、意識を闇に沈めた。




 逃げ惑う。

 それ以外に方法なんかなかった。

 ファクターも全て防御に回した。

 何度も迫り来る炎を必死でかわし、あちこちが黒こげだった。

『ストライク・バンカー』は焼け爛れ、使い物にならなくなった為、投棄した。右手には現在、『インテグラ』が握られている。

「どうした!逃げ惑うだけかぁ!?」

 はじめ袋小路のようにビルがあったが、その全ては焼けて崩れた。

 バーンズはアイがいるテナントを除き、全てを焼き尽くしていた。

(まだだ……!)

 コウは逃げ惑うように見せて、まだ諦めていなかった。

 じっくりと、バーンズの位置を誘導していた。

(ほう?)

 コウの様子を見てバーンズは満足だった。

 あの男に諦めという字はない。先ほどは恐怖で足を退いたくせになんて打たれ強さだ。やはり、自分の目に狂いはなかった。それでも攻撃の手を休めることはしない。火炎放射よろしく、あたりに炎をまいていく。それに巻き込まれれば、融解することは必死だった。

(バカバカ撃ちやがって!)

 必死に左肩の『ハミング・バード』を守る。これを失えばまさに手詰まりだ。最大の攻撃力を生む手段はまだある。時間は少ない。足元がすでに灼熱だ。ファクターをフル稼働し、融解部を喰いながら地面を踏む。ゆっくりとだが確実に、バーンズはコウの誘導している方向に歩みを進める。しかし、ここでコウの目が霞んだ。酸欠だ。体がグラつく。酸素マスクや通信機なんてとっくの昔に焼け落ちている。それがいけなかった。

 炎が目の前に迫る。

 しかし、炎はコウの目の前で逸れた。

 いや、阻まれたというべきか。

 何が起こったかわからなかったが、幸いとばかりにコウは距離をとる。

 対して、バーンズも今のは予想外だった。

 わざと攻撃をそらすなど、自分はするつもりはなかった。

 視線をアイに向ける。

 当人は緊張した面持ちで攻防を見つめているだけだった。

(無自覚だが……目覚めつつはあるか)

 面白いことになってきた。

 視線を戻すとコウが見当たらない。

「上か!」

 見上げると太陽を背にコウが落ちてきていた。

 隙を見せた瞬間の嗅覚は強い。

 ファクターを使える時間はもう10秒ほどしかない。

 ここが最後のチャンスだった。

「喰らえええええええええ!」

『ハミング・バード』がコウの赤に喰われ、そのまま打ち出される。極大の質量で打ち出された赤き嘴がまっさかさまにバーンズに落ちてくる。それは途中で嘴をあけ、標的を飲み込まんとしていた。

 バーンズは回避行動をとり、その嘴を紙一重でかわす。

 赤嘴が地面を喰い、めり込む。

「まだだ!」

 コウの言葉と共に地面から6振りの赤剣が姿を表した。戦いが始まる前に隠しておいたアグニートだった。灼熱で所々、融解していたが、赤で覆ってしまえば問題はない。初めから赤嘴は交わされても仕方がないと思っていた。本命は地に埋もれていたアグニートを赤嘴で伝い、赤剣へと変えることだった。

 バーンズの周囲を赤剣が取り囲み、上から『インテグラ』を赤に染めたコウが強襲する。逃げ場はない。

 6剣がバーンズの体を貫く。

 そして、コウのインテグラがバーンズの額に触れた瞬間だった。

「――ッ!?」

 喰らう感触がない。

「いい攻撃だったぜ!」

 バーンズはすぐ傍にいた。

 腹に蹴りが入り、アバラを叩き降りながらコウを吹き飛ばす。

 おまけといわんばかりにコウの四肢が燃えた。

「が、あああああああああ!?」

 絶叫。

 時間が切れ、再生能力もすでに役に立たない。

「ああああああああああ!」

 四肢が燃える。

 皮膚の油を焼き、感覚がなくなっていく。

 それでもバーンズをコウはにらんだ。

 彼がぶれて見えるのは、ダメージにより、視界がぼやけるからではない。

「範囲攻撃に見えて、攻撃は結局一点に絞ってしまう。それでは回避は簡単だ。特に俺のような神はな」

 そう言うと、ぶれていたバーンズの体が1つになった。

「蜃気楼くらいは知っているだろう。熱で俺の体が少しずれているように見せかけた。ま、簡単な手品だ。興奮しても頭は冷静に。戦いの基本だぜ?」

 そういいながら、バーンズはコウに近づく。

 もう打つ手はない。

 何もかも吐き出した。

「さ、て」

 バーンズが立ち止まる。

 コウは死を覚悟した。

「そこまでよ!」

 凛とした声が戦場に響き渡った。

「……ハヅキ?」

 コウが信じられないといった風に彼女の名を呼んだ。




 ルウラに対ビに飛ばされた後から状況は最悪だった。

 対ビの前に眼鏡をかけた天使がいた。

 そいつは「別に邪魔するつもりはございません」と言った。

 しかし、天使がここにいるというだけで、対ビの機能は麻痺していた。

 続けて天使はこういった。

「私の主からはこう仰せ付けられております。『絶対に手出しするな。動けるやつがいてもほうっておけ』。ですからお好きにどうぞ」

 その言葉がなくともそうするつもりだったが、車を引っ張り出し、コウが戦っている戦場へ赴いた。愛用のライフルも持っていなかった。とにかく駆けつけたかった。

 孤独に戦っている恋人をほうっておけなかった。

 辿り着いたその瞬間は恋人が手足を燃やされているところだった。

 その時点で理性が消し飛ぶくらいの怒りを覚えたが、何とか押さえ込んだ。

 今の自分の武器は言葉しかない。

「あなたが七月席?」

「いかにも」

「ハヅキ!逃げろ!」

「お姉ちゃん!逃げて!」

 この世で最も愛している二人からの言葉を無視する。

「……私の恋人をいたぶってくれたみたいね」

「まぁな」

 不敵な笑みを絶やさない七月席。

 前情報では闘いを愛する神と聞いていた。

「闘いには満足していただけた?」

「いいや、もう少し楽しみたいと思っていたところだ」

 コウに止めを刺すつもりだろうか?

