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3-5 エンジェル・ストライク

3連休は京都に行ってきました。

皆さん楽しめましたでしょうか?

 戦場は悲惨。

 そんなことはここに来る前からわかっていたことだった。

 ほんの少し前にそれを教え込まれたはずだ。

 なのに、自分はまだこんなところにいた。

「ああああああああああああ!」

 絶叫とともに停止していたビジターに光に包まれた拳を叩きつける。『消滅』のファクターはビジターの甲羅に拳大の穴を開ける。そこにアグニートを必死になって突き刺す。

 何度も突き刺した後に、とっくにビジターが死んでいることにようやく気づき、我に返る。最後のアグニートが今で駄目になった。補給コンテナはすでにビジターに破壊されている。

 すでに小隊は自分だけになっていた。

 アタッカーとして一番前に出されたメツだったが、気づけばすでに同じ小隊の3人は姿を見せていない。皆が倒れてからものの数分でメツの小隊は壊滅していた。今は沈黙しているが、ここにいるビジターはつい先ほどまで動いていた。戦線が延びてしまった影響なのか、こちらまでビジターの統率が行き届くことが遅れたようだった。

 動けなくなった人間をビジターは蹂躙した。

 人間が蟻のように踏み潰された。

 一方的過ぎた。

 メツはまた何も出来なかった。

 助けを求めるように見開いた目が脳裏にこびり付いて忘れられない。

「ちくしょう。ちくしょう。チクショウ!」

 悪態をつきながらビジターに拳を何度も打ち込む。

 腕の根元まで甲羅に自分を突き立てる事でビジターを一体屠る。

 泣きたくなった。

 小隊は自分のレッテルのおかげで死なせてしまったようなものだ、という筋違いめいた罪悪感すらあった。

 すでに自分に許された攻撃方法は徒手空拳の格闘戦しかない。

 腰にぶら下げた銃に舌打ちしたくなった。

 役立たずの武装が二挺。

 出撃直前にコウから手渡されたものだ。

 かなり渋々といった感じに渡されたものはコウの膂力をもってしてようやく発射が可能なお化け銃。世界最大の銃を参考にして製造されたそれは実用性が皆無であり、名も無かった。こんなガラクタを渡すコウもコウだが、こんなものをぶら下げている自分も自分だ。

 一体何を期待している?

 ここまで散々無力を思い知らされてきたにもかかわらず何故ここにいる?

 こんな動きもしなくなったビジターを殺すことしか出来ない自分にこの先何が出来るというのだろうか。

 背後から衝撃。

 どうやら空中に飛ばされたらしい。

 背中から砂浜に転落し、転げまわる。

 疑問は後からやってきた。

(一体なんだ!?)

 吹き飛ばされた方向を見てぞっとした。

 砂浜がえぐられていた。

 丁度、スノーボードのハーフパイプのような有様になっていた。

 自分がどうしてアレに巻き込まれて生きていたのかわからないが、あんな状況を生み出すものに立ち向かって無事で済むはずがない。

 恐怖と葛藤しながらその衝撃が来た方向を見ると、それは海中からだった。否、海中だったというべきか。

 海が割れていた。

 海底が露出し、海が壁になっていた。

 そしてその海の壁と壁の間にそれは居た。

 さながらモーゼのようにそれは佇んでいた。

 ゆるくウェーブの掛かった長い髪をうっとおしそうにかき上げた彼は舌打ちし、そのきつめの目をメツに向けている。

 目と目が合うとその男は歯をむいて嗤う。

「はは、面白そうな奴がいるじゃねぇか」

 天使、リバイエルはそう言うと、海だった道を悠然と歩き始めた。

 メツは恐怖で固まり動けなくなってしまった。

 よりにもよって、どうして、自分がファクターなんかもってしまったのかと、自分を呪ってしまった。




 初撃のアンカーは回避された。

 天使の回避方向に身体を飛び込ませ、剣を振るう。

 慣性の法則を無視した動きであっさりと回避される。

 コウは舌打ちした。

 相手が空中に浮いている為、こちらは絶対的に不利だ。

(空中に浮く機械とか創って貰えんのかな?)

