028 始まりの場所・解体場の建築
レンガも、炉も、炭も。
どれも、時間が足りない。
その事実を、ドワーフのドンは、はっきりと理解してしまった。
理解してしまったからこそ、何も言えなくなった。
考えれば考えるほど、今やろうとしていることが、あまりにも遠く感じられてしまう。
――焦っても、どうにもならん。
そう自分に言い聞かせても、沈んだ気持ちは簡単には浮かばなかった。
翌日。
ドンは、エルフ夫のセイル、そしてハルキの三人で、川の近くにいた。
やるべきことは、まだある。
まずは、それからじゃ。
解体場の建設だ。
最初に、柱を立てる。
地面を均し、杭を打ち込み、しっかりと固定する。
簡素だが、風雨をしのげるよう、屋根も付けた。
次に、鹿を吊るすための仕掛け。
滑車代わりの横木を渡し、丈夫なロープを張る。
そして、作業用のテーブルを二つ。
丸太を半分に割り、斧で削って水平を出す。
精密とは言えないが、解体作業には十分だった。
作業の合間、セイルは完成しつつある解体場を、じっと見つめていた。
その目は、真剣で、静かだった。
――この場所が、始まりだ。
そんな考えが、自然と伝わってくる。
狩りも、加工も、保存も。
すべては、ここから始まる。
セイルにとって、この解体場は単なる「設備」ではない。
生きていくための、スタート地点だった。
柱を固定し終えたところで、俺はふと思い、口にした。
「そういえば……鹿って、どんな味なんですか?」
「オレ、食べたことないんですよ」
セイルは、ほんの少し口元を緩めた。
「安心しろ」
「これからは、食べきれないくらい、食うことになる」
ドンが、低く頷く。
「……確かにのう」
「保存が、できんからな……」
それが、現実だった。
今の俺たちには、鹿一頭を丸ごと調理できる大鍋もない。
肉を長期保存する確実な方法も、まだ整っていない。
今、鹿を狩っても。
使えるのは、ほんの一部だけだ。
残りは、無駄になる。
それが分かっているからこそ、ドンの口数は少なくなる。
セイルは、その空気を断ち切るように言った。
「次は、鹿肉の燻製だな」
「それと、保存ができる地下室だ」
その言葉には、不思議と迷いがなかった。
だが、俺は内心で思う。
――燻製は、なんとかなるかもしれない。
――だが、地下室は……。
掘る。
補強する。
崩れないようにする。
どれも、簡単じゃない。
俺は頭をかきながら、心の中でつぶやいた。
(できることから、コツコツだな)
完成したばかりの解体場を見渡しながら、俺はそう思った。
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