 いや、それならばとっくの昔にしているはずだ。

 七月席に外傷はなく、コウは満身創痍。

 一方的な闘いだったということが見て取れる。

「貴方の目的は?」

 ハヅキの言葉にバーンズが感心したように口笛を鳴らす。

「ほお。何かに気づいているようだな。言って見ろ」

 バーンズの促しに答える。

「あなたは一方的な戦いに満足する器ではない。それにしてはアイを人質にしている。コウをいたぶっている。何か考えがあるとしか思えない」

 男は頷き、語った。

「この男はこちらで預かる」

 一同が驚愕した。そんなことをして何の意味があるのか。

「俺は闘いを愛している。だが、どいつもこいつも腑抜けばかりだ。だから俺が自分で育てることにしたのさ。そのほうが手っ取り早い。こいつは将来有望だ。戦いの才能がある」

「私の恋人を、預かる、ですって?」

 今の言葉でハヅキは完全に切れた。

 面と向かってこういわれたのだ。

 お前はこいつの才能を潰している、と。

「ハヅキ!冷静になれ!」

 コウが四肢の痛みを堪えて叫ぶ。自分の恋人は起こると何をしでかすかわからない。

「そんな様子だから駄目なんだろぉがよ」

 バーンズが後頭部をかきながら呆れる。

「どの道、お前ら敗戦国なんだ。まともに闘えるやつは俺に勝てない。十二月席も……ロウアーに屈服している頃だろう。勝敗はわからんが、な。勝負は決した。お前たちができることなどなにもない」

「あるわ」

 ハヅキが胸を張って、バーンズの言葉を否定。

「私が換わりになる。人類一の頭脳よ?申し分ないと思うわ」

 女の言葉に七月席が笑う。

「やめて!お姉ちゃん!」

「なに考えてんだ!七月!ハヅキのいうことを無視しろ!俺を連れてけ!」

「なんなら、私の身体を好きにしてもいい。スタイルも見てのとおり、中々のものよ」

「魅力的な申し出だ」

「「このセクハラ神!」」

 コウとアイの言葉にバーンズが鼻を鳴らす。

「おれだって男だ。あんな巨乳ちゃんの申し出は受けたくもなる」

「ぶっ殺すぞ。てめぇ!」

「殺されかかった奴がなに言ってんだ」

 そういいながらバーンズはハヅキとの距離をつめる。

 極至近距離で両者は退治した。

「だが駄目だな」

 ハヅキの眉が跳ね上がる。

 掌がバーンズを打ち据えようと飛び掛るが、難なく受け止められた。

「4月席は早めに潰せ。あいつの目的は停滞とそれによる堕落だ」

「!?」

 耳元で思いもよらぬ情報がもたらされた。

「あいつは絶対神である娘が作った世界の存続を望んでいる。そして世界の限界は近い」

「あなた……」

 バーンズはハヅキを解放した。

「悪いようにはしない」

「信用を買うための情報提供?」

「どうとでもとるといい。だがお前の傍にいるとあの男が駄目になるというのは本当だ。あの男が未熟なままなのは……お前の責任なんだぜ?」

 バーンズの言葉にハヅキは口を紡ぐ。

 どの道、この状況はすでに覆せない。

「バーンズ様」

 いつの間にかハヅキの背後にあの眼鏡をかけた天使がいた。とっさに振り向くが、アレキはハヅキを無視し、バーンズに近寄ると、何かを耳打ちする。

 それを聞いてバーンズは頷く。

「ロウアーとクゥが引き分けたらしい。ロウアーは気を失っている」

 バーンズが振り返り、ハヅキを見つめる。

「好きにしろ」

 そう言うと彼は項の首根っこを掴み、爆炎と共に上空に飛翔していった。

 アイとアレキもいつの間にか消えていた。

(瞬間移動?)

 そうとしか考えられない。

 とにかくこれでまたも完全なる敗北を対ビは喫した。

 戦える戦力はこれでメツ1人。

 早急に手を打たなくてはならない。

 それ以上に……。

(何も出来なかった)

 今回は状況に振り回される一方だった。

 後悔からは早急に立ち上がらなくてはならない。そんな暇もない。

 しかし、それでも、ハヅキはこの一時を後悔の時間に当てた。




 バーンズはコウを城下の牢屋に放り込むと自室で深く椅子に腰掛けた。

(焦っている……か)

 自分の手をかざし、眺める。

 一瞬、バーンズの手が透けた。

(焦りもする。……俺に残された時間も少ない)

 そうしているとアレキが部屋に静かに入ってくる。

「バーンズ様。新たな神が顕れました」

「どいつだ?」

「八月席です」

 雷光の神

 次なる神は光を支配する神だった。

 バーンズは笑う。

 奴は楽しませてくれそうだ。


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