 海上に浮いたビジターの甲羅に飛び移りながらそんなことを考えていた。

 先ほどの行動で相手のファクターは大体割れた。

 恐らくは物理法則を無視した移動。

 ルウラの劣化だ。

 なんてことは無い。

「貴様が『神喰らい』か」

 カレードと名乗った天使がこちらに言葉を投げてきた。

「『神喰らい』?」

 聞いたことの無い名前だ。

「……聞き方が悪かったか?お前が五月席と二月席を退けたと聞いたのだが?」

「そりゃ、違う奴だろ。俺は関わっただけだ」

「謙遜するな。神や天使に対峙できる人間など、数が知れる。なにより、その獣のような闘志。私が見間違うわけが無い」

「そうかい」

 会話しながらも周りの足場を確認。

 きれいに整列しているビジターのおかげで下手を踏まない限りは海に転落することはなさそうだ。

「どちらにせよ。俺は暁コウっていうんだ。『神喰らい』なんて知らないね」

 気を引き締めなおす。

 相手はルウラよりも格段に弱いとはいえ、自分が不利なのは変わりない。未だにファクターは使えないのだ。

「こいつはお前が?」

 下に親指を向けてビジターをさす。

「そうだ。私はお前との闘いを待ちわびていた。邪魔が入るのは無粋だろう」

 カレードが死ねばビジターが暴れだすということを確認し、舌打ち。

「主に任され、姫の祝福を受けた私が!後方を気にしながら戦う貴様を討ち取っても何の誇りにもなりはしない!」

 細身の剣を天に向けてカレードはそう叫ぶ。

(何だ……こいつ……)

 頭が相当おめでたい。良い感じに脳が湯だった台詞を聞き、溜息をつきたくなる。

(まてよ?)

 駄目元だが、聞いてみる価値はある。

「よく言うぜ。あんたを殺しちまったら、こいつらが動き出すって事じゃねぇか。なにが誇りだ。ふざけるな」

 まずは挑発。

「心配するな。私が負ければこいつらは引く」

 返ってきた言葉は問題の解決。

「…………ちょっとまて」

「うん?」

 深呼吸。

 展開が速すぎる。

 都合の良い言葉がホイホイ投げられてくる。

 カレードを倒せば、それでこの戦場は一旦終了というのは魅力的なのだが……。

 上空の天使を見上げる。

 嘘をついているような顔ではない。

 それほど嫌な匂いは無い。

 信じていいのか?

「どうした。早くしよう!貴様を倒して私は褒めてもらうのだ!」

 そういってこちらに剣を向けてくる天使を見て確信。

 信じよう。

 こいつは馬鹿だ。

「あんたの事、好きになれそうだぜ」

 犬歯を除かせて、肉食獣の笑みをカレードに向ける。

 カレードはそれをさわやかな笑みで受け止めた。

「お前を倒せば退屈な掃討戦が待っている。今のうちに楽しませてくれ」

 アグニートの残りは5。

 その1つを引き抜いて構える。

 こいつのお陰で戦線は崩壊し、人間の抵抗は出来なくなっている。

 自分が死ねばそれは人類の敗北に直結する。

 そこまでは以前と一緒だが、今回はここにいる大勢の命がその場で失われる。

 目の前で人質を取られているに等しい状況だ。

 それにも関わらず、コウは笑った。

 カレードが細身の剣を構えると、彼の背中の布のような翼が緊張した。

(くるか!)

