025 次の一歩を決める朝
次の朝。
海から吹く風は、まだ少し冷たい。
それでも、昨日までとは違い、空気には穏やかさがあった。
朝食を囲む。
焼いた魚と、簡単なスープ。
特別なものではないが、全員が無事にここにいるだけで、十分だった。
自然と、会話が生まれる。
「やっぱり、本格的な塀は急がんとな」
ドワーフ夫のドンが、スープを啜りながら言う。
「昨日ので分かったじゃろ。投石は、かなり効く」
「高台と組み合わせりゃ、まだまだやれるぞい」
「うん、あれは助かりました」
猫夫のニケさんが、素直に頷く。
話題は、昨日の戦いの感想から、自然と今後の話へ移っていった。
「周囲の探索も必要……だな」
狼夫のガルドが言う。
「敵が来るなら、道と、危険な場所は把握しておくべきだ」
「保存も急ぎたいのう……」
ドンが続ける。
「レンガを完成させんと、壺も作れんぞい」
「干すにも、しまうにも、限界がある」
「なら……シカを狩るべきだな」
エルフ夫・セイルが、静かに口を開く。
「肉は食料になるし、皮、骨、腱……使えないところがない」
「解体場も、そろそろ必要だ」
「塩もだよ」
ニケが手を挙げる。
「夏になる前に、量産できる体制を作りたい」
「食べ物だけじゃなく、保存にも、体にも必要だし」
「畑も広げます」
エルフ嫁・フィアさんが、当然のように言った。
「夏まき野菜のために、準備が必要です」
「それと、養蜂も試します。環境的に、いけそうなので」
それは提案というより、すでに決定事項のようだった。
……どれも、正しい。
俺は、黙って皆の顔を見る。
誰も「自分が正解だ」とは思っていない。
それぞれの意見が、それぞれに理解できる。
だからこそ、答えが出ない。
少し間を置いて、俺は話題を変えた。
「……そういえば、ガルド」
「昨日、どこにいたんだ?」
ガルドが、少し顔をしかめる。
「ゴブリンのアジトを探して、森の奥に入った」
「……が、途中で迷った」
「迷った?」
「方向感覚が、狂った感じだ」
「妙だった…まるで、何かによって阻まれているような…」
それを聞いて、セイルが頷いた。
「大樹の精霊だろうな」
「……精霊?」
「殺気立ったお前を、“敵”と判断したんだろう」
夜になり、フィアさんの精霊魔法で空が明るくなった。
その光で、ようやく開拓村の位置が分かった。
「そこから、全力で走った」
ガルドは、そう締めくくった。
「……なるほど」
俺は、息を吐く。
「大樹の防衛本能、か」
「ありがたいような……正直、怖いな」
セイルが、真顔で言う。
「フィアなしで、大樹の方向に近づくのは避けた方がいい」
「伐採も、だ」
その場で、方針が決まった。
巨木方面には近づかない。
伐採もしない。
木を切るなら、沼地方面だ。
ひと通り話がまとまったところで、皆の視線が俺に集まった。
「で、ハルキ」
「お前の意見は?」
俺は、少し考えてから言った。
「……貝を、食べてほしい」
「それと、貝殻を集めてほしい」
一瞬、沈黙。
「?」
という顔が、並ぶ。
だが、ドンだけは違った。
「……なるほど」
俺は、簡単に説明する。
「燃やした貝殻は、防水材になる」
「レンガで、大きな水瓶を作りたいんだ」
ドンが、深く頷いた。
「悪くない」
そこで、俺は行動の優先順位を整理した。
「まず、本格的な塀を完成させる」
「そのために、太めの木の伐採と運搬」
「次に、保存食」
「保存容器と、保存方法の確立が必要だ」
「それと、薪の調達」
さらに、必要なものを挙げていく。
塀用の太い木。
薪用の細い木。
乾燥した木材。
壺やレンガ用の粘土。
調理や作業のための、机。
そして――
「沼地方面の地形確認」
「モンスターや精霊がいないか、注意しながら、索敵範囲を広げたい」
話し終えて、顔を上げる。
皆の表情を見る。
迷いはない。
全員が、前を向いていた。
「……よし」
直近の方向性は、決まった。
この村は、まだ小さい。
だが、確実に、根を張り始めている。
そう、感じられる朝だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この開拓団、
「まあ、悪くないな」
と思ってもらえたら、☆やリアクションを押してもらえると助かります。
正直、かなり励みになります。
というか、次のウェーブを考える元気が出ます。
気軽で大丈夫です。
たのんます。




