3-1 シェイク・ダウン
お待たせしました!
再開します!
海岸線沿いにずらりと並んだ戦車、兵隊。そして海原には多くの戦艦が浮かんでいる。兵器の基本塗装である灰色が闘いの始まりを予感させる。
小火器、重火器、ナイフを見ることが容易に出来る。
この光景を見れば誰もが世界の変貌を信じずにはいられない。
いや、そんなもの見なくても天を仰げば理解させられる。
ユーラシア大陸東沿岸部に覆いかぶさるように『宙に突然出現した大陸』を見れば、世界の理が崩壊したのだと認めざるを得なかった。
東沿岸部、北から南を全て覆うことが出来る大きさを持った大陸は人々に現実海を喪失させた。所々、穴が開いたその大陸は太陽光を完全にさえぎることはなかったが、それでも人の心に影を落とした。
水平線の向こうからは煙が立っていることを確認できた。
新たに現れた大陸直下のロシア、中国、韓国ではすでに闘いが始まっている。
その煙がここまで見えたのだ。
管制室からは絶えず絶望的な報告が飛び交っている。
空中大陸から零れ落ちたビジターの数は膨大だった。
その奇襲の被害をもろに受けた国家はそれでも抵抗していた。
戦況は何とか五分になりつつあり、人類軍が優勢らしい。
すぐにこれだけの戦力をかき集めることが出来たことは実際に神の襲撃を受けた日本ならでは、だった。世界の中でも日本はビジターの出現率が異様に多かった。それでも緊急出動でこれだけの戦力をかき集めることが出来たのは驚きに値する。
天空大陸は日本の目と鼻の先だ。
ビジターはすでにこちらに向かっている。
コウは恐らく一番初めに奴らが上陸すると予想されている砂浜で水平線を睨んでいた。すでに黒い点が空にちらほらと視認できる。その手前には無数の艦隊が水面の上で砲撃の瞬間を待っている。
碧に輝く大剣『インテグラ』がコウの背後で瞬く。
武者震いだろうか?
コウの上空をF―15戦闘機が通り過ぎていった。
コウはハヅキから教えてもらっていたアタッチメントを引っ張り出し、現段階で出来るフル装備で待機していた。右肩に五月席戦で使った『ストライク・バンカー』。左肩に二月席戦で使った『ハミング・バード』。腰にいつもの6剣と『インテグラ』。飛び道具に大砲レベルの一撃を誇る名もない大型銃も持って来ていた。過剰ともいえる兵装だが、今回は敵の数が多すぎる。元々、コウ自身、兵装の重さに関してはまだ余裕が効くのでそれほど問題視はしていなかった。
陸上部隊の切り込み隊長としてコウはメツとの訓練からすぐに出撃することになった。すでにメツも配置についているだろう。
こんなことになるなら最低でも戦闘不能に追い込みたかったが、今更いっても仕方がない。切り替えることにする。いまは戦い以外のことを頭から締め出す。
そうでなければ己が死ぬ。
周囲に警報が鳴り響く。
『海中、防衛線より入電!飛行型、数およそ200!海中型、数およそ500!』
コウが以前、世話になったオペレーターの声が響く。
コウの手持ちのデバイスにそれぞれの写真が映し出される。
飛行型は幅10メートルの巨大な翼に薄い皮膜を持ち、蛇のような頭と鋭い嘴、捩れた角が特徴的なビジターだ。
海中型は巨大な甲羅を持ち、亀のようだが首が見えない。恐らく甲羅の中に引っ込んでいるのだろう。全高3メートルはある。
『コウ君は水中型の上陸を迎え撃って!』
「了解」
オペレーターの声に短く答えて右肩のアタッチメントに懸架していた『ストライク・バンカー』を外すと、杭となる『インテグラ』を接続部に差込み、構える。
ファクターを使えば、自身の血を遠くまで飛ばせるが、水中への有効射程がわからない為、使用は実際に上陸してきてからだろう。
コウのファクターは3分で使用不能になる。その代わり強力だ。自身の血を操つり、血で触れたものを『喰う』ことができる。難点といえば時間制限もだが、基本的に少数での戦いに特化した能力である為、集団戦は未知数であるということだ。コウ自身、ここまで大規模な戦いを経験したことがない。大体、砂浜という時点でかなりフットワークが制限されてしまう。
空を飛ぶビジターに関してはお手上げだ。ルウラがいないことが痛すぎる。クゥは相変わらずというかやはりというか、今回のことに関しては静観を決め込んでいるようだった。サキは未だファクターが不安定な為、戦闘不可。人間の作った兵器郡を信頼するしかない。飛行型のビジター出現は今回が初めてのため、不安はあるが、脆そうだ。奴らには今までの兵器は通じるという報告が実際にこちらに回ってきている。それよりも問題は水中型だ。映像にある甲羅はかなりの強度を持つことが容易に想像できたし、実際に戦車の砲撃もまるで効果がなかったらしい。最も有効だと思える戦力はコウと6基の『アイゼン・ストライク』だ。『アイゼン・ストライク』はコウの『ストライク・バンカー』の系列に並ぶ兵器だ。コウは『インテグラ』を杭にしているが、『アイゼン・ストライク』はレアメタルを用いた超硬鉄。ビジターに対して一定以上の効果を上げていたため、現場では重宝していたが、絶対数が少なすぎる。
(数は500……ね)
軽く絶望感を覚える。
歩兵はコウの少し後方に待機しているが、果たして彼らがいかほどの戦力になるのか疑問だった。下手をすれば無駄死にの確率が大きい。
『コウ。先陣はお前だ。初っ端にきつい一撃をかましてやれ』
「了解。出し惜しみは無しで行きます」
轟からの通信に獰猛に返答を返す。
『第一陣、攻撃開始!』
戦艦による艦砲射撃が始まった。次に戦闘機によるミサイルの発射と炸裂による爆炎が空で瞬いた。それはあっという間に左右に広がる。花火のような美しさとは対極の泥臭く、煙く、救いようのない光景が一瞬で創造された。何匹かが抜けてきたが、続いての戦車による長距離砲撃砲撃によって撃墜された。それでも抜けてくるビジターは地上に設置されたガトリング砲の餌食だ。
空がうるさい。
火器の音、ビジターの鳴き声。時折聞こえるパイロットの断末魔。
コウは全ての音を耳で拾っていた。
ファクターの常時発動。野生の獣並みの感覚をすでにコウは得ていた。戦場の地獄が嫌でも伝わってきた。
『海中型!来ます!』
オペレーターの声と同時に海上に甲羅の頂点が見えたと思うと一気にそれは浮上した。
それは1つではない。
あっという間に海岸線を埋め始めたそれは余りに巨大だった。3メートルもの全高と幅は5メートル程、亀のような姿をした巨体。そいつらは人の戦意を削ぐには十分すぎるほどの異様。それが波のように押し寄せてきた。
未だに海中にいる奴らに戦車による砲撃が降り注ぐがまるで効いていない。少しの間足止めになっているだけだ。
戦場に不安が広がり、恐怖が伝播していた。
特に歩兵にはそれが顕著だった。
瞳に力が無い。
彼らの意識には1つの共通した絶望。
人の兵器が効かない!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
力強い咆哮が戦場に響く。
「我が名は『喰らう者』!」
限られた3分をコウは初めに使用した。
あんまり書き溜められてないんですよね…
集団線を描くのが初めてというが一番大きいネック。




