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4-5 幼女襲来

誰か心置きなく小説を書ける時間を……

 コウと七月席が邂逅した頃。

 対ビの正門に飛び出したメツとサキはあたりの状況を確認した。

 人々が倒れ、ドライバーが意識を失ったため、自動車事故が起こっている。

「サキ!」

「わかってる!」

 サキがマテリアルを展開し、空中に釘を打ち出す。

「縛れ!」

 サキの言葉と共に、あたりの世界が停止した。

 呪いの内容は金縛り。

 スペックが落ちていようとも、この街、全てを覆うくらいは可能だ。

「神かな?」

「十中八九そうね。七月席だと思うわ」

 急すぎる。

 何の準備もなされていないときに踏み込まれた。いや、油断か。こういった事態は想定されてしかるべきだった。ダンクのときもそうだった。しかし、突然顕れる神に対してのカウンターは依然として確立していない。人口密集地に現れた瞬間に、その場は陥落するのだ。そもそも人間が行ってきた戦争は常にいかに多くの手で相手を叩くかに重点が置かれていた。数が上回れば、大体の戦いは勝てるのだ。その数の力がまるで通用しない傍若無人の力をどうやって止めればいいというのか。

 サキ応急処置が上手くいったことを確認したメツはコウの場所を探ろうと携帯を取り出す。普段なら焦ってパニックを起こすところだったが、ファクターで手に入れた冷静な思考はメツの動作を鈍らせなかった。

 通話ボタンを押そうとしたその時……。

「そこまでだよ」

 正面から火炎が飛んできた。

 横に飛んで交わす。

 急いで敵を視認。

 燃えるような赤髪を発見。

 あの砂浜でコウと話していた幼女がこちらにゆっくりと歩いてきた。

 グレイズだ。

 メツはすぐさま腰に装着していた凶銃を抜くと、なんの躊躇いもなく照準を合わせ、引き金を引いた。

 メツの銃弾はグレイズの寸前で炎の壁に阻まれ、蒸発した。

「こわいね。お兄さん」

 口ぶりとは裏腹に愉快そうに幼女が笑う。

「君は僕より強いからね」

 両手に銃を構えてメツは身構える。

「メツ!」

「わかってる。『動けない』、でしょ?」

 確かに自分の出力をすべて都市防衛に回してしまっているため、この場はメツに任せるしかない。それでも今の言葉はそういう事ではない。

 殺そうとするな。

 その言葉を言うべきか、言わざるべきか迷った結果、名前を読んだだけになってしまった。相手が強すぎるのに殺そうとするな、はあまりに無責任な言葉だ。だからこそ、こう言おうとした。

この子を殺せば七月席は本気になる。

「久しぶり。二月さん」

 その気配を察したのか、グレイズが身動きの取れないサキに視線を送る。

『邪魔をするな。どうなっても知らないよ』

 そう伝わってきた。どこまでいっても七月席の娘だ。バトルジャンキーめ!

「さっさとここから離れなさい!」

 髪の色が似ていることからか、この幼女は自分に対して好意的だ。だからこその呼びかけだったが、グレイズは首を振ってその言葉を拒否した。

「だめだめ。私はこの人のことを見にきたんだから。お兄ちゃん以外に神を殺せるこの人を、ね」

 唇を舐めてメツを観察するグレイズの眼は普段の冷めた瞳とは大違いで、爛々と輝いている。まるで新しいおもちゃを見つけたような純粋さがそこにあった。

(いやな目をする……)

メツはそう思いつつ、ゆっくりとグレイズとの距離を保ちながら円状に歩いた。周りを歩くという動作は格下の動きではあったが、四の五の言ってはいられない。先ほどの攻防でこちらの弾丸が防御されることがわかった。盾は抜けないが、間隙を狙うまでだ。

先に動いたのはメツだった。

先ほどのように前触れなく二発銃撃。すぐさま横に動いて揺さぶりをかけようとする。グレイズはそれに対して一歩も動かずに抗した。

「ぐうぅううう!」

 グレイズが弾を蒸発させたと同時に、メツの左手が発火した。

 サキが思わず叫ぶ。

「人体発火!?……いえ!」

 正確にはそう見えるだけのものだ。メツもファクターに対して抵抗力を持っている。コウはファクターを『喰らう』が、メツはファクターを『消す』。それはファクターの常時発動であり、身体に影響するもののは抵抗力としては一級品だ。それでも左手が突然燃え上がる様は人体発火にしか見えなかった。

 以前見かけたときよりも成長している。ファクターの発動の素早さと正確さがサキに人体発火と見せたのだろう。子供の成長は早いというが、それでも驚かずにはいられなかった。何より攻撃と防御を同時にやってのける行動は大人顔負けだ。ファクターを活かす戦いをこの歳にして身に着けている。

 それでもメツは左手の炎を一瞬で消しとばすと、銃撃をグレイズに放つ。

「わお」

 口調とは裏腹にグレイズの冷めた眼はその攻撃を正確に観察していた。すぐさま、先ほどのようにカウンターで対処しようとするが、メツはそれよりも素早く距離をつめた。コウ譲りのダッシュ力で距離を一気にゼロへ持っていく。

 一瞬、グレイズが驚愕に眼を見張ると、歯を剥いた笑みを見せた。

 メツが銃の台尻を幼女の脳天へ叩き込まんと腕を振り上げる。

「あはっ」

 爆発がグレイズの周囲に起こった。

 しかし、メツはそれを予見しており、その炎はすべて掻き消える。振り下ろされた銃はそれでもグレイズを捉えることはなかった。炎が上がった瞬間に視界を奪い、脱出していたのだ。一足飛びで距離をとったグレイズがメツに語りかける。

「いいよ。あなた。私が子供だからって躊躇わないところはすごく、いいわ」

「……君は本当に子供に思えないな」

 顔色1つ変えずにメツは再度、銃を構える。

 その時、両者の頭上から落ちてくる影があった。


逆に考えるんだ。小説を書く時間を作るんだ、と。

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