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3-3 脱出、未だ届かず。

今回は北欧組

 ハヅキは苦戦していた。

 額には汗がにじみ出ている。

 手に持っているのは卵だ。

 ボウルの端に卵を打ち下ろす。

 打ち付け方が弱く、ボウルとの接点にひびが入らない。その癖、自分が力をこめていた指の部分にひびが入った。かまわずに、ボウルとの接したところに指をめり込ませ、無理やり殻を押し破る。あっという間に卵はぐしゃぐしゃになって、ふんだんに細かな殻を内包したままボウルに落ちた。

(おかしいわね……)

 もう一度チャレンジ。

 殻にひびを入れるのは先ほどまでと一緒だが、今回は指でひびを入れたところに、指を押し込んでみる。

 結果は同じだった。

 溜息をついて、手に残った殻をゴミ箱に入れると、菜箸でちまちまとボウルの中の殻を取る作業に没頭することにした。食べ物を粗末にしてはいけない。

 一応は脱出の方法が思いついたが、その状況がやってこない。相手が相手だけに隙を見出すことが出来なかった。

 脱出の為の状況は簡単で、オールが自分たちから注意を切ってくれることだ。ただし、今までの経緯から、自分たちの感覚が当てに出来ない。相手は老獪だ。チャンスは一度きりで、失敗すれば、もうチャンスはやってこない。

 最大のチャンスだった世界が揺れた瞬間には、すぐさま脱出を試みたが、ルウラがあっさりと叩きのめされた為、失敗した。世界の変動でも四月席は動じていない。

 ハヅキは思考を続ける。

 やはりしっかりとした計画を立てなければ四月席を突破することは出来ない。

 自分たちがまだ軟禁状態にあるのであれば、脱出の機会はいくらでもある。

(舐められているわね……)

 オールから見れば小娘二人を拘束することなど、安易なことなのだろう。

 神1柱をものともしない戦闘力は厄介で、洞察力も厄介すぎる。

 唯一の救いはオールがこのバトルロイヤルを『長引かせようとしている』ことだ。

「ああ、絶望的」

 箸を置き、天井をぼんやりと見上げて思考を休める。

 こうしている間にも時間は出血し続けている。

 オールからは天空大陸が出現し、ビジターがあふれ出したというところまで聞かされた。

 それ以上の情報は入ってこない。

 交渉だけでこの場を逃れる方法は『ある』。

 ただし、それはルウラの存在を無視したときだけできる方法だ。

 彼女を前に交渉はすることが出来ない。

 そして、恐らくオールはもうしばらくすれば自分たちを解放することもわかっている。

 彼の目的は『停滞』で、戦力差が崩れそうな今の状況は内心快く思っていないはずだ。

 それでも自分たちを拘束するのは、ロウアーから提示された条件が魅力的過ぎたからだ。

(推測だけど、ね)

 事実を本人から聞くことは叶わないだろう。

 だからこそ、ハヅキはルウラにあえてオールに張り付くよう指示していた。

 扉が開き、金髪の神が景気良く歩を進めてくる。

「随分良い顔しているわね」

「そういうハヅキは景気の悪そうな顔しているな!……って、うわっ……」

 ハヅキの割った卵を見て、ついルウラは眉を潜める。

「ほっときなさい。料理なんて出来なくてもしにはしないわ。それより、なによその格好」

 神の姿は農夫のそれで、軍手を閉じたり開いたりしてニマニマと笑っている。

「ヤギの乳しぼりをオールに教えてもらったんだ!初めての経験はいつだって楽しい!」

「そうですか」

 椅子の背もたれにだらしなく身体を預けながら生返事を返す。はじめはルウラも景気の悪そうな顔をしていたが、もう割り切ったらしく、今ではこんな感じだ。曰く、私がくよくよしても状況は変わらない、だとか。さすがに生き死にを経験したものは腹の割り切り方が違う。

「貴方たちは随分仲よさそうね」

 ハヅキの言葉に一瞬、きょとん、として次に神は不思議そうな顔をした。

「ああ、うん。……どうしてだろうな?なんか……話しやすい?二度、ぼこぼこにされたけど、それほどあの御仁に嫌悪感は抱けないんだよ。オールも私にはよくしてくれるし……」

「…………………でしょうね」

「?」

 ハヅキの不自然な反応にルウラはますます不思議な顔をするしかなかった。

 そして、オールが彼女と仲がいいという現実はハヅキの推測をさらに強固にしていく。

 あてずっぽうと嗤われても仕方が無いし、そうであって欲しい、と自分でも思う。

「もう少し」

 だるそうにハヅキは体を起こしながら言葉を続ける。

「?」

「張り付いてみて。それで打開策が見出せるかも」

 そういいつつ顔には不満がありありと見てとれる。その態度を見て、やはりこういうところは似ているな、とコウを連想した。

「人間の願いをかなえるのが神様だ」

「……農家ファッションでキメ顔されてもねぇ」

「それじゃあ、私はいくよ。今からヤギに藁をやるんだ」

 どんどん現世に毒されている十月席に手を振って見送る。ルウラが扉に手をかけようとしたとき、丁度、オールが部屋に入ってきた。

「おっと、失礼」

「丁度、今から行くところだったんだ。今から餌の時間だろう?」

「そうだな。任せてもいいか?」

「ああ、教えたとおりにやればいいのだろう?」

 そういいながら元気良く外にルウラは出て行った。

「さて」

 オールがハヅキの前にあるボウルに視線を向ける。

 そのまま視線をボウルから引き剥がすと、無言でハヅキの目を見た。

「脱出の算段はついたかね?」

「……その言い方、ムカつくわね」

 ジロリ、と四月席を睨む。

 その様子にオールは両手を胸元まで挙げて笑う。

「随分、君らしくない態度だな」

「おあいにく様。私は私の恋人が命をかけている状況かもしれない時は口が悪いの」

「なるほど、愛か」

「愛よ。クソ爺」

 四月席から視線をはずし、苛立ちも隠さずににほお杖を着く。

「……その苛立ち方。どうやら決めかねているといった様子だな」

「なに言ってんのよ」

 間髪いれずに返答を返した。

 見透かされている?

 その気になれば脱出する方法があるということをどこから察した?

「そんな君に一つアドバイスをしてやろう」

「いらないわ」

「私が長年生きていた経験から言わせてもらうがな……」

 聞いてねぇ。

「他人のお家事情に詳しくなりすぎるとろくなことにならない」

「けっ」

 コウの悪態の真似をしてみるが、あまりうまくいかなかった。


ではまた来週!

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