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5-2 導火線

もうすぐお正月です。爆発しろ!

 あの敗北から3日がたち、それにもかかわらず、七月席から何のリアクションもなく、ビジターもこれまでとなんら変わらない調子で顕れていた。

 コウは屠ったビジターを見回す。例の亀型ビジターがあたりに打ち捨てられていた。

 肩を回して、リラックスしようとするが上手くいかない。

 あの日以来、『ストライク・バンカー』『ハミング・バード』を担いだフル装備ですごすことが基本になっていた。加えて断熱材を用いた新しいジャケットを着ているため弱冠、動きづらい。メツの装備は『アローヘッド』2丁に加え、電極により相手を感電させる電気銃を両腰に二丁。ナイフを肩口に1、後腰に2、計3本を装備するようになっている。

「相変わらず重そうっすね」

 傍らにいたクゥがコウの肩を軽く叩く。

「はっ。軽いもんだぜ」

 あの日以来、クゥもビジター狩りに参加するようになった。アイのことを気にしているのだろう。それでも「それだけか?」と問いただした際、彼女は珍しく真面目な顔で「あいつは私を舐めすぎたっす」と言った。頼もしい一言だ。それぞれがどうやら屈辱を晴らすことに決めているらしい。

 1つの懸念としては、サキがあれから目を覚ましていないということか。クゥ曰く、変化しつつあるファクターを強引に使用した反動であるとのことで、命に別状はないが、意識がいつ戻るか不明だ。とにかく泥のように眠り続けている。ファクターのことに関しては現在、クゥが一番、詳しいので彼女の言葉を信ずるほかない。

『こちらアルファ2』

 メツがコールサインで通信を入れてきた。

 アルファ2は人類で神に対してのカウンターとして認められたという証でもあった。

 ちなみにコウはアルファ1である。

『こちらアルファ1。なんだ?』

 未だにこのコールサインで呼ばれることになれない。軍人のようだ。いつの間にか人間側の戦力としてカウントされていることに不快感を覚える。お偉方は金だけよこして勝ちを強要してくる。前回の敗北でかなり対ビの司令は上から絞られたらしい。まだあったことはないが、挨拶くらいはしておくべきか。そんなことを考えつつ、メツの言葉を待つ。

『民間人がいた。20人。かなりの団体だ』

『はぁ?この辺、一帯は避難が済んだはずだぜ?』

『それが……厄介なことをいっている。彼らはどうして自分たちがここにいるのか把握していない』

『……誰かに連れてこられた?』

 無言の肯定が返ってきた。

 嫌な予感しかしなかった。

『コウ。僕は早急にこの人たちを送っていく』

『ああ、そうだな。相手さんはかなりせっかちなようだぜ』

 取り越し苦労ならそれでいい。いっその事、馬鹿な団体が対ビの戦闘を見たいという理由で居座ってくれていたほうがまだ気が楽だった。すぐさま、一般隊員を撤退させることを轟に連絡し、深呼吸する。

「来るかな?」

「ええ、間違いなく来るっすね」

 そう言って、クゥが自分のスマートフォンをコウに見せた。

 差出人はロウアー。文面には短くデートの場所が書かれていた。以前と同じ各個撃破の様相。ここまでして出てこないわけがない。

「あたしは先日の屈辱を晴らしにいってくるっす。コウ君は……」

「メツと合流して、団体さんを逃がす。場合によっては、適当に時間稼ぎしたら逃げる。まぁ、腕の一本くらいは噛み千切ってやりたいところだけどな」

 どんな形でも目にもみせなければコウ自身、納まりが付かなかった。それでも今は戦うときではないし、隙を狙うにしても足手まといがいては失敗する確率が大きい。対等の条件以上に持ち込んでおかなければ惨敗する。メツは戦力としては十分な力を現在持っている。二対一。この状況に持ち込むことが肝要だ。この状況になってはじめて戦ってもいいといえる。前回のような奇襲をこれ以上、許さない為にも、今回の戦いは絶対に勝つ。

 懸念として、配下の天使が介入してくる可能性はあるが、無視してもいいだろう。あの神は戦闘狂で、自分の戦いに故意に第三者を絡ませるようなことはしないだろう。

「了解。それでは健闘を祈るっす」

 クゥがふざけた感じに敬礼をコウに示す。コウもそれに応じると、クゥは飛び去っていった。出来るだけ早くメツと合流する必要がある。




 バーンズは移動を開始したコウ達の場所を熱感知することで把握していた。場所は雑居ビルの一室だ。どうやら、あの人類大敗北の一件以来、この町は避難が進んでいるらしい。

「ふむ、悪くはないな。無難な動きだ」

「ちょっと!」

 赤いドレス姿のアイが抗議の声を上げる。体を縄で縛られており、身動きが取れない。

「あたしの扱いは何なんですか!」

「人質だろぉがよ」

 この期に及んで何を言っている、と言外に付け足され、アイはなお抗議した。

「あたしなんかいなくても!貴方だったら特に問題ないでしょうが!本物の悪党か!」

「いやいや、君の存在には十分な意味があるんだぜ?嬢ちゃん」

 アイが理解不能、といった顔をするので、バーンズは解説を始めた。

「神、天使、人間に限らず、希望を持っているやつのほうが強いのさ。目的意識といえばわかりやすいか?特にホレ。あいつら、嬢ちゃんのことに関してはかなり御執心になってくれそうじゃあないの。大ピンチで負けそうなとき、俺が嬢ちゃんに何かする仕草をしてみろ。あいつら必死になって立ち上がってくるぞ。必死になって俺に立ち向かってもらわなきゃ困るんだよ。俺が面白くない」

