3-2 淡い期待と自信
3章はまだ書きあがっておりませぬ
戦闘開始直後から使用するつもりだった。
戦いはいつまで続くのかわからない。
再使用まで一時間。
今回の闘いは大規模すぎて、ペースがわからない。
ならば限られた3分は最初に使い相手の気勢を喰らうまで。
コウは砂浜を獣のごとく駆け抜ける。
最初に上陸してきたビジターは突撃してくる小さな体を見た。
ビジターはその愚か者を踏み潰すつもりで突撃した。
その小さなものは嗤っていた。
歯をむき出しにして嗤っていた。
ビジターの体が恐怖で硬直した。
目の前の小さなものはその小ささに反比例した力を振るおうとしていることがわかった。
知性が余りない分、本能でそれがわかってしまった。
小さなものは両腕に構えた奇妙なオブジェクトをこちらに突き出し、叫んだ。
「食い貫け!」
薬莢に敷き詰められた火薬が爆ぜ、爆音を響かせる。
すでに赤剣と化した『インテグラ』がその赤を撃ちだした。
その赤は先頭のビジターのみならず、その後続を飲み込むと海に着弾し、威力を減退させ、消滅した。
コウは舌打ち。予想はしていたが、海に血が触れると血が融けてしまう。水中で血は固まらない。水中用に赤剣を練りこめばある程度の改善は見込めるが、時間が掛かるし、体力を使う。このような戦争状況でコウにとって一番大事なことはいかに長く戦い続けられるか、だ。
仮にも人類最強。戦場にいるだけでも士気が上がる。
コウは右肩のアタッチメントにストライク・バンカーを懸架しなおし、アグニートを抜く。手ごろなところにいたビジターに接近し、正面にある空気を供給するか、顔を出し入れかの隙間に刃を突っ込んだ。そのまま握りこぶし二つ分しかない穴を赤熱した刃でかき回すとビジターは数度、激しく体を痙攣させて沈黙した。
中は脆い。
ビジターの出鼻をくじいたコウの背後で歩兵たちが声を上げる。
すぐさまコウが行った攻撃を真似るように指示が飛ぶ。
コウは次の獲物に襲い掛かった。
先ほどの攻撃方法は前線の兵士に戦い方を示すための攻撃だ。次からはファクターを使用し、一撃で屠る。ファクターの一撃ならばあの厄介な甲羅も意味を成さない。コウは戦線を横になぞる様に移動しながらビジターの死体を築いていった。ビジターの体は巨大であり、その死体は進軍に対しての障害物になる。事実、ビジターは砲撃と、死体とで進軍速度が落ちていった。次々と歩兵たちもビジターに群がっていく。走り出される前に取り付き、次々に甲羅の隙間へアグニートを差し込んでいく。さらに障害物が増えていくことでビジターの進軍速度が落ちる。
(轟さんの作戦がうまくいった!)
インテグラを抜き、すぐさま赤剣に変貌させると、手ごろなビジターを両断する。
インテグラはかなり機嫌がいいようだ。おそらく戦場の空気が心地いいのだろう。あるいは食い放題という状況に喜んでいるか。コウも命を喰らうたびに、気分が高揚してくる。
命の味は麻薬のようだ。
中毒性があり、普段なら喰わないようにはしているが、このような状況ではそんなこと言っていられない。
剣を振るう、振るう、振るう。
命を咀嚼するように肉を両断する。
もっと、もっと。
自然と口が歪んでくる。
今なお、耳から聞こえてくる自分たちの隊長からの指揮が遠くなってくる。
危うい、という自覚はあるが止まらない。
しかし、この状態に入ったコウは獅子奮迅の活躍を見せていた。
戦闘開始2分ですでに13体ものビジターを屠った。
その暴れようは人間から見れば頼もしすぎた。
敵の気勢を喰った為、指揮は十分に上昇している。
戦場に期待が見え始めた。
少し離れた海岸線沿いでメツは拳を握り締めた。
人類軍は小隊ごとに間隔をあけて海岸線に防衛ラインを引いている。
報告によれば今回のビジターも例によって接近戦が有効らしい。
重火器による砲弾が絶え間なくビジターの群れに砲弾の雨を降らせている。時間稼ぎにしかならないが、それは前線のビジターを葬るのに必要な貴重な時間だ。
