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3-4 来る時

予定よりもこの話は長くなりそうな予感…。

 巨大なモニターが戦場の状況を逐一知らせてくる。

 さまざまなデータが転送されてくるたびに轟はそれに対処していた。元々、ビジターに対しての戦闘経験は轟が日本では一番長いのだ。

(おかしい……)

 指示を飛ばしながら轟は嫌な雰囲気が戦場に漂っていることが気になっていた。

 うまく行き過ぎている。

 コウのファクター使用は後1分を切った。

 それまでに戦闘の趨勢を決めることが肝要であったし、実際にそれは果たされた。

 懸念であったメツのエリアも良く戦線を支えている。

 しかし、違和感がある。

 あのビジターは相手にしてみると意外と何とかなるのだ。

 すでにユーラシア大陸では戦闘に関してのデータははじめに来ていたし、持ちこたえてもいた。

しかし、殺し方まではなぜかこちらにまわってこなかった。

ある程度、戦線が維持できていたということは対抗策がそれなりに構築できていたはずなのだ。

その情報がこちらに回ってこないことは異常だ。

海の向こうの組織とは指揮系統が違う為、ある程度の確執はあるといっても、ビジターの対処法は全世界で共有されるようにしてある。

「中国と回線はつなげるか?」

 轟の言葉にオペレーターが首を横に振る。

 モニターに示された戦線は確実に、徐々に後方に下がりつつあった。

 人的な被害は未だに少ないが、あの防御に特化したビジターは倒しづらい。

 そして、コウが徐々に孤立し始めたことも問題だ。

 元々、戦闘力が違いすぎる為、孤立しやすく、それに関して注意するようにと言ったはずだが、我を見失いかけている。

 彼の『食事』に関しては麻薬じみた快感を伴うと報告されていたが、それに飲み込まれたと見ることが妥当か。

(……そうか)

 轟は自分の携帯電話を握り、少し逡巡すると手早く操作した。

 恐らくは最悪の事態が海の向こうで起こっている。

 それに抗するにはこちらも手を打っておかなくてはならない。

 携帯電話に応答。

 電話の向こうの女は冷たく答える。

『出番?』

 その声は冷ややかではあったが意思の力がこもっていた。




 タイムアップと同時にコウは驚異的な空腹感と戦うことになっていた。

 一度にこれほどの命を喰ったことは初めての体験で、それによる快楽や充足感は今まで味わったことのないものだった。

 命への渇望を必死で押さえ込みながら舌打ち。

 人間らしさを失っていくことへの不安を頭から締め出す。

(突出しすぎたか!)

 予想以上に敵陣に深く切り込んでしまった。膝下まで海に浸かっており、人間の戦線は後方に移動している。

その間にもビジターはコウの横を通って後ろに進んでいく。

「くそっ!」

 孤立してしまった。1人でこの闘いを乗り切れるなど思ってはいない。コウは単独戦闘に特化している分、ほかと足並みがそろえにくい。

『コウ君。下がって!補給の指示を出したわ!』

「了解!」

 オペレーターの声を受け。屠ったビジターの甲羅を蹴ると、そのまま次のビジターへ飛び移りながら、一気に後方へ飛び、空中で左肩に懸架された大型アンカー『ハミング・バード』を起動。その三つに分かれた嘴を開き、鉄隗が火薬の爆発音とともに空を舞う。前線から少し後方のビジターの足を嘴が捕縛。そのまま甲高い巻き取り恩とともに『ハミング・バード』基部のアンカーが巻き取られ、コウの体を運んでいく。空中で右肩の『ストライク・バンカー』を構え、ビジターの甲羅に接触すると同時にバンカーを起動し、甲羅ごと中身を打ち貫く。

 そのまま着地し、再度跳躍。

 戦線への合流を目指す。

 大量に命を摂取した為、体の調子が良い。

 それでもコウは気分が悪かった。

(衝動に任せた結果がこれかよ……クソッタレ!)

 実際、コウが敵陣深くでファクターを使い、暴れたことでビジターの戦線をかなり乱すことに成功していたのだが。結果論だ。もしファクター使用限界と同時に命の過剰摂取でコウに何らかの異変が起こっていた場合、どうなっていたかわからない。悪態もつきたくなる。

 前線のビジターにバンカーを打ち込み、他の戦闘員と合流。

 今の一撃でバンカーの炸薬が無くなった。予備の弾薬も使い果たしている。

「カートリッジ!」

「あそこだ!」

 コウの叫びに前線の兵士が呼応。

 少し後方のコンテナの前で数人の兵士がビジターに向かって火器を放っているのが見えた。火器は効かずとも時間稼ぎにはなるかもしれないというはかない抵抗。二人の兵士が時間を稼いでいる間に他の兵士が補給を行っている。あそこが第一防衛ラインだ。