「やっぱり悪党だ」

「おいおい、嬢ちゃんが返せ、っていうもんだから一旦返ってきてやったんじゃねぇか」

 心外だ、と言った風に肩をすくめる。

「俺は少しでもあいつらが力を出せるように、って応援しているんだぜ?」

「挑発の間違いでしょうが」

 アイははき捨て、仏頂面を作った。

 この少女は本当に面白いやつだ、とバーンズは内心、アイを気に入っていた。娘といい友達になってくれるのであれば、もう少し拉致したままでもいいか、と物騒な考えも頭の隅にあった。とにかく神にあまり物怖じせずに意見を言う者は貴重なのだ。とりわけ、自分は強さによって今の地位を築いただけに、畏敬の念を持つものが多すぎて、他者との関係性という点において刺激はあまりない。

(最高に昂ぶったのは……やっぱりあの時か)

 妻が自分のことを受け入れてくれた時が一番、刺激的だった。あれは戦闘とは違った趣があった。

 一番、動揺したときは、娘が生まれたときだ。同時に妻も失い、喜べばいいのか、哀しめばいいのか、わけが分からなくなった。

 戦闘、私生活を含めて一番、萎えたのは四月席との一件か。

 ふむ、意外に闘いが関わってこないな。どうも安定しちまったものだ。親になって長いからだろうか?若い頃はもっとギラギラしていたものだったが……。

「…………この間、言ったことは本当?」

 物思いにふけっていると、アイがそっぽを向きながら問うてきた。

「ああ、本当だ」

「どうして……私に教えたの?」

 先日、この少女には自分が知っていることの多くを話した。あの救えないお家騒動をしている連中には教えていないが、自分はこの一連のバトルロイヤルに関しての事情をかなり詳しく知っている。少なくとも、四月席がわかっていることくらいには。

「俺たちばかり知っていても不公平だろぉがよ。言わばお前たちはあいつらに巻き込まれた立場なんだからな」

「けど!」

 自分を見上げる少女の瞳は揺れていた。完全に自分の知りえたことをもてあましているといった感じだ。それもそうだろう。彼女にはこの世界の中核で起こっていることを教えたのだ。場合によっては、大きな混乱を引き起こす。

「そんなに気負うなよ。この情報を生かすも殺すも、お前ら次第。場合によっては武器になりうる」

「……これ話すことって、誰かに相談してもいいことなのかな?」

 アイの言葉に思わずバーンズは噴出した。

「はは。中々、面白いことを敵の俺に相談するものだな」

「だって……私、馬鹿だから……」

 拗ねる様に唇を尖らせる。そんなアイの肩を叩いてバーンズは励ましの声をかけた。

「自分のことをしっかりと把握することはいいことだぜ。拗ねるこたぁない」

「拗ねてない!このセクハラ神!」

「おい、やめろぉ!アレキにこの間、思いっきり怒られたんだぞ!」

「……なんかやったんですか?」

「え、あーいやー、町で夜にね。お酒飲んでね。ちょっとね……」

 軽蔑のまなざしを感じ、バーンズは大きく咳払いをした。

「あーうん。何にもしてないぞ。私は」

「うさんくさっ。私とか言っちゃってるし」

「やめろよ!そう言う風に言われることがおっさんは一番傷つくんだぞ!本当に嬢ちゃんくらいの年頃の娘はそういうところ無神経だよな!」

「どうせ、あたしは元々、無神経ですよ!」

 開き直ったアイが噛み付かんばかりにバーンズを睨む。

 ふっ、とバーンズが突然、アイから視線をはずした。

 先ほどまでのとっつきやすい表情から一変して、苛烈な炎のような闘争心をたぎらせた笑みを浮かべる。

「そろそろ、か」

 コウ達が、バーンズが望む位置に移動し始めたのだろう。

 ここで私が大声を上げれば、コウたちは気づくか……。

 そう思ったアイをバーンズは視線を向けることで、まず黙らせた。

「下手なことは考えるなよ。嬢ちゃんが何かすれば、追い込みが上手くいかず、思わずあっさりとやっちまうかもしれない」

 アイの口の中はカラカラに乾いていた。緊張によるものだ。目の前の神が化け物であると実感できた。質量を伴うような空気の重さだ。濃厚に、どろどろと体中にまとわり付いてくる。

 アイにできることは人質の役目を果たすことだけだった。


それではまた来週!

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