029 失敗作は、別の答えを持つ・塩の作成
ハルキたちが解体場を建設していた頃――。
猫夫のニケは、海辺の砂浜に立っていた。
桶から海水を汲み、砂の上にゆっくりと撒いていく。
じゅわり、と音を立てて砂が濡れる。
海水を撒き、天日にさらす。
乾いたら、また撒く。
単純だが、確実な方法だ。
ニケはこのやり方で、「塩」を作ろうとしていた。
「……うん、これぐらいなら……」
ぽつりと呟き、十分に乾いた砂の表面だけを、慎重に掬い取る。
集めた砂は木枠に入れ、その上から、もう一度海水を流し込んだ。
木枠の底には、小さな穴が空いている。
そこから、ゆっくりと海水が滴り落ちてくる。
塩分を多く含んだその水を土鍋に移し、火にかける。
時間をかけて煮詰める。
水分が飛び、鍋の中身は次第に、どろりとした粘りを帯びていった。
十分に煮詰まったところで鍋から取り出し、布でこす。
布に残ったものを広げ、再び天日に干す。
――そして。
「……出来た」
ニケの目が、わずかに見開かれた。
「塩が出来た……!
これで、塩漬けが出来るぞ!」
その声に、背後から足音が近づく。
「ニケさん、薪を持ってきましたよ」
ハルキだった。
「おお、ちょうどいいところだ」
「見てくれよ。今、塩の第一弾が出来たんだ」
「やりましたね、ニケさん」
ハルキは素直に言い、少し身を乗り出す。
「……さっそく、味見してもいいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
二人は、それぞれ塩を一摘みする。
そして、同時に口へ運んだ。
「……?」
「……?」
二人の表情が、同時に固まる。
「……何か、変ですね。これ……」
ハルキが首を傾げた。
ニケも、もう一度自分の塩を見つめる。
――違う。
明らかに、知っている「塩」とは違っていた。
かまどの近くのテーブルの上に、
ニケが作った塩と、王国から支給された塩を並べる。
比べるためだ。
その様子に、他のメンバーたちも、次々と集まってくる。
ハルキは、改めて二つの器を並べた。
片方には、王国から支給された残り少ない塩。
もう片方には、ニケが砂浜で心血を注いで作り上げた、“初産”の塩。
「……全然、違うな」
誰かが、ぽつりと呟いた。
王国の塩は、職人の手によって丁寧に精製されている。
一粒一粒が細かく、雪のように純白だ。
光にかざせば、結晶の角がきらりと輝く。
器を揺らせば、「サラ……サラ……」と乾いた音を立てた。
対して、ニケの塩は――白とは言い難い。
砂浜の微細な塵や、鉄鍋の成分が混じったのか、
色はくすんだ灰色を帯びている。
しかも、じっとりと湿っていた。
指で触れれば、さらさらではなく、重い粘りがある。
器を揺らしても音はせず、塊のまま鈍く動くだけだ。
「……味、見ていいか?」
ハルキはそう言って、ニケの塩を一摘み、口に含んだ。
(――っ……!)
瞬間、鋭い塩辛さが走る。
だが、それだけでは終わらない。
直後、強烈な苦みと渋みが、舌の奥を締め付けた。
良質な塩にあるはずの、ほのかな甘みは微塵もない。
錆びた鉄を舐めたような、金属的なえぐみが、口いっぱいに広がる。
思わず顔をしかめるハルキの横で、
王国の塩を舐めたミーラが、ぽつりと言った。
「王国の塩は……舌の上ですっと消えて、後味が甘いです」
「でも、こっちは……いつまでも苦みが残って、喉の奥がヒリヒリする……」
ニケは、肩を落とした。
「……そんなに酷いかよ」
「自分じゃ、結構いけると思ったんだけどな」
しばらく、沈黙が落ちる。
だが、ハルキは首を振った。
「いや、ニケ」
「これは、これで“正解”なんだ」
そう言って、灰色に濁った湿った塩を見つめる。
「食べる塩としては、失敗かもしれない」
「でも、この苦みの正体――」
ハルキは、はっきりと言った。
「――それこそが、俺たちが探してた、“別の資材”なんだ」
その言葉に、ニケは顔を上げる。
失敗だと思っていた塩は、
まだ、別の役割を持っているかもしれない。
俺の〈鑑定〉のスキルが、静かに道を示していた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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