 コウはコンテナに走りよっているビジターに『ハミング・バード』を向けると射出。鉄の嘴が足を捕縛し、ビジターが横転。そのままビジターに接近し、最後のアグニートを甲羅の隙間に突き刺し、止めを刺すと、迫るビジターへ向かって先ほど仕留めたビジターを蹴り飛ばし、時間を稼ぐ。3メートル越えの重量級ビジターを十数メートルも蹴り飛ばすことなど今までのコウなら無理だったかもしれないが、今のコウは命を取り込み、身体能力が飛躍的に向上している。

「こっちへ!」

 補給兵がコウを呼ぶ。すぐさま対応し、彼の傍へよると、彼は手早くアグニートを腰のアタッチメントへ装着してくれた。コウは用意されていたカートリッジを手早く左右の兵器に装填していく。

「暁コウ!戦闘に復帰します!」

 ファクターは使えないが体は戦闘開始直後よりも力に満ちている。

 バンカーを起動し、咆哮とともにビジターへ突撃する。

 ファクター再起動まで後50分。

 再度戦線に復帰しようとしたとき、ビジターの群れに異変が生じた。

 それは敵陣の中にいたコウだから気づいたことだった。

(戦線を……構築している?)

 異変が明確になったのは次の瞬間だった。

 人が倒れた。

 なんの兆候も無かった。

 コウに補給をしてくれた隊員も、敵に向かっていったものも皆平等に、倒れたのだ。

 同時にビジターの進軍も止んだ。

 規則正しく並び、ビジターは制止した。

 そしてコウは嫌なにおいを嗅ぎ取る。

 その臭いの方向にコウは正面を向けた。丁度、整列したビジター真ん中程、コウがいる場から2時の方向。次いでそのまま顔を上へと向ける。臭いの元は丁度上空から来ている。しかし、天を仰いでも見えるのは曇り空だけだ。

 それでも全身から血の気が引いてくる。この感覚は良く知った感覚だ。

 強敵が、自分たちの常識を否定する強敵が現れたときの感覚。

恐怖、と呼ばれる感覚だ。

『え?なにこれ?』

 オペレーターの声がする。そちらに支配は届いていないのか、と安堵する一方で嫌な台詞が胸中で首をもたげ始める。

『これは……人?人が突然……顕れた?』

 愕然としたオペレーターの台詞でコウははっきりと台詞を思い出した。

『他の天使は嫌でも見る事になる』

 クゥがいった言葉が現実味を帯びたことを実感した瞬間。

上空から人が頭を下に転落してきたことを確認した。

いや、背中には白い布のようなものがついている。

肩甲骨から出たそれは透き通っており、羽衣を想起させた。

脳が警報を鳴らしてくる。

アレは集団戦で最も顕れてはいけないものだ。

それは集団戦をただの掃討戦に変えてしまう。

「クソッタレがっ!」

 コウは駆け出した。

 ファクターの再使用まで30分。

 スタミナは十分だが、切り札が使えない。

 人類軍防衛ラインの殆どはすでに機能していない。

 この状況でコウは天使と戦うことになった。




 天空から落下してきた天使――カレードは非常に機嫌がよかった。

 ようやく自分の番が回ってきたのだ。

 あの浮遊大陸で伝わってくる勝利の報告を早く自分も届けたいと待ち続け、ようやくそのときが来た。

 しかも、自分の担当エリアは日本。

 あの『神喰らい』がいる場だ。

 心が躍る。

 彼は強敵であろう。

 そして、それは自分が評価されているという実感を与えてくれる。

 他の鴨射ちしかしていない同志達とははっきりと意味が違う場だ。

「この勝利は全てわが主君と姫に捧げる!」

 そう呟き、眼下を見下ろす。

 鬼のような形相を見せた人間がこちらの方向に走ってきている。

 口端を持ち上げ、空中で身体を回転させて足を地面に向ける。

 そして、水面から十メートルほど上空でカレードは静止した。

 何の衝撃も反動も無く、ピタリと空中で静止した。

 その重力を無視した力を見ても『神喰らい』は一切の躊躇い無くこちらに向かってきている。

「七月席が第3陣カレード!」

 高らかに名乗りを上げるカレードに対し、『神喰らい』は左の肩にセットしていた大きな三角形の鉄の塊をこちらに向けていた。

 名乗りに対しての返答は火薬の炸裂音。

(ますます面白い!)

 今度は歯を見せて笑う。

 やはり自分の主君はいつでも新たな戦場を見せてくれる。


ではまた来週!

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