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【短編】悪役令嬢は努力を無駄にされたくない。

掲載日:2026/05/24


難産でした、4,000文字が十日もかかりました……。

サクッと読めるでしょうから、楽しんでくださいませ。




 令嬢転生モノを読み漁っていた前世。


 私は、夢に見て憧れていた。

 令嬢に転生する新しい人生を。


 令嬢はいい。だって貴族の娘だもの。よっぽど変な家でなければ、高い教養を身に付けられる。


 魔法ある異世界だったら、才能さえあれば、きっと学べるだろう。


 貴族の娘として、蝶よ花よと育てられて、何不自由なく生活が出来た。


 幸運にも、異世界の令嬢に転生しただけではなく、第一王子の婚約者である公爵令嬢だ。

 ラティーシャ・エルマンス公爵令嬢。

 艶やかな黒髪と黄色の瞳を持つ、美しい令嬢。魅惑的な揚羽蝶のようだと、称賛される美貌の持ち主。


 未来の国母になるべく、王妃教育も受けていき、自画自賛するほどの素晴らしい淑女に成長していった。


 入学した王立学園では、婚約者と切磋琢磨し、首席を取り合ってきた。

 学園では、最優秀なカップルとして尊敬されている。羨望の眼差しを、一心に向けられた。


 順風満帆で、私は新しい人生に満足して、幸せだったのだが……。



 とある令嬢が現れてから、おかしいことが起きた。



 私の婚約者、第一王子のセシール・ファーゼント殿下が、重々しく打ち明けた。


「おかしいんだ……。あの令嬢に出逢ってから、頭から離れない……ずっと考えてしまうんだ」


 あの令嬢。

 婚外子で最近、実の父親であるミーティン男爵に引き取られて、王立学園に編入してきた令嬢、ピティ。

 ピンクベリーのカールしたボブヘアーで愛くるしい顔立ち。貴族令嬢としての教育を受けていないから、特に異性との距離感を誤り、小柄な身体でついて回る姿は、興奮が収まらない子犬のような令嬢だ。


 高位の貴族令息、それも顔立ちのいい男子生徒に猫撫で声をかける。それは、王子であるセシール殿下も例外ではなかった。実に、不敬。しかし、王立学園は身分を気にせず交流をする場でもあるから、罰することも出来ない。


 婚約者に色目を使われた女子生徒は、不満を募らせていた。


 それに目を付けられた男子生徒は、悉くミーティン男爵令嬢の虜になった様子。


 令嬢達の不満や怒りは、そろそろ爆発をするだろう。


 私の婚約者であるセシール殿下も、近付かれたのだ。立場が一番上にいる私に、愚痴にも似た相談が押し寄せた。


 こうなっては、私は前世でよくウェブ小説で読んだ王子に婚約破棄される悪役令嬢になりそうだ。


 この調子では、パーティーなどの表舞台で婚約破棄と断罪でもされるのではないか。


 それは困る。私の努力が無駄になるじゃないか。


 どうしたものかと考えていれば、セシール殿下のこの告白。

 恋に落ちたにしては、嫌悪感が滲みだしていて、混乱している様子。


「どう考えてもおかしいんだ……。幼児レベルの礼儀作法の令嬢に、何故胸が高鳴る? 苛立ちによる不整脈か? 顔立ちは可愛いかもしれないが、洗練された美しいラティーシャの方が魅力的だろう? 一体どうしてなんだ? わからない」

「……まあ」


 ……どうにも様子がおかしすぎる。


「これが恋というものなのか?」と、頭を抱えるセシール殿下。


 恋愛モノのヒーローだったならば、頬を紅潮させて照れた表情をするのだろうが、今のセシール殿下は苦悩に満ちた表情だ。恋愛相談もどきを、実の婚約者にする罪悪感というわけでもなく、本当に理解に苦しんでいるといった風だ。自身のことなのに。


