2-4 脱出と迷走の始まり
2章もそろそろ大詰めです
山小屋のリビングでルウラは暇をもてあましていた。
軟禁状態の上に暇を潰すものがまるでない。
何度か脱出を試みようとするものの、あの老人はまるで隙をこちらに見せなかった。
どうやら常時発動でファクターが無効にされているらしく、離脱は難しいと結論に達した。そんな中、何度かハヅキに良くわからない実験をさせられていた。
コップを動かしてみろ。
失敗した。
紙に何でもいいからファクターを放って見せろ。
どこからか吹いてきた風に紙が飛んだだけだった。
水を氷にして見せろ。
成功したが、後ですぐにオールが出てきて「丁度、氷が欲しかった」などといわれた。
ルウラからしてみれば有益なことはまるでなかった。
オールが寝静まったところでもう一度、会議を開いているがハヅキは無言で何かを考えているようだ。
こういうときには話しかけないほうがいいのはわかるのだが、いかんせん暇すぎる。
目の前にあったティッシュを一枚とると、ハヅキに教えてもらった折鶴を作り始めるが、保持力が弱すぎてすぐに挫折した。
「ねぇ」
足をぶらぶらさせていたルウラにハヅキが小声で話しかける。
「脱出の算段がついたわ」
足を止め、意思に満ちた目でハヅキを見返す。
指針が定まったならそれを果たすのみだ。
「ただし、状況しだいではどちらかしか逃げられない」
ハヅキは冷静にそうルウラに告げた。
ハヅキの言葉にルウラは無言で、笑みで返した。
彼女はどちらも逃げられないと言わなかった。
自分を信じてくれている証と明確な道を示してくれだ。
初めからうまくいくとは思っていない。
この脱出で日本に帰る。
その後のことは後で考えよう。
今の状況はよろしくない。
何より停滞は退屈だ。
文化祭の次の日。
コウとメツ、そしてアイは対ビの屋外訓練所の中央で相対していた。
「なんでこいつがここにいる?」
「悪い?あたしがメツのセコンドよ」
「そんな……ボクシングじゃないんだから……」
メツは苦笑。
「かまわねぇよ」
コウは溜息をついて、アイを放置することにした。どんな理由にせよ、彼女がいることはある意味では僥倖だと思ったからだ。
文化祭から帰った後、対ビの自室に帰ったコウは轟に頼み、メツの戦闘に関するデータをもらった。
本来であれば一兵卒のメツにデータなど最低限のものしか残さないのだが、戦力足りえずとも、彼が非常に貴重な存在であるということもあり、結構な量のデータがあった。
戦果0。
初めの実戦では後ろで震えていた。
長々と色々な数値とともにもったいぶった書き方がされたレポートであったが、かいつまんで説明すればそう書いてあった。
どう考えても戦闘に向いていない。
誰がどう見てもそう解釈するだろう。
今ならまだ引き返せる位置にメツはいる。
「ちなみにどんな訓練するの?」
「模擬戦。大の男が二人して、ちゃんばらごっこすんだよ」
皮肉を交えてコウは説明する。
コウは模擬戦用に鞘を着けたままの両刃剣を2本、右手にまとめて握っていた。
メツは対ビ一般戦闘員の装備だ。
もちろん模擬戦用に殺傷能力は潰してある。
拳銃の弾はゴム弾だし、一振りの剣もコウと同じものだ。
「早くこれもってあそこのベンチにいきな。あぶねーよ」
アイにホイッスルを渡す。
「俺たちが手をあげたら鳴らしてくれ」
「おっけぃ」
グッと親指を突き立てて、アイはベンチへと走っていった。
「相変わらず元気な奴だな」
アイの後姿を見てコウは微笑む。
「お前、アイをわざわざ施設に入れたなんて赤巻神に知られたら怖いんじゃないか?あの手の女は嫉妬深いからなぁ」
この対ビの施設は関係者以外立ち入り禁止だ。
いくらアイがハヅキの妹だからといって入れるものではない。
大方、メツが引き入れたのだろう、とコウは当たりをつけた。
「え?僕じゃないよ?」
「なに?」
「お~い。そろそろ良い~?」
ベンチに着いたアイの声が聞こえて2人はその話題を打ち切った。
今、重要視すべきことではない。
「俺は、お前たちを守る。絶対にあいつらには殺させない。だから厳しくいくぜ」
コウは獰猛な笑いをメツに向ける。
その笑みを見て身震い。
「望むところさ」
強くならなければならない。
メツも冷や汗をかきつつも、何とか笑みを返す。
両者は一定の距離をとり、そして手を上げる。
「よ~い……」
100メートル走の始まりのようなのんきな掛け声。
笛が鳴る。
コウが息を短く吸った。
場の空気が一変した。
コウから発せられる気配は肉食獣が獲物に飛び掛る寸前のそれだ。
メツは体が硬直した。
コウは本気だ。
本気でメツを潰しに来る。
一瞬で理解できた。
メツが理解を終えた瞬間、コウは全力で、手加減なしで、地面を蹴った。
両者の距離は一気にゼロになった。
コウの剣が横薙ぎにひらめき、全力でメツに襲い掛かった。
三章までラストスパート!(まだ書きあがっていません)