「肩の力を抜け。ファクター持ち」
メツが組み込まれた4人小隊の小隊長がメツの肩に手を置く。
「誰もお前に頼りきろうなんて思っていない」
小隊長の言葉は元気付けるつもりなのだが、メツはどうしてもネガティブに受け取ってしまった。
期待などされていない。
その癖、妙なプレッシャーだけは与えられてしまう。
ファクター持ちというだけで、コウの支援は余り当てにしないほうがいいということを告げられてしまっていた。それに対して臆病風に吹かれたことも嫌だったし、コウに依存するような感情を抱いてしまうことも嫌だった。
自分はひょっとすると貧乏神なのかもしれない。自分が居ることでこの小隊は人類最強の手を借りることが出来ない。
すでにビジターは100メートルの距離まで迫ってきていた。
死体による防壁はここのエリアには無い。
メツがいる。
いくらコウが強くても1人では戦線をカバーしきれない。そして人類の中でも強力無比であるはずのファクター使いがいるこのエリアにコウを回すことはありえない。
「突撃!」
小隊長の声と共に雄たけびが上がり、人類軍は突撃した。メツもそれに追随する。
「あああああああああ!」
メツのそれは雄たけびというよりも絶叫だった。
恐怖を認識しないように、との叫びだった。
効力は一瞬だったがそれでも足は前に出た。
後は勢いだけだ。
敵に対しての有効武器は数少ない。アグニートは腰に左右で二振り。手に1本。
たったそれだけの武装で人間たちは海岸に浮上し始めたビジターに突撃した。
加速し始めたビジターにすばやく取り付き、内部に到達する穴にアグニートを差し込んでいく。はじめの数体はそれで止まったが、相手の数はそれ以上だ。取り付いたビジターの横を他のビジターがすり抜けようとする。一気に戦線が崩壊しかけたとき、事前に配備されていた自走杭打ち機『ストライク・アイゼン』が砂浜を駆けた。
全高185センチメートル。全長250メートル。コウの『ストライク・バンカー』の原型であり、巨大な杭を発射し、相手を串刺しにする。底部には四輪駆動のタイヤがあり、人間には持ち運ぶことが出来ない。すでに砂浜はタイヤでも走れるように固められており、その疾走は妨げられない。
ビジターに杭が激突、そのまま巨大な杭が起動し、ビジターの甲羅を破り、絶命にいたらせる。これで死体により戦線の穴が埋まるかと思ったその時、一匹が内部に進攻しようとしていることを小隊長の目が捕らえた。比較的小型たった身体を持つ個体だが、その小型ゆえにすり抜けることが出来るだろう。すでに加速しきっている。ビジターがそこに限ってスペースを空けていた。
「行かせるな!」
小隊長が叫ぶ。ここで行かせれば後列が崩され、援護の火線が途絶えてしまう。敵の進軍を鈍らせる砲撃を失えば戦線の維持が困難になってしまう。後ろに控えていた数名が反応するが、すでに加速を終えたビジターに取り付くことは出来ない。砲撃も味方に当たる為、打つことが出来ない。
「ああああああああああああ!」
祈りをこめたような絶叫と共に白い輪がビジターに放たれた。放った主はメツだ。自身のファクターをこめてアグニートを全力で放り投げた。フリスビーさながらの軌道を描き、白輪がビジターと接触、そのままビジターに触れた部分を消滅させながら後方に抜けると、ついには白輪自体も消え去った。
「で、できた!」
メツのファクターは消滅。どうやらその力はコウと同じで時間制限はあるものの、手にしたものに付与することが出来るようだ。メツ自身、何度か試したことがあったが、本番で使うのは初めてだった。
「よくやった!呆けてないで戦線にもどれ!」
「は、はい!」
小隊長の声に急いで体勢を立て直す。
幾ばくかの自信が芽生えた。
付け焼刃の自身だったが、それは確かに戦意と化し、メツの背を押してくれるものだっ
またどこかで中断するかもしれませんが、また一週間後に必ず!