 相談としたいと言われて、東屋の下でお茶をしていたから、カップを持っていた私はそのまま置く。

 そして右手を頬に当てて、小首を傾げた。考える素振りをしたけれど、すぐに答えが出る。


「セシール殿下、必ず解決してみせますわ」

「え……?」


 ニコリと微笑んだ。

 淑女として身に付けた微笑みを見て、セシール殿下は呆けた顔をした。


「安心していてください」


 優雅に紅茶をひと啜り。

 そして、告げる。


「あなた様の努力()無駄にはいたしません」


 私の努力を無駄にさせはしない。



 ピティ・ミーティン男爵令嬢は、異性を虜にしている魅力的な編入生である。

 どんな上位貴族の男子生徒でも、想い合っている恋人や婚約者がいる男子生徒でも、ミーティン男爵令嬢に気を許してしまう。

 まだ婚約破棄の話は聞いていないが、カップルの何組かが破局したという話はいくつか聞いている。

 爆発は、時間の問題。


 私はそんな令嬢達に伝達をしておいた。いざという時、自分のパートナーを押さえられるようにしてほしいと。



 そうして、私は舞台を整えた。

 場所は、王立学園の大庭園。

 物語ならば、夜会という舞台がテンプレだろうが、生憎台無しにする夜会を選ぶわけにはいかない。


 大庭園で、何かが起きる。そう噂を広げ、生徒達も集まってきた。


 主役のミーティン男爵令嬢は、セシール殿下を筆頭に呼び出してくれる手筈だ。その方が確実だから。

 ミーティン男爵令嬢は、セシール殿下にデートにでも誘われたとでも思ったのか、ご機嫌な笑顔でセシール殿下の腕に自分の腕を絡ませてスキップして登場。


 腕にぶら下がられたセシール殿下は、嫌そうな顔ではあるけれど、引き剥がせないでいる。側近である一同も、複雑な表情だ。


「初めまして、エルマンス公爵家のラティーシャです」

「きゃ! 怖い! あの人、あたしを睨んできますぅ~、セシール様ぁ」


 カーテシーで自己紹介をしたのに、彼女は挨拶を返さず、セシール殿下にしがみついた。白々しい涙声で怯えたふりをする。

 セシール殿下だけではなく、側近達も、ミーティン男爵令嬢の礼儀知らずな態度に、顔を引きつらせていた。


「ピティ・ミーティン男爵令嬢。そちらのセシール殿下は、私と婚約関係にあります。婚約者のいる殿方に密着するほど近付かれるのは、誤解を招きますわ」

「酷いです! セシール様ぁ!!」


 セシール殿下に泣きつく。私の言葉が理解出来ないのだろうか。話が進まない。


「話が通じないようですので、単刀直入に言わせていただきますね。ピティ・ミーティン男爵令嬢、あなたを断罪いたしますわ」

「はっ?」


 断罪と言われれば、流石に被害者ムーブの仮面が外れたようで、間抜けな顔を晒したミーティン男爵令嬢。

 私は両手を合わせて、優雅に微笑んだ。


「あなたが使っている『魅了』の魔法は、禁忌魔法です。ミーティン男爵家も、処罰が決定しています」

「はっ……はぁ!?」

「調べはついています。男爵家が禁忌魔法書を隠し持っていた。大罪です」

「はぁああ!?」


 ミーティン男爵令嬢は、演技も忘れて驚愕の表情で声を上げる。


 セシール殿下の矛盾した反応の原因は、『魅了』の魔法だった。


 かつて悪女が使って、国を傾かせたという禁忌の魔法だ。

 その名の通り、対象者を魅了する魔法。


 尤も、ミーティン男爵令嬢の『魅了』魔法は、傾国の事態までは引き起こすほどのレベルではない。恋だと錯覚させるが、理性までは奪えない。だから、セシール殿下のようなまともな反応もいる。


 呆気なくミーティン男爵令嬢に骨抜きにされた貴族令息は、意思の弱い愚か者だっただけ。


「一番の大罪人は、あなたです。禁忌魔法を直接使っている実行犯ですから」

「っ! ~っ!! セシール様、助けてください!! 誰か助けてください!! あたしを傷付けるこの人を罰してください!!」


 地団駄踏んでは声を張り上げたミーティン男爵令嬢の瞳が、怪しく光った。

 魔力の波長を感じる。魔法が発動させられた。


 強張ったセシール殿下達が、一歩足を踏み出す。周囲の男子生徒も動こうとした。

 植え付けられた恋心が、ミーティン男爵令嬢のための行動に突き動かされているのだろう。まぁ、想定内だ。


 この時のために、婚約者や恋人を押さえてほしいと頼んでいたので、各々魔法で拘束したり、護衛に拘束させてねじ伏せていた。


 私も遅れを取らない。パチンと、指を鳴らす。


 練り上げた魔力は、星空のような煌めく黒い靄として広がって、整えられた植木に浸透する。魔力が浸透したそれを操り、セシール殿下達を拘束した。

 ひらひら。黒い靄の中に、揚羽蝶が無数に羽ばたく。


 縋る相手がいなくなってオロオロと周囲を見回しては、自由に舞う揚羽蝶を振り払うミーティン男爵令嬢を、私は微笑んで見やる。


「あら? 抵抗しますか? すでに国王陛下には報告をし、宮廷魔術師を手配していただきました。『魅了』の魔法を解きますけれど、術者自身を消しても『魅了』の魔法は解けます」

