027 レンガと炭 - 時間との闘い
ドワーフのドンは、黙々と粘土をこねていた。
スコップで川砂を掬い、粘土に混ぜる。
水分を確かめながら、何度も何度も練り返す。
「……ふむ」
程よくなったところで、四角い木枠に詰める。
余分を落とし、形を整え、慎重に枠を外す。
日干し用のレンガだ。
一つ、また一つ。
同じ動作を繰り返しながら、ドンの思考は別のところへ向いていた。
――レンガの炉は、いつできるの?
先日の、妻の言葉が頭をよぎる。
答えられなかった。
いや、答えようがなかった。
今、ドンが頭の中で描いている炉は、本格的なものだ。
数千個単位のレンガを積み上げ、高温を長時間維持する炉。
ひと月、ふた月で完成する代物ではない。
「……うむ」
思わず、手が止まる。
粘土を押さえたまま、考え込んでしまった。
その時。
「こんにちは。追加の粘土、持ってきました」
顔を上げると、ハルキが一輪車を押して立っていた。
荷台には、湿った粘土がたっぷり積まれている。
「おお、助かる」
ドンは頷き、しばらく作業を続けてから、ふと思い立ったように口を開いた。
「のう、ハルキ。保存用のツボのことじゃがな……」
問題は、はっきりしている。
素焼きのツボでは、耐久が足りない。
灰釉をかけるには、圧倒的な火力が必要だ。
「高温を、長時間維持できる炉が要るんじゃ」
ハルキは、顎に手を当てて考え込む。
「……先に、テストはできないんですか?」
「小さい、試験用の炉を作るとか……」
簡単に言うな、と思いながらも、ドンは首を横に振った。
「小さくても、最低限の大きさは要る」
「結局、レンガが要るんじゃ」
今は、ひたすらレンガを作るしかない。
そう結論づけた、その時だった。
「……じゃあ」
ハルキが、少し間を置いて言った。
「炭作るの、手伝います」
ドンは、目を瞬いた。
確かに。
どのみち、大量の炭は必要になる。
今からでも、少しずつ備えておくべきだ。
「……そうじゃな」
ドンは、頷いた。
場所は、平らな土地を選んだ。
まず、中心に木を立てる。
円錐になるよう、縦に積み上げていく。
頂上には、煙突用の隙間を残す。
積み上げた木材の周囲を、枝と土で覆い、密閉する。
下部には、空気を取り込む穴を、いくつか開けた。
「ここが肝心じゃ」
頂上の煙突から、種火を落とす。
ゆっくりと、内部で燃焼が始まる。
煙が立ち上る。
「煙の色を見る」
「白から、青。最後は、透明じゃ」
時間をかけ、慎重に見守る。
数日後。
二人は、半径二メートルにも満たない、小さな円錐状の土の前に立っていた。
「……ドンさん。上手く、いってますかね?」
ハルキの問いに、ドンは答えず、黙って頷いた。
ハルキが、頂上に登り、煙突部分から崩していく。
中から現れたのは、黒い塊。
一見すると、成功に見えた。
だが――
ドンは、すぐに気づいた。
内部には、まだ木材の形が残っている。
まったく炭化していない部分も多い。
「……失敗、ですね」
ハルキは、軽く言った。
だが、ドンは言葉を失っていた。
炭焼き職人ではない。
だが、構造は理解しているつもりだった。
自信も、あった。
崩れた木材を手に取り、割ってみる。
そこで、ようやく原因に気づいた。
「……そうか」
低く、呟く。
「当たり前じゃったな……」
木材が、湿っている。
「炭にするには……一年」
「少なくとも、半年は乾燥が要る」
かつて見た炭焼きは、すべて十分に乾いた木材だった。
自分で用意したわけではなかったから、そこを失念していたのだ。
「乾いた薪を拾い集める手も、無くはない……」
だが、すぐに首を振る。
「しかし、炉は……一週間は火を絶やさず燃やさねばならん」
「この状態では、レンガ炉は……無理じゃ」
言葉にした瞬間、結論が胸に落ちる。
ドンは、その場に立ち尽くした。
自分で答えを出して、
自分で、それに打ちのめされていた。
レンガも。
炉も。
炭も。
――時間が、足りない。
ドンは、静かに息を吐いた。
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メモ
今回ドンが使用した炭焼きの方法は、アース・マウンド(クランプ)と呼ばれるものです
非常に古い技術で、中世ヨーロッパでも行われていました。
オープンワールドのゲームで、土を盛って炭焼きがあれば、おそらくこの工法でしょう。
当時の炭焼き職人は、注意深く燃焼プロセスを監視するために、近くに小屋を建て数日すごしました。
作る為の木材・土・草などが入手可能であれば、場所を選ばずに作成が可能です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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