 カレードの体が一瞬で最高速でコウに肉薄する。

 すでにカレードのファクターをある程度推測していたコウはそれに対応。

 ビジターの背で力比べが起こった。

 一瞬だけコウが力で競り勝ったとうとしたが、すぐにカレードのレイピアに押され始める。天使のファクターの力が効いている。コウが力を入れても、アグニートが勝手にこちらに押し込まれ始めている。

「おらああああ!」

 右手を離し、逆手で別のアグニートを抜刀。横薙ぎにカレードに叩き込もうとする。後方に飛ばれ回避される。一瞬、天空を舞ったかと思うとまたカレードはこちらに急降下してきた。

(あのファクター、接触しないと効果がないのか?)

 試すようにコウはもう一度、剣を合わせる。

 コウの左手の剣は過たずカレードの剣と接触するはずだった。

 アグニートが突然、接触もしていないのに、弾き飛ばされた。

 いや、コウの腕が勝手に持ち上がったのだ。

 コウはそれに逆らうことなく、一緒に身体を空中へ預ける。宙返りし、空中で姿勢を安定させ、他のビジターの甲羅の上に降り立った。

「良くぞ対応した!」

 今の自分には普通の対応だと思う。ルウラとの模擬戦が役に立った。なんども吹っ飛ばされたのでその手に対応にはなれたものなのだ。

(もう少し材料が欲しい)

 相手のファクターは大まかなところまでしかわかっていない。

 ルウラの劣化版だということに間違いはないのだろうが、今の接近の際に違和感があった。あれはこちらの腕が勝手に動いたようだった。

 今のコウはファクターを使用してからそれほど時間が経っておらず、ファクター喰いの常時発動が弱くなってきている。

 早めに相手のファクターを正確にわからなければ、危険だ。

 自然と口端が持ち上がる。

 楽しい。

 ああ楽しい!

 目の前の獲物は俺に思考させている。

 どう料理して欲しいか考えさせてくれている。

 それに答えなきゃだめだ。

 できるだけ上手く捌かなきゃだめだ。

 だから、もっと考えよう。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 咆哮。

 闘争心をそのまま声に乗せ、カレードに突撃する。

 空中に向けて跳躍。

 アグニートを振り下ろすと、カレードのレイピアがそれを弾き返した。

 ついでの攻撃はカレードのほうが一瞬、速い。

 その横の斬撃は対応できる。

 コウは剣を受けようとアグニートを構える。

 その動きが跳ね返った。

 コウの腕が明後日の方向へ動く。

 その動きにコウはあっさりと対応。

 空中で姿勢を制御しつつ、弾き返されたベクトルに逆らわずそのまま回転。カレードの攻撃を回転しながら紙一重でかわし、そのまま斜め下からの斬撃を見舞う。

 カレードが一瞬驚いたような顔をしたが、対応。

 すばやく上体を起こし、コウの一撃を回避。

 いや、頬に赤いスジが走った。

 コウは重力のままに落下し、ビジターの甲羅に着地。

 すばやく体制を整え、上空のカレードを凝視。

 驚いたように自分の頬に手を当てていた。

 次にコウに静かに笑いかける。

「……見事。私のファクターを看過したか」

「ああ、あんたのファクターは『一度行った行動を制御する』、だ」

 コウの防御が不自然に邪魔したものが看過へのきっかけだが、空中からの落下をいきなり静止してみせたり、今、空を静止しているのもそうだろう。空から地上へ一度落下すればその動作は制御できる。他者への干渉は何度か行動を繰り返せばその都度、効力が上がっていく。

「嬉しいぞ。貴様がこの世界の1人目の戦士で」

「そして、俺が最後で良い」

「ほう、優しいのだな」

「いいや……」

 体の奥底から、ぞわり、と湧き出てくる衝動がある。

「俺は優しかねぇぞ!」

 その感情の正体はまさしく快楽だ。

 命のやり取りをしている、という極度の緊張状態がこの快楽を引き起こしている。

 ファクターによる興奮もそれを手伝っている。

 何時に無くコウは絶好調だった。

 再度、咆哮。

 この快楽で高ぶった感情を目標に叩きつける為、コウは駆けた。


ではまた来週!

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