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さかな達のanthology  作者: mina


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第二話 ミッション:人魚

パパとママは言った。

「弟を助けてあげるのが、お兄ちゃんなんだよ」

分かってる。もちろん、僕は、パパとママのことも助けてあげるけどね。


僕が生まれた時に、おじいちゃんとおばあちゃんが、こいのぼりを買ってくれた。

庭に立ててある柱に取り付ける、すごく大きくて、かっこいいの。


一番上にカラフルなひらひらがあって、順番に、黒いお父さんこいのぼり、赤いお母さんこいのぼり、青と緑の子どもこいのぼり。青が僕で、緑が弟のハル君。


こいのぼりは、普段はきれいな箱に入れて、押し入れの中に大切にしまってあって、四月から、五月五日の子どもの日まで、庭に飾るもの。近所の公園の桜が満開になったら、それが合図だって、パパとママが教えてくれた。


そして、待ちに待った公園の桜が、きれいに咲いた。

「そろそろ、こいのぼりを出すか」

「今度の週末ね」


僕は、風がたくさん吹きますようにと、神様にお願いする。

風が吹くと、こいのぼり達は皆、ぷっくりと膨らんで、春の空を、力強く泳ぐんだ。


よく晴れた、四月の最初の日曜日。

こいのぼりの箱を抱えて、ママが真剣な顔で言う。

「これ、すごく高いんだから、絶対壊さないようにね」

大丈夫だよ。ママ。僕はお兄ちゃんだから。


パパとママが庭に出て、こいのぼりを柱に取り付ける準備をしている。

リビングの床で寝ているこいのぼり達は、今はぺしゃんこ。

だけど、油断はできない。

大きな丸い目が、僕を見ている。僕が目を離したら、隙を見て泳ぎ出そうとしているのかもしれない。この大きなこいのぼり達が一斉に逃げ出したら、僕は、全部を一度には捕まえられない。ハル君は、一匹も捕まえられないだろう。僕が、ハル君の分も頑張らないと。


青と緑のこいのぼりをじっと見張っていたら、斜め後ろからハル君が僕を呼んだ。

「お兄ちゃん、見て」


振り返って、僕は驚いた。

ハル君の腰から下が、こいのぼりになっている。こいのぼりの口から、自分の体を入れたらしい。


「僕、人魚になったよ!」

ハル君は、寝転んだまま、得意げに足を動かして見せた。こいのぼりの体が、上半分だけ持ち上がる。しっぽは下に垂れ下がったまま。ハル君の足は、しっぽの先までは届いていないらしい。


しかし。

僕には。

どう見ても。

巨大魚に飲み込まれるハル君の図にしか見えない。


困った。

ハル君は、とても楽しそうなのに。


――弟を助けてあげるのが、お兄ちゃんなんだよ。

パパとママは言った。

そう、僕はお兄ちゃんだから、ハル君をちゃんと人魚にしてあげないといけない。


僕に今、任務が与えられた。

ミッション:人魚。


どうすれば良い? 考えるんだ。

この前見た映画の中の人魚は、上半分が人間の体で、下半分が魚の体。

分かった!

つまり、こいのぼりの顔を隠せば良いんだ。


僕は、ハル君の腰のあたりで、こいのぼりの顔を見えないように折り曲げた。ハル君の体を転がしながら、少しずつ折り曲げて。思ったよりちょっと大変だったけど、できた!


その時、パパの声がした。

「何やってるんだ」


僕達は、ハッとして振り返る。

パパは驚いた目で僕達を見つめ、動かない。


「えっと……。ハル君が人魚になりたいって言うから。僕、手伝った」


パパは大股で近づいて来て。

大きな手で、僕の頭をわしゃわしゃした。

「すごいな! こんなの良く思いついたなあ。よし、写真撮ろう!」


やっぱり、パパは、僕達のパパだった。


パパは、スマホでハル君人魚の写真を撮り始めた。僕はもちろん、パパを手伝ってあげる。パパの指示に従って、ハル君がうつ伏せに寝転び、僕が、しっぽの先を持ち上げたりして。


その時。

「何してるの!」

ママの大きな声がした。

僕達は、一斉に振り返った。


「戻ってこないと思ったら、三人でこんなことして!」

ママが、腰に両手を当てて、僕達を見下ろしている。

僕達家族の中で、ママは、一番強い。


「ママ、見て。僕、人魚になったよ」

ハル君が、大はしゃぎで言う。


僕は、パパを見る。

パパも、僕を見る。

二人で、ママを見る。


ママは、力強く言った。

「ママも混ぜなさい!」


やっぱり、ママは、僕達のママだった。

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