003 オーク嫁ミーラと開拓団へ
「……生きてる?」
褐色がかった肌に、筋肉のついた腕。
そして――わずかに覗く、オークの特徴。
(……オーク?)
「大丈夫? 折れてない?」
「あ、ああ……たぶん」
俺は呆然としながら答えた。
「よかった。間に合って」
そう言って、彼女はほっとしたように笑った。
鑑定が、勝手に走る。
――種族:オーク
――状態:健康
――特徴:筋力が非常に高い
(……非常に高い、ってレベルじゃなかったぞ今の)
あの木材の山を、文字通り「弾き飛ばした」のだ。
普通の人間なら、潰されていた。
「助けてくれて、ありがとう」
「ううん。見てたら危なそうだったから」
それだけ言って、彼女は去ろうとした。
(……待て)
ここで何も言わなかったら、きっと二度と会わない。
そんな気がした。
「えっと! お礼、させてくれ!」
彼女はきょとんとした顔で振り返る。
「お礼?」
「飯。奢る。今すぐじゃなくてもいいから」
一瞬、間があった。
それから――
彼女の目が、分かりやすく輝いた。
「……ほんと?」
「ほんと」
「じゃあ、行く!」
即答だった。
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港近くの食堂で、俺たちは向かい合った。
彼女は、よく食べた。
本当によく食べた。
大皿の煮込みを、パンでぬぐうように平らげ、
次は焼き魚、次はスープ。
「……気持ちいい食べっぷりだな」
「えへへ。食べるの、好きなの」
そう言って彼女は笑う
「俺は、ただの港湾労働者。君は?」
「元冒険者。今は……一人」
その言葉に、少し影が落ちる。
俺は、無理に踏み込まなかった。
代わりに、彼女が話し出した。
「ねえ。開拓団って、知ってる?」
「噂くらいは」
新天地に渡る、夫婦限定の開拓団。
成功すれば土地と税の優遇がもらえる。
「私、あれに入りたいの」
「……夫婦限定、だけど?」
「うん。だから……結婚できると思ってた」
沈黙。
「今日、知ったんだ。順番、逆だって」
彼女は、ぎゅっと指を絡めて、言葉を続けた。
「私……開拓団に入れば、そこで相手を見つけて、結婚できるんだと思ってたの」
「新しい土地で、同じ立場の人たちと一緒に暮らして……自然に、そういう流れになるんだって」
小さく、首を振る。
「でも違った。申し込みの時に言われたの」
「夫婦じゃない人は、そもそも乗れませんって」
彼女は笑おうとしたのだろう。
けれど、口元がうまく動かなかった。
「考えてみれば、当たり前だよね」
「危険な土地に行くんだから、覚悟のある人しか連れていかない」
「でも……」
彼女の声が、少し震えた。
「私は、そこに行けば……やり直せると思ってた」
「独りじゃなくなれるって、思い込んでたんだ」
沈黙が、二人の間に落ちる。
「もう……独りぼっちは……いやだよ」
その言葉が、胸に刺さった。
痛いほど、分かってしまったからだ。
異世界に来てから、俺はずっと独りだった。
誰かと深く関わる勇気も、期待する気力も、少しずつ削れていった。
――でも。
「……なあ」
気づけば、俺は彼女を見ていた。
強くて、優しくて、そして今は、ひどく不器用な顔で。
「俺もさ。ここに来てから、ずっと独りだ」
「でも、気づいたら……生きるだけで精一杯だった」
一度、言葉を切る。
「正直に言う。俺は、立派な男じゃない」
「金もないし、強くもない。先の保証もない」
それでも、逃げずに続けた。
「だけど……一緒に悩むことならできる」
「一緒に生き残ることなら、やれると思う」
俺は、ゆっくり息を吸った。
「だから――」
「俺と結婚しないか」
彼女の目が、大きく見開かれる。
「契約でもいい。形からでいい」
「でも、独りで泣く場所に戻るより……」
「一緒に、開拓団に行こう」
しばらく、彼女は何も言わなかった。
やがて、ぽろりと涙をこぼしながら、笑った。
「……うん」
「よろしくね」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
こうして俺は、
力持ちのオーク娘ミーラと、人生を賭けた契約結婚をすることになった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この開拓団、
「まあ、悪くないな」
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たのんます。




