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1-2 変化する世界

私生活が忙しくてなかなか続きが…

 コウは咆哮した。

 右手に握った剣を振り下ろす。

 銃撃の効果が薄く、接近戦が有利となったこの戦場は彼の独壇場だった。

 赤熱したアグニートがゴリラ型のビジターを切り裂いた。

 馬鹿力で思い切り振り抜いたため、アグニートが使い物にならなくなっている。

 すぐに放棄し、新しい剣を腰に連結されたユニットから取る。

 残りは5振り。

 気分が悪い。

 自身のトラウマであるキューマーを連想させるビジターが目障りで仕方がなかった。

 頭を虫にすれば、そのままキューマーになるビジターに心底、吐き気を覚える。

「A地点クリア!」

 通信機に叫ぶ。

「良くやった!次はC地点に急行してくれ!」

 轟隊長からの指示がすぐさま帰ってきた。

 メツはB地点で戦っている。

 コウは駆け出す。

 人間離れした脚力は自分の体を考えたとおりに運んでくれた。

 市街地を走る。

 すでに避難は完了している。

 顕れたビジターは9体。

 一度に顕れる数が多くなっている。

 コウは三階建ての雑居ビルを跳び越えると、眼下にビジターを捕らえた。

 数は2。

 先ほどまでは4体だったが、他の隊員がすでに倒した後のようだ。

 一瞬でこの区画の状況を頭に叩き込みながら着地。

「おおおおおおおおおおお!」

 コウの咆哮にビジターが注意をこちらに向ける。

 地を蹴る。

 ビジターが力任せに右腕を振り下ろすが、コウにはそれが止まって見えた。

 舌打ち。

 こんな雑魚と戦って何になる。

 力任せにその繰り出された拳ごと、ビジターを真っ二つに叩ききる。

 縦に割られたビジターの間を縫って、コウは次のビジターに襲い掛かる。

 明らかに目の前のビジターは自分を恐れている。

 逃げる素振りを見せたところで、コウはやる気を失ってしまった。

 スピードを落としつつ、接近。

 軽く足払いをかけてビジターを転ばせ、足で背を踏みつけて動きを奪う。

「B地点は?」

 コウの通信にオペレーターの女性が応える。

「クリアよ。C地点は?」

「ビジターを一匹捕獲。研究用にするなら捕獲用の檻を、興味ないなら処分します」

「捕獲よ。大事なサンプルですもの」

「了解。早く来てください。足がしびれる」

 足元のビジターを見ると完全に抵抗をやめていた。

 どうやら、腹をくくっているらしい。

「大変だな。お前らも」

 ため息。

 ビジターは自分の意思でこちらに来ているわけではないらしい。

 こちらに来たショックで一時的に凶暴に鳴っているというのが一般的な見解だ。

 コウは自分がどうしていきなりやる気をなくしたのか分析してみる。

 こいつが戦う気をなくしたからか?

 違う。

 まるでこいつが美味しく見えなかったからだ。

 逃げようとした様を見た瞬間に、味が落ちてしまった気がして戦う気がうせてしまった。

「人的被害は?」

「ないわ。みんな随分と慣れたものね」

 オペレーターの声に安堵する。

 どうやらメツは無事だったらしい。

 親友とは病院を退院してもまともに話せていない。

 何度か顔は合わせているのだが、口から出るのは非難の言葉ばかりだった。

「確かに……慣れましたね」

 世界の理が丸ごと変わろうとしている。

 天界と人間界の融合は着実に進んでいる。

 ビジターの出現数が多くなってきていることが、それを実感させてくれた。

 今は何とかどこかの街が崩壊するということは避けられているが、どこまでそれを続けられるのか?慣れているといっても、ゲリラ的に顕れるビジターに対しては後手に回らざるを得ない。

