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俺の嫁は最強のオーク嫁。無人島を開拓して、異世界一の村を目指すことにした。  作者: ともいびと


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040 土と炎の乾燥法(ハンギ・ドライ)

朝。俺の気分は最高だった。 いつもより一輪車が軽い。足取りも軽い。


理由は明白だ。昨日、ミーラさんに「大好き」と言ってもらえたからだ。


……ああ、わかってる。俺だって「バカ」じゃない、それくらいの分別はある。


彼女の故郷の味である焼き芋や蒸し料理を作ると約束したから、


そのお礼としての「大好き」だ。


食いしん坊な彼女らしい可愛い冗談。


わかってる。わかってるけど……やっぱり嬉しいもんは嬉しい。


それに、難航していたイチイの乾燥問題に解決の糸口を見つけたことも、俺の背中を後押ししていた。


俺は村の風下、少し離れた平原の丘に穴を掘っていた。 深さ四十センチ、長さ二メートル。比較的柔らかい土を選んで掘り進め、横長のピットを形成する。


「とりあえず、こんなもんか……」


汗を拭っていると、ドンさんとセイルさんがやってきた。


「二人とも、見てもらいたいものがあるんです」


俺はこの溝を指差しながら、昨夜ミーラさんから聞いた故郷の知恵を説明した。


溝の中で大量の熾火おきびを作り、石を焼く。その上に葉っぱで包んだ食材を並べ、さらに土を被せて数時間待つ。大地の熱でじっくり蒸し上げる調理法。 これを応用して、イチイの木材を「低温蒸し乾燥」させてみたいんだ、と。


「この溝なら使い捨てです。万が一毒が出ても土に還るし、他の道具を汚すこともない。どうですか?」


二人の顔を覗き込む。 職人気質のドンさんが、まず口を開いた。


「わからん……だが、理屈は通っておるな。芋が焼けるなら、木材も芯まで加熱できるはず。急激な直火よりは、材も割れにくいかもしれん」


慎重派のドンさんが、意外にも前向きだ。 セイルさんも、溝の深さを測るように見つめ、静かに頷いた。


「……試してみる価値はあるな。いや、現状これ以上の策はないのかもしれない」


「じゃあ……!」


「ただし、試すのは半分、六本だけだ」


セイルさんは釘を刺すように言った。


「魅力的な案だが、実績がない。貴重なイチイをすべてこれに賭けることには反対する」


「それは……まあ、そうですけど。イチイなら、また頑張って伐採に行けば……」


「……その件については、悪かったと思っている」


セイルさんの言葉に、俺は思わず動きを止めた。あの合理主義者のエルフが、謝った?


「夏の伐採があんなに危険だとは知らなかった。俺の知識不足だ。これ以上、お前たちを無闇に危険な目に合わせるわけにはいかない」


「お、おう……」


素直な謝罪に、毒気を抜かれてしまった。セイルさんも、彼なりに俺たちの身を案じてくれていたらしい。


「六本の案にはワシも賛成じゃ。自然乾燥でも全部がモノになるとは限らんしな」


方針が決まれば、そこからは早かった。 俺たち三人は地面に図を書きながら、さらに細部を詰めていく。


「底に砂利を敷いてから野焼きをしよう。蓄熱性が上がるはずだ」 「燃料は雑草や枯れ枝でいい。わざわざ高い薪を使う必要はないな」 「ハルキ、木材の両端に松脂まつやにを塗っておけ。そこから急に乾燥して割れるのを防ぐためだ」


