014 森の奥、百年の命
こうして俺は、
エルフ夫婦と共に、森へ向かうことになった。
森の中で、俺にできることは少ない。
薬草の知識もない。
だから、周囲を警戒する役に回った。