 何しろやつらは何の前触れもなく突然、空間を飛び越えて顕れる。

 強さが足りない。

 五日前、ロウアーに負けた。

 こんなことで自分の日常を守れるものか。

 あちらがその気になればいつだって自分を潰せると示されたのだ。

 胸中にある感情は焦りだ。

 それでもコウには有効な手段が思い浮かばない。

 自分が人類最強である。

 戦闘の補助はいくらでも頼める。

 しかし、戦闘能力の底上げは地道にするしかない。

 自分が最強であるということはほかに頼る者が居ないということだ。

 ルウラが居らず、クゥは当てにならない。

 プレッシャーがじりじりと真綿のように精神を締めつけ始めていた。




 高坂メツはほんの数日前まではただの人間だった。

 そんな人間がもう戦場に居た。

 ファクターを持った服従因子が効かない人間。

 それだけでメツには人類側にとって価値があった。

 コウのみが人間でまともに戦えるという状態は背水の陣からのスタートだったのだ。

 ここに顕れた新たに戦力となりうるもの。

 メツには政府の高官たちが直々に頼みに来たのだ。

「戦ってくれ」

 メツはその返事を二つ返事で受け入れた。

 海外で仕事をしている両親には政府からの説明もあり、思った以上に簡単に受け入れられた。母は泣いていたが、父には激励をもらった。

 いい両親だと思う。

 サキのことは伏せておいた。

 女の子を連れ込んだということはさすがに言えなかった。

 三日前から訓練を開始し、そこでコウに始めてあった。

 いつものように声をかけると、彼は一瞬、非常に驚いた表情を浮かべ、次に苦虫を噛み砕いたような表情を浮かべた。

 次に怒鳴り声が飛んできた。

 予想はしていた。

 コウがメツの参戦に対して否定的になるということは必然だ。

 しかし、世界が変わりつつある今、自分のような人間は貴重だ。

 何かが出来るのであれば、誰かを助けられるのであれば、自分は戦いに身を投じる。

 メツはこういう考えが出来る男だった。

 彼に与えられたファクター。

『勇猛消滅』《ロスト・ストライカー》

 手で触れた物体や自分に影響を及ぼす要因を消滅させる強力なファクターだった。

 鉄壁といわれた二月席の呪いを消し去ったのだから、性能的には申し分が無かった。

 しかし、現実はそれほど甘くはない。

 コウにはあった運動能力の上昇。

 それがメツにはまるで無かった。

 手で触れることが前提であったため、接近戦で力を発揮するファクターであったが、常人並みの運動能力しかないメツがそれを使える機会があるのかは疑問だ。

 訓練を開始して間もない彼は殆ど一般人な為、他の対ビ隊員のほうがまだ強い。

 コウ程の力を持ち得なかった。

 この先、彼が神に対抗することは出来ない。

 上層部はその落胆を隠しもしなかった。

 メツ本人には伝わっていないものの、対ビ実働部隊隊長である轟に対する上からの要望は目に見えて減った。

「よぉ、ひよっこ。腰を抜かしたか?」

 地面に腰を下ろして顔を青くしているメツに轟はなるべくリラックスするように話しかける。

 慎重が2メートルに届かんばかりの大男であり、豪胆な性格である彼は下からの支持も厚い。幾つもの紛争地帯を転々とした末に故郷である日本に戻ってきたという話だ。

 事実、彼の指揮は正確であったし、下のものに対しても細やかな配慮が出来るいい上司だった。

 メツは立ち上がろうとするが、足がすくんで立てない。

 熱剣アグニートを一本と、あまり役に立たないとわかっていても誰しもが携行している9mm拳銃は戦場に着くまでは頼もしかったが、戦闘に入った瞬間に心もとないものに変貌した。

 あの巨腕にこんな剣で真正面から立ち向かえというのか?

 他の隊員の神経が信じられなかった。

 それでも戦闘中はアドレナリンの作用で腰を抜かさずには済んだ。

 戦闘が終わった瞬間に今の様だ。

「そのままでいい。初めての実践だったからな」

 生死の境目にたったことはこれが初めてではない。

 しかし、実際は寝ていただけだ。

 コウが全てのお膳立てをしてくれた。

 実際に戦いに出れば腰を抜かした。

 情けなくて泣きたくなってくる。

 メツは初の実践、後方で震え上がっていただけだったのだ。

「新兵なんてのはそんなものさ。特にお前はついこの間までただの高校生だったのだからな。今日、感じた恐怖を良く覚えておけ。この恐怖を覚えている限りは無茶をしない」

「それでも……僕はもっと何かが出来ると思ったんです」

 親友と同じような力を持っているのだ。

「あいつとお前では力に目覚めた動機が違う。気に病むな」

 コウは敵を排除するためにファクターに目覚めた。

 メツは愛する人を守るためにファクターに目覚めた。

 元々、戦いに向いた力ではないのだ。

 そう轟は解釈していた。

 そして、もう一つ懸念がある。

 ファクターでは先輩であるコウが頑なにメツへの指導を拒んでいるのだ。

 ルウラは北欧へ行っているし、クゥは元々、放浪癖があるのか対ビにあまり居ない。居たとしても部屋にこもって一切外界からの接触を断っている。ただ部屋の鍵は開けっ放しのようで、コウの話ではゲームやアニメの為に引きこもっているという話だった。

 大体、あの神は人間に対して好意的ではあるが、必要以上の協力は絶対にしない。

 残ったサキ。

 公式には行方不明として処理されているが、轟は実働部隊隊長という立場もあり、メツの家に居るという情報は掴んでいる。対ビジター対策室に留まらせるのは危険すぎた。不発弾を懐に抱え込んだままになる。万が一のとき、下手をすれば彼女の呪いで危害が及ぶ危険性がある。サキ自身、メツのことを想っているのだし、メツの家においておくことが一番安定すると思われたのだ。

 そして、もう彼女を戦闘の場に立たせたくないというメツの要望。加えて、あの見境なしの呪い。どう考えても皆と一緒に戦場へは出ない方が良い。前回の戦いでコウが彼女に勝てたのも、その間隙を縫って力を削ぎ落とす事に成功したからだ。

「あいつは特別だよ。異常と言い換えてもいい。この間までただの高校生とは思えないほどの闘争心だ」

 事情を知っているメツの表情は未だに暗い。

 幼少の頃にコウは人を殺している。

 そのせいだろうか?

 自分を否定するものに容赦はしない。

 自分の日常を脅かすものは排除する。

 その辺の割り切りは怖いくらいだ。

 壊れているといえば、コウは幼少の時代にとっくに壊れている。

 自分にはそういったものは何もない。

 ただの一般的な学生だ。

 そんな自分がこの先、戦えるのだろうか?


続きは一週間後!

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