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俺の嫁は最強のオーク嫁。無人島を開拓して、異世界一の村を目指すことにした。  作者: ともいびと


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033 終わらない仕事

炉に火を入れてから、二日後。

まだ地面には、じんわりとした余熱が残っていた。


炉の前には人が集まっていた。

俺に、猫夫のニケさん。

エルフ嫁のフィアさん、ミーラさん。

手を止めて、様子を見に来た者もいる。


開拓団の仲間からしても、大きなイベントであり

昨日の夕食の時に話題になったからだ。

今は、炉の入り口を、じっと見つめていた。


成功か、失敗か。

それを分けるのは、これからだ。


「……行きます」


そう言って、俺は炉口のレンガを外した。

熱気が、ゆっくりと流れ出す。

頭を低くし、慎重に中へ入る。


奥から、まず一つ。

次に、もう一つ。


壺を外に出した瞬間、

張り詰めていた空気が、ふっと緩んだ。


「割れてない……」

「焼けてるぞ」

「いけたんじゃないか?」


焼き上がった壺は、見た目にはおおむね良好だった。

致命的な割れも、歪みもない。


小さな歓声が上がり、

開拓団の輪が、自然と壺の周りにできる。


その輪から、少し距離を置いた場所に、

ドワーフ夫のドンが立っていた。


ドンは、完成した壺に、手を伸ばさない。

ただ、炉の前に立ち、

一仕事終えたレンガを、無意識に撫でている。


――うまく、いった。


頭では、分かっている。

壺は割れずに焼き上がり、

開拓団は、確かに一歩前へ進んだ。


それでも、胸の奥が、わずかに重い。


(……わしは)


言葉にならない思考を、そこで止める。

ドワーフの男は、悩みを言葉にしない。

愚痴も、弱音も、吐かない。


それが「一人前」だと、そう教えられてきた。


やると言ったことは、必ずやる。

出来るまで、試行錯誤を繰り返す。


それが、ドンの誇りだった。


だが今回――

本当は、もっと立派な炉を作るつもりだった。


生まれ育った村にあった、重厚なレンガ炉。

炎を飲み込み、唸るように燃える、あの炉。


あのイメージが、頭から離れなかった。

だからこそ、時間も、材料も、足りないと悟った瞬間、

何も言えなくなった。


(出来ない理由は、分かっとる)


(……それでも)


「出来なかった」と認めることは、

自分が積み上げてきたものを、

否定することのように思えた。


だから、黙って働いた。

黙って、代替案を探した。

黙って、この炉を作り上げた。


それが正しかったのか――

その答えを、誰にも聞けないまま。


「ドンさん」


背後から声がして、ドンは振り返った。


ハルキが立っている。

手には、焼き上がった壺が一つ。


「これ、見てほしくて」


無言で受け取る。


ずっしりとした重み。

指に伝わる、焼き締まった感触。


割れていない。

致命的な狂いもない。


「……初めてにしちゃ、上等だな」


それだけ言って、壺を返す。

職人としての、評価だった。


余計な言葉は、続かない。


だが、ハルキは少し考えてから言った。


「ありがとうございます。

 これで、冬に向けての保存容器に、目途が立ちそうです」


「……そうじゃな」


「ドンさんがいなければ、炉は完成しなかったですよね」


ドンの眉が、わずかに動く。


(……まぁ、素人が

 熱の対流と反射を制御するのは、無理じゃからな)


それだけだった。


励ましでもない。

慰めでもない。

過去を否定する言葉でもない。


ただ、今を確認する言葉。


ドンは、しばらく黙っていた。


(……ああ)


胸の奥で、張り詰めていた何かが、静かに緩む。


理想を捨てたわけじゃない。

負けたわけでもない。


――今は、これでいい。


ドンは、炉を見る。


不格好な炉だ。

レンガと土と、工夫と失敗の跡が、むき出しになっている。


だが、この炉は、嘘をつかない。

火は通った。

壺は焼けた。

人は、助かった。


それで、十分だった。


ドンは、炉口のレンガを一つ、積み直す。


修正でも、やり直しでもない。

ただの確認作業。


少し離れた場所で、ピリカがそれを見ていた。


声は、かけない。

労いもしない。

問い詰めもしない。


ただ、夫がまた前を向いていることを、静かに受け止める。


彼女は知っている。

この男は、迷いながらも、必ず歩き続ける。


だから――

この背中が折れない限り、黙って隣に立つ。


ドンは、何も言わない。

だが、次に何を作るかを、もう考えている。


彼の仕事チャレンジは、終わらない。

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