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1-1 四月席との対談

今回の話では大きく世界が動く予定。コウの本性についても触れていくつもりです。

 ハヅキとルウラは北欧のログハウスの前に居た。

 コウがロウアーに負けてから5日が経った。

 持ち前の回復力で彼は随分と回復しているが、大事を取って休ませている。

 ここまで移動はルウラのファクターで一瞬にしての到着だった。

 彼女の『流転世界』《ワールド・ムーバー》はこういった所でも役に立つ。

 四月席がここに居る。

 クゥが示した場所は周りが山に囲まれた山脈の一角だ。

 世界名作劇場の舞台にもなったその場所はのどかな雰囲気に満たされている。

 ハヅキがルウラを見やると、その風景と想像以上の融和があった。

 もともと、北欧人のような美しい金の髪に、非常に愛くるしい顔つきの為、何度か見たことのある罠の名前を冠した家族映画のイメージを想起させてくれる。彼女がはにかめば何でも言うことを聞いてしまいそうだ。

 対して、ルウラもハヅキに対して思うところがあった。

 日本人離れしたプロポーションを持つ彼女は隣に居ると、いつも女としての敗北感を与えてくれる。女性の中では背丈が大きい部類に入る彼女は、この広大な自然と共通する包容力があった。

 互いにそんなことをこの地に降り立ってはじめに考え、30分ほど歩いてここまで来た。

 本当はクゥもついてくる予定だったのだが、本人が『絶対に、否っす!』と頑なに同伴を拒絶したのだ。

 ハヅキが直接、出向くことにいくらかの反論はあったが、結局のところ、事の全容を知っていて、神とまともに口を効け、政治的な話が出来そうな人間が彼女しかいなかった為、反論者も了解せざるを得なかった。

 ちなみにハヅキはあまり政治的な話をするつもりはない。上が言ってくることは大抵、国に利益をもたらすように神を誘導するといった類だったが、そっちにあまり興味はなかった。実際、何度かルウラのファクターを利用するようにと打診を受けてきたが、全てハヅキのところで握りつぶしている。タダトにはそのことで迷惑かけっぱなしだ。

 ドアをノックするが出て来ない。気配もない。

 留守なのだろうか?

 ルウラに目で問うと、彼女は首を横に振る。

(わからない、か)

 四月席のファクターが常時発動するタイプのものであるならば、ルウラのファクターによる感知もあてにならない。

 かなり注意深く気配を探る。

 ルウラ自身、神経質になっているという自覚はある。

「好戦的な方ではないのでしょう?クゥ曰く、よっぽどのことをしない限りは戦闘に発展することはないとか……」

「クゥの話だとな。私はこちらの世界と天界が融合するとわかった際に開かれた会議で一目見たくらいだ。顔を知っているくらいの関係だな。それでも正直、肝は冷えている。彼の噂はいやでも耳に入っていたからな」

 四月席の異名がルウラを神経質にしている理由だ。

「最強の神。事実、彼の領土は実力者の七月席、八月席、九月席の領土に囲まれていたが、ただの一度も侵攻を許したことはない。八月席と九月席を同時に相手取っても、それを返り討ちにした実力は正直怖いよ。自分から出ることはなかったみたいだったが……」