ドンさんからはプロの知見が次々と飛び出す。


さらに、木材を濡れた布で巻き、表面を水溶きの粘土でコーティングする案も出た。ムラなく蒸し上げるための工夫だ。


「仕上げに、土の上にあしの束を数本刺して煙突にしましょう。ここから水蒸気を抜けば、中が蒸れすぎるのを防げるはずです」


三人の知識が混ざり合い、即興の「土壌乾燥炉」のイメージが完成していく。 この過程で、俺たちの心の中に「いける」という確信が育っていった。


ドンさんはイチイの準備。セイルさんは湖畔へ葦を獲りに。 俺は、運搬をミーラさんに手伝ってもらうことにした。


「ハルキさん、もう作ってくれるんですか? 仕事はやーい!」


駆け寄ってくるミーラさんの笑顔は、太陽よりも眩しかった。本当に嬉しそうだ。


「あっ、いや……ごめん、ミーラさん。これ、木材を乾燥させるために使うんだ……」


申し訳ない気持ちでそう告げると、俺の「ご機嫌」な気分は、罪悪感で一気に吹き飛んだ。


「あっ、そっか。そうだよね、びっくりしちゃった。えへへ」


ミーラさんは一瞬きょとんとしたが、すぐに俺の肩にポカポカとショルダーアタックをかましてきた。


「期待させちゃってごめん」と、俺は乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。


材料を運んでいると、いつの間にかガルドがやってきていた。 彼は何も言わず、溝の周りに細い木材と杉の枝葉を立てかけ、簡易的な屋根を作り始めた。


「途中で雨が降ったら台無しだろ? ドンに言われてな」


やんちゃそうに笑うガルドの気遣いがありがたい。


準備が整い、作業が始まった。 三、四時間かけて熾火を作り、砂利と混ぜて熱を均一にする。その上に薄く土を撒き、ドンさんが用意した「粘土コーティング済みのイチイ」を並べる。 上から大きな葉を被せ、土を盛って密閉。

最後に葦の煙突を数か所、均等に突き刺す。


(熾火を作るのは大変だけど、後は放置でいい。人手の足りないこの村には、ぴったりの方法だな……)


しばらくすると、葦の煙突から白い煙が立ち上り始めた。


「……うまくいっているようじゃな」


いつの間にかドンさんが隣に立っていた。


「そうだといいんですけど」


「一日、いや二日はこのまま様子を見よう。楽しみじゃな」


丘の上に、夕日が長い影を落としていた。 立ち上る白い煙が、オレンジ色の空にゆっくりと溶けていくのを、俺たちはいつまでも眺めていた。



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【異世界豆知識:土と水蒸気の魔法「木材乾燥」の裏側】

 ハルキが提案した「地面に穴を掘る乾燥法」について、技術的な背景を少しだけご紹介します。


炭焼き技術のアレンジ

 本作でハルキたちが試みた「穴を掘って熱を籠もらせる」手法は、マオリ族の調理法であると同時に、古来より行われてきた「炭焼き(伏せ焼き)」の工法を応用したものです。

 土の中に熱を閉じ込め、酸素を制限しながらじっくりと加熱する技術は、人類が古くから培ってきた「大地のオーブン」と言えます。


【異世界豆知識:木が「乾く」とはどういうことか?】

 ハルキたちが挑んでいる「木材乾燥」。単に水分が抜けるだけのように思えますが、実は植物学的には劇的な変化が起きています。


第一段階:細胞の隙間から抜ける「自由水じゆうすい

 伐採直後の木材には、細胞の空洞部分(管のような場所)にたっぷりと水が満たされています。これを「自由水」と呼びます。


イメージ:ストローの中に入っている水のようなものです。


変化:乾燥の初期段階では、まずこの自由水が抜けていきます。この段階では重さは劇的に軽くなりますが、木材自体の大きさ(収縮)や強度はそれほど変化しません。


境界線:「繊維飽和点せんいほうわてん

 自由水がすべて抜けきり、細胞の「壁」の中にだけ水分が残っている状態を

「繊維飽和点」と呼びます。含水率でいうとおよそ30%前後。ここからが乾燥の本番であり、最も難しい局面です。


第二段階:細胞の壁から抜ける「結合水けつごうすい

 繊維飽和点を超えると、いよいよ細胞壁そのものに含まれる「結合水」が抜け始めます。


イメージ:湿ったスポンジの「素材そのもの」に含まれる水分が抜けて、カリカリに硬くなっていくような状態です。


劇的な変化:結合水が抜け始めると、木材は初めて「収縮」を始め、同時に「強度」が飛躍的に高まります。


現代の工業的乾燥法(人工乾燥)

 現代の日本では、木材をそのまま自然乾燥させるのではなく、専用の「乾燥庫キルン」を用いた人工乾燥が増えています。

 温度と水蒸気:一般的には60度から80度程度の中温、あるいは100度を超える高温で乾燥させます。


ポイントは「水蒸気」を併用すること。

 熱風だけで乾かすと表面だけが先に硬くなって割れてしまいますが、水蒸気で湿度を管理することで、芯までムラなく水分を抜くことができます。

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