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4-4 それはただ圧倒的な……

次回の投稿は二週間後となります。

 すぐに戦闘態勢に切り替わった。

 七月席から放たれるものは戦闘の気配。

 こちらへの理解を一切示さないその姿勢は確かに戦闘の神というものだった。

「あ……」

 バタリ、とコウの胸元にアイが倒れこむ。

「おい!」

「心配するな。服従因子に当てられただけだ」

 街中で車と車が衝突する気配。それが何連続も起こった。

「てめぇ!」

 そう言えばこの神はどこから来た?

 何の気配もなく、いつの間にか……。

 いや、そんなことよりもどうする?

 初めてだ。

 ここまで事を荒立てに来た神は!

 ビジターの群れとの戦いの始まりから徹頭徹尾、こちらを追い詰めに来ている。

 実質、あの戦場は負けていた。

 そして、今回も奇襲という形で敗北を知らせに来た。

 この段階で、すでにコウたちは負けている。

 この神を倒せば解決するが、無理だ。

 力の差もそうだが、人質をとられた。

 今、この街すべての人間が人質だ。

 話でしか聞いていないその灼熱の力は、一瞬で街の人を焼くだろう。

 そして、武器がない。

 腕の中には幼馴染。

 状況の全てが敗北を知らせている。

 以前も街に突然表れた敵意ある神はいたが、ダンクのときは状況が違いすぎる!

「……いい顔だ。戦況を大局的に見ることができるって事はいいことだぜ」

 そう言ってバーンズは川原から見える街に向き直る。

「いい街だなぁ。ここは」

 バーンズがそういった途端、街の中央にあった電波搭が燃えた。

 業火はものの数秒で鉄塔を焼き尽くした。

 溶解するまもなく、それは数秒だった。

 それだけで電波搭の姿は影も形もなくなった。

 思わず見とれてしまう。

 その力は圧倒的過ぎた。

「どぉだい。俺のファクター。『熱略行進』《ブラスト・ブレイバー》は」

 力を誇示した神がこちらに向き直る。

 コウはその神をにらみ返した。

 それを見て、バーンズは口笛をならす。

「いいね。だが少し待て。もうすぐ迎えが来る」

 バーンズの言葉に思わず疑問符が浮かぶが、その迎えはすぐに来た。

「あーもー!ほんっと、神使い荒いっすね!」

「そんなこと言ったって、適役はお前しかいないだろぉがよ」

 騒がしく顕れたのはクゥだ。

 両手にはコウの6剣とインテグラ。

「お前……」

「睨まないでくれっすよ。あたしだって焼き鳥にはなりたくないっす。だからほら。武器だって持ってきたじゃないっすか」

「……俺の場所、教えたのもお前か?」

 コウの言葉にクゥは目を背ける。

 やっぱり、だ。

 溜息をついて、クゥに昏倒しているアイを渡し、代わりに武器一式を受け取る。

「援軍は?」

「多分、無理っす」

 つまり一対一。

「アイを頼む。出来るだけ遠くに」

「……いいんっすか?」

 クゥが言いたいことはわかる。

 自分に助けを求めないのか、だろう。

「……あんたは部外者だろ?」

「一応、対ビが仮住まいなんっすけどね。任されました」

 最後だけ真面目に言い残してクゥは物凄いスピードで去っていった。

 すでに川原には男たちのみ。

「わざわざ戦闘の準備をしているところ悪いんだがよ。お前、すでに自分が負けているってわかってんだろ?」

 わかっている。

 だからといって退く事なんてできない。

 逃げ回るぐらいなら突っ込んで死ぬ。

 腕の一本でももらって死ぬ……美味そうだ。

 少しでもハヅキが、楽になるよ……きっと極上の命だ。

 彼女がいれば、人はまだ戦え……どんな味がする?

 相反する感情はそれでも、どちらも本物だ。

 それに混乱することはない。

 湧き上がってくるものは、今は諦める。

 どの道、これが最後かもしれないのだ。

「……なるほど、な」

 何かを得心したようにバーンズが笑う。

「お前の命名は『喰らう者』。それはお前が捕食者であるという証明だ。今からお前が取ろうとしている行動は、群れの負担を減らそうという獣の行動に準じているようではあるが……違う。お前はそんなタマじゃない」

「……だったらなんだよ」

 先ほどまでの会話が尾を引いているのか。つい聞いてしまった。

「喰いたい。喰いたくてたまらない。まだ生きていたい。まだ皆といたい。……生命の根幹、だな。一個の生命としては優秀だ」

 まさに図星だったが、コウは冷静だった。

 とにかく今は不利なのだ。

 感情に任せて突っ込めば何も出来ないまま死ぬ。

 相手の隙だけも見つけることに集中していた。

「……いいね。未だに『神喰らい』ってのは名前負けだが……将来有望だぜ?お前」

 隙がまるでない。

 スッと七月席が右手の人差し指を差し向ける。

「ぼうっ」

 指先から火柱が走った。

 莫大な熱量を纏った火柱は収束され、一条の光線のようにコウの顔面へ向かう。高速だったが、それでもコウは首をよじって回避、そのまま、七月席の懐に飛び込む。

 どういうわけか隙だらけだった。

 誘われたか、という疑惑はあったがもうとまれない。

 居合いの要領でアグニートを抜く。

 命名を告げる暇がなかったため、赤剣には出来なかったが、会心の一撃が放たれた。

 七月席は動かない。

 七月席とアグニートが触れ、そのまま、コウは剣を振り切った。

(やったか!?)

 そう思いつつも、全力で距離をとる。

 そして、驚愕した。

 七月席は無傷だった。

 そして自分の右手に握られているアグニートは持ち手を残して蒸発していた。

 元々、熱剣であるアグニートは耐熱性が高い。

 それを触れた一瞬で気化させる熱量。

 恐怖に体が硬直した。

 その硬直の瞬間に、七月席はすでに距離をつめていた。

 右手がコウにかざされる。

 視界が覆われた。

 死ぬ!

 頭がその単語で支配され、動くことができない。

 先ほど目の当たりにした火力がコウを恐怖で縛り付けた。

 ゆっくりと近づいてくる右手に悲鳴もあげることができない。

 七月席の右手がコウの肩におかれた。

「楽しかったぜ。また遊ぼぉや」

 そう言って、七月席は背面から炎を出し、飛翔、そのまま天高く上昇すると、見えなくなった。

 コウは動けなかった。

 汗がひどい。

 膝が笑っている。

 息がまともに出来ない。

 そのまま、10分ほど硬直していた。

 街からは人の喧騒が聞こえてくる。

 死を覚悟したが生きている。

 それでも胸にあるのは安堵よりも屈辱だった。

 完全に遊ばれた。

 どこまで行っても七月席の手のひらの上だった。

 一言だけ、搾り出すように、呟く。

「…………ちく、しょう」

 メツのとき以上の、完膚なきまでの敗北だった。


それでは再来週!

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