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4-6 クゥの天敵

何とか間に合った!

「クゥ!戻って!私は適当な所に降ろしていいから!早く戻って!」

 上空に離脱したことで服従因子の影響を脱したアイの懇願を無視する。

 お姫様抱っこしてあげているからテンションが高いのだろうか?

 そう思うことにして自分を七月席に突撃させようとするアイの無責任な言葉をスルーしようとした。攻撃力のみで計るのならば、七月席は間違いなく神の中でも最強。手札をさらしたくないクゥには荷が勝ちすぎる相手だ。

「クゥ!」

 駄目だ。彼女はまるで冷静ではない。

 説明が必要なようだ。

「駄目っすよ。無理っす。先手を取られた。その時点で我々の負けっす。私も死にたくないっす」

 簡潔に敗北の事実を述べる。

 大体、七月席の攻撃範囲が広大すぎる。街中で降ろして戻ったとして、アイが街ごと焼かれることになれば、コウの信頼を裏切ってしまう。それだけはクゥも避けたかった。

 クゥが冷静に告げたことが効いたのかアイはそのまま押し黙る。

「……コウ君が逃げることを優先すれば生き残ることは可能かも知れないっす」

 アイの表情は暗い。

 コウが逃げるということが信じられない。それに関してはクゥも同じことを考えていた。あの青年は常に戦うことで道を切り開いてきたのだ。その実績は闘いに対してある種の進行のようなものを彼に与えている。だからこそ、ただでさえ無謀な戦いに今まで身を投じてきた。

 しかし、その信仰。今は自殺だ。

(それに七月席はコウ君を殺さないかもしれないっす)

 クゥがそう思うのには根拠がある。

 七月席は基本的に敵対しうる相手を好む。元々、強力な個体である彼は満足のいく闘いができる相手がいないのだ。戦いを信奉する彼が最高に楽しみにして戦った四月席は彼にとっては唾棄すべき存在だったため、途中で戦いをやめてしまった。後は暇つぶしをするように敵対する者にちょっかいをかけ続けていた。彼は四月席と戦って以降、叩きのめしはするが、どの神も殺していないのだ。それはまるで自分に敵対し、満足のいく戦いをさせてくれるものを選定しているかのようでもあった。

 希望的観測に満ちた見解だが、これに当てはめるのであれば、コウはうってつけだ。

 なぜなら彼はまだ自分のファクターの本質を理解していないし、受け入れもしていない。

 もし理解し受け入れさえすれば、化ける。

 その可能性を摘み取ることはない、と思いたい。

 コウが命の危機にさらされているのは換わらないからだ。

 そんな考えをしながら、空を飛んでいると、足に何か硬質なものが絡みつく感触があった。

 嫌な予感がし、すぐさま足を確認すると、予感は確信に変わった。

 普段はさわやかな笑みを浮かべる彼は陰鬱とした表情を浮かべ、クゥを見つめている。

 いつの間にかロウアーが背後に立っていた。

 空の上で立っていた。

 そう形容するしかなかった。

 彼の足は地面の上を歩いているかのように踏みしめられていた。

『言語実現』《ワード・アジャスト》

 発した言葉をそのまま実現するロウアーのファクターだろう。

 それ以上に目を引いたのは彼の両腕だった。

 は重厚な手枷があった。

 手を拘束はしておらず、本来、両腕を縛るはずの鎖は途中で切れて垂れ下がっており、右の鎖はロウアーの傍で重力に従い、宙ぶらりんとなっている。

 左の鎖はクゥの足に絡みついていた。

 しまった、と思ったときにはもう遅かった。

『この鎖からは逃げられない』

 ロウアーの言葉と共に一気に鎖が拘束力を強め、クゥは思わず苦痛に顔を歪める。

 この鎖はまずい。

 ロウアーの本来の武装、否。

 ロウアーのマテリアル。

 マテリアルは神だけしか使えないというわけではない。

 神レベルの力が無ければ使えないだけだから、神の象徴として扱われているだけだ。

 ロウアーが本気のときにだけ使用する武装。

 クゥは必死で脱出方法を考えるが、思い浮かばない。

 この天使とは相性が悪すぎる。

 ファクター云々の前に幼馴染の彼はクゥの癖を知り尽くしていた。

 子供の頃から、本気の喧嘩では一度も勝ったことがない。

 ロウアーは紛れもなく本気だった。

「……離せ。ロウアー」

 精一杯すごんで見せるも、こうなったロウアーには通用しない。わかっていてもついやってしまう。昔からの悪い癖だ。

「駄目だ。僕は僕の望みをかなえる」

 濁ったどぶ川のような目でクゥを見つめる。

 その目はよくない目だ。もう死者と呼んで差し支えないような彼女にとらわれた目。

 それ以上に、どうしても彼と彼女の関係に勝てないという事実を突きつけられているようでクゥはロウアーから目をそらし、俯いた。

「クゥ?」

 抱きかかえていたアイと目が合う。

 ここで引くわけにはいかない。

 胸の中にいる彼女は友達だ。

「大丈夫っすよ。アイだけは、必ず……」

『無理だ。臆病者のお前は誰も助けられない』

 ロウアーの言葉にビクリ、と肩を震わせてしまう。

 臆病者。

 駄目だ。

 ロウアーの言葉を聞いては駄目。

 ああ、それでも。

 この足に彼の鎖が絡んでいる時点で私は……。

命名いのちなを使うかい?」

 ロウアーの言葉に思わず従いそうになる。

 あっちが本気なれこっちも本気になればいい。

 いや、使えばアイはきっと死んでしまう。

 クゥのファクターはクゥの為にあるものなのだから。

 それを見越して、この場で出てきた。

 諦めの気配を察したのか、ロウアーが言葉を紡ぐ。

「もう詰みなのを悟った?それじゃあ、『おやすみ。クゥ』」

 その言葉を聞いた途端、クゥの意識は闇に消えた。

 ロウアーの鎖はクゥを開放しなかった。

 クゥの支えがなくなったアイが空中に放り出されるが、ロウアーの左の鎖が彼女を捕縛した。

「離せ!クゥに何をした!離せぇ!」

 ロウアーは鎖で縛られてなお暴れるアイを見て目を細める。

 神の服従因子には逆らえないが、天使の服従因子はまるで意に介していない。

 元気なことだ。

 彼女は可能性の塊だ。

 手元におけると考えればこの取引は損ではない。

『僕は空中を歩けやしない。だから降下する』

 ロウアーのファクターが切れた。

 天空から地上へ人と神と天使が堕ちていく。


ではまた来週!

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