「ひっ!!」


 暗に殺めることを仄めかすと、腰を抜かした。助けてくれる魅了の奴隷は、全員拘束されている。この大庭園にいる迷惑をかけられていた女子生徒や遠目で見た男子生徒には、批難や侮蔑の眼差しを注がれていた。彼女は、孤立無援だ。抵抗らしい抵抗なんて、出来はしない。


「私からセシール殿下を奪おうとするなんて、許しませんわよ」


 右手を上げて伸ばした人差し指の爪先に、一羽の揚羽蝶が留まる。

 私は嘲笑うように不敵に笑って見せた。


 ヒロインを屈服させる悪役令嬢の図だろう。


 悪役令嬢ねぇ……。


 『魅了』の魔法をかけられないように対策をした宮廷魔術師が、直接ミーティン男爵令嬢を拘束して連行していった。そこからはセシール殿下を始め、『魅了』を解いていく。



 場所を変えて、サロンへ。向き合って座って、一息つく。


「大丈夫ですか? セシール殿下」


 私の拘束で身体を痛めていないかと確認する。怪我はないようだ。


「大丈夫だ。ようやくスッキリした……。ありがとう、ラティーシャ」


 ここ最近の苦悩がすっかり晴れたようで、セシール殿下は晴れ晴れとした笑顔を見せた。


「国王陛下のお力も借りました。私だけの力ではありませんわ」

「大罪人を捕らえた功績だというのに、謙遜だな。流石、ラティーシャ」


 セシール殿下に笑われて言われたけれど、本当に大したことはしていない。

 ミーティン男爵令嬢と対峙して、操られようとした被害者を拘束させただけ。

 陛下には進言して、宮廷魔術師の手配もしてもらった。騎士団も、ミーティン男爵家を家宅捜索して捕らえてくれただろう。


「……セシール殿下」

「なんだい? ラティーシャ」


 私は、ニッコリと笑いかけた。


「私、傷つきましたわ」

「え?」


 眉を下げてそう言うと、セシール殿下は顔色を変える。


「いくら『魅了』の魔法をかけられたと言っても、婚約者から恋の相談をされて……私は傷付きましたわ」


 しくしく、と指で目元を拭う。

「あ、いや……しかし……」と、セシール殿下は口ごもる。


「他人への恋心を打ち明けられて……やがて、婚約解消までいき、私達の未来がなくなるところでした」

「そ、それは……もう阻止された……」

「あら。謝ってくださらないのですか?」

「……」


 結果、未来を台無しにされることはなかったが、危うくそうなるところだった。

 謝ってほしいと見やると、セシール殿下は困り顔をしては立ち上がる。そして、私の前で片膝をついた。私の手を取り、握り締める。


「申し訳ない、ラティーシャ。君を傷付けてしまって。もう二度と僕達の未来がなくなるような不安を感じさせない」


 私はそれを満足げに見つめて微笑んだ。


「約束してくださいね、セシール殿下」


 右手でセシール殿下の頬を撫でて、私はほくそ笑む。


「私の努力を無駄にしないでください」

「っ!」

「私をあなたの王妃にしてくださいね、セシール殿下」


 セシール殿下は、顔を赤らめた。

 それこそ、まるで『魅了』の魔法をかけられたかのように、私を見惚れて表情で見上げる。

 トロンとした青い瞳をしているけれど、決して『魅了』の魔法をかけていない。

 その必要なんてないのだから。


 努力を無駄にしないでくださいね、私の殿下。



 


新ネタ短編書きたい〜!から十日で、やっと完成!

本当はもっと王子が『魅了』されて婚約破棄劇まで行くつもりでしたが、ハッピーエンド好きな作者は今回被害者を酷くしませんでした。

最初はもっとダークな魔法展開でざまぁを考えていましたが……

揚羽蝶いいな?と思ってダークさ軽減しました。

ん? ハッピーエンドかって? 両想いハッピーエンドです。


婚約破棄と断罪をされて王妃になるはずだった未来が絶たれる展開が多いですが、王妃になるための努力を無駄にされるのは大変遺憾だなだと思い、回避パターン書いてみました!

サクッと楽しめたなら、リアクションとポイント、ブクマをいただけると嬉しいです!


今作で180作目です!

2026/05/24◎



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