「確か、彼のファクターは……」

「あらゆるファクターの無効化。まったく、本当はクゥと一緒に来て欲しかったよ」

「なんでクゥはあんなに嫌がったのかしらね?いくら相手が最強とはいえ、彼女にしては……珍しい反応だと思うのだけれども」

「確かにな」

 あの人懐っこい神があれほどの拒絶を示したのは確かに珍しい。

 もう1つ付け加えるのであれば、クゥは他の神の情報を教えてくれなかった。

 一方に肩入れしすぎると、その神からの信用が初めからなくなる、というのが理由だ。

 正論だったのでハヅキも彼女の言い分を聞き入れた。

「よっぽど性が合わないのかしら?」

「ふむ、神は個性派揃いだからな。クゥが嫌いな者が居ても仕方がないだろう」

「その理由を話そう」

 女達の体が緊張で硬直した。

 声は山小屋の中から聞こえた。

 ルウラですら気づかなかった、という事実が彼女たちを緊張させていた。

「どうした?入ってきたまえ」

 女たちは互いに目を合わせ、頷く。

 ここまで来て躊躇っていても仕方がない。

 ルウラがドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開ける。

「おお、誰かと思えば十月席か」

 白髪の厳かな顔をした老人がそこに居た。

 齢を重ねることでのみ得ることが出来る種類の落ち着きを有した彼は、意識をほかに移してしまうと、その風景に溶け込んでしまいそうな程、その場に溶け込んでいた。

 長い髪を上品にポニーテールでまとめている。

 穏やかな目がルウラを見つめ、中に入ってくるように促す。

「運がいい。今日、取れたヤギたちのミルクは格別だぞ。おっと、お初にお目にかかるそこの女性を紹介してもらえるかな?」

 四月席の言葉にハヅキが前に身を出す。

「神原ハヅキです。お目にかかれ、光栄です」

 上品な礼をするハヅキに四月席は笑みで返す。

「エイプリル・オールだ。四月席といえば通りがいいかな?はじめまして。お嬢さん」

 四月席は部屋の中央にある木製テーブルの椅子を二つ引き、ここに座るように示した。

 ハヅキとルウラが座っている間に四月席は木製のコップにヤギのミルクをピッチャーから注ぎ、女達の前におくと、自分もハヅキの正面に座り、ミルクに口をつける。

 美味い。

「随分と……長閑な所で暮らしているのだな」

「この齢にもなれば、こういった場所に暮らしたいと思うものだ。お前も私ぐらいの齢になればわかる。今回、こちらにわざわざ足を運んだのは……どういったご用件からかな?」

 深い青の瞳がハヅキを見つめる。

 見透かされているようだ。

 それでも不快ではない。

 こういった目をする者は信じられる。

「はい。今回、ここに足を運んだことですが、人間に対しての考えを貴方の口から聞きたいと考えたからです」

 単刀直入。

 一々、前置きするのはハヅキは好まなかったし、眼前の神も前置きを望まないと考えたからだ。

 実際、彼はハヅキの切り出しが気に入ったように口端を緩めている。

 しばし黙考した後、オールは口を開いた。

「私は元々、特に支配しようなどという考えはない。一応、盟約はあり、私もそれに従う予定ではあったが、すでにこちらに来た神々はそういった考えを捨てている。五月席は死に、十月席、十二月席、二月席は人間に対して好意的だ。全体で三分の一の神がこのような状況で盟約を果たすこともないだろう」

 どうやら今までの行動は人間にいいように傾いているらしい。

「しかし、私としては人間に好意的になるということを避けていきたいと思っている」

「理由を聞かせていただいてもよろしいですか?」

「十月席。私はあちらの世界でどうだった?」

「……自分から積極的に戦うことはなかったな」

「そう。私は戦いが嫌いで、もっと言うなら煩わしいもの全てが嫌いなのだよ。何か大きな流れに組する者からの要望に首を縦に振れば、その流れに巻き込まれてしまう。私はここでヤギたちの世話をしながらのんびり過ごして生きたいのだ」

 なるほど。

 ハヅキは考えをめぐらせる。

 つまり、この神は不干渉を貫きたいということらしかった。

 そして、この生活を邪魔するものには一切の容赦はしないだろう。

 ならば、この神は時間が空いたときに会いにくるくらいで問題ないのではなかろうか?

 一呼吸おいて問いを続ける。

「我々が貴方に害をなさない限り、貴方は何かをするつもりはない、と」

「人間に害を与える理由が私にはない。興味もない」

 どうやら、本当にこの神は自ら戦いを起こすつもりがないらしい。

 安堵したようにハヅキは息を吐く。

 わざとリラックスした姿勢を見せてみることで、相手の出方を伺ってみた。

 ここで雑談にでも入ってくれれば、この神とはいい関係を築けそうだ。

 用件が済んだから、帰るよう促すのであれば、もう少しこちらからの歩み寄りが必要だろう。

「ところで君たち。1つ聞きたいことがあるのだが……」

 雑談に入った。

 ハヅキは心中で拳を握る。

 オールが白髪を撫でながら、躊躇いがちに問いを投げかける。

「十二月席……クゥはどうかな?」

「どう……とは?」

 あまりに質問が漠然としていて、つい質問で返してしまう。

「だから、ほら、あれだよ。元気だ、とか。栄養あるものはしっかり食べている、とか」

 顔を赤らめながら、要領の得ない言葉をつらつらと神は続ける。

「つかぬ事を伺いますが」

 まさか、と思いながらハヅキは問う。

「彼女とどういった御関係なのですか?」

「うむ、彼女が私のことを嫌う理由もここにあるのだが……」

 咳払いをはさんで初老の男性は照れながら、続けた。

「彼女は私の娘なのだ」

 ハヅキとルウラは同時に息を吸った。

「ああ、驚くときは同時がいい。ここは空気が澄んでいるからいい山彦が聞こえる」

「「はぁぁあああああああああああああああああああ!?」」

 言われてみれば確かに似ていた。

 女達の絶叫が山にこだました。


それでは一週間後にまた!

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