023 沼地に続く足跡、静かな決着
暗い森の中を、俺たちは音を殺して進んでいた。
自然と背中は丸まり、視線も低くなる。
追跡の隊列は決まっている。
先頭が、狼妻のルナさん。
そのすぐ後ろにガルド。
続いて猫夫のニケ。
その後ろを、エルフ夫のセイル。
そして最後尾が、俺だ。
戦闘の指揮は、完全にルナさんに任せている。
傭兵としての経験が桁違いで、ガルドも迷いなく従っていた。
その背中を見ていると、「任せていい」と自然に思える。
開拓村には、ドワーフのドンとミーラさんを残した。
火の後始末と復旧、そして、どうしても音が出やすい面子だ。
今は、村を守ることの方が重要だった。
俺の位置からは、追っているゴブリンの姿は見えない。
見えるのは、前を行く仲間たちの背中だけだ。
ルナさんが、手を上げる。
前進。
少し進んで、今度は手のひらを下に向ける。
停止。
そんな指示が、頻繁に飛ぶ。
ハンドサインなど、正式に習った覚えはない。
それでも、不思議と意味が分かる。
たぶん、動きに無駄がなく、迷いがないからだ。
しばらく進んで――
ルナさんの右手が「パー」からギュッと握られ、止まれの合図を出した。
前方から、かすかに水の音が聞こえる。
小川だ。
その先に、湿った空気が溜まっている。
「……あったな」
小声で、セイルが呟いた。
ゴブリンの巣は、沼地に流れ込む小川沿いにあった。
なるほど、と心の中で頷く。
確かに、この「沼地」方面は、これまでほとんど踏み込んでいなかった。
「数は……二十ちょっとか」
セイルが目を細める。
「オスはいなさそうだな……」
配置が、静かに決まる。
正面を、狼夫妻。
背後を、ニケ。
セイルは側面に回り、弓が通る位置についた。
全員が位置についたことを、ルナさんが一瞥で確認する。
次の瞬間。
狼夫妻が、一気に踏み込んだ。
戦闘は、あっけないほど短かった。
数分も経っていない。
ほとんどを、狼夫妻が片付けた。
俺やセイルが手を出す場面は、結局なかった。
巣の中を確認する。
石と骨を組み合わせた、祭壇のようなものがあった。
中心には、まだ燻っている焚き火。
俺たちは、ゴブリンの死体を集め、
その焚き火にくべて燃やした。
使えそうな革と、火爆実を回収する。
それ以上、ここに用はない。
そのまま、来た道を引き返した。
村に戻ったのは、昼前だった。
入口で、ミーラさんが待っていた。
心配そうな顔で、こちらを見る。
「……おかえりなさい」
その一言で、
ようやく、肩の力が抜けた気がした。
資料
本作品のゴブリンの生態と文明
文明: 弓の製造すら不可能なほど未発達。火の自活能力はなく、呪術師が生成した火を「奇跡」として神聖視し、種火を厳重に管理する。
行動: 雌雄で行動圏が大きく異なり、メスは巣の周囲200mに留まるが、オスは3〜5km圏内まで遠征する。他個体への攻撃性が高く、巣が異なるオスと遭遇した際はどちらかのオスが全滅するまで争う。
食性: 主食は鹿やネズミ等の小動物。特に亀を好物とする。
加工技法: 鹿の皮を「噛みなめし(口なめし)」で加工する文化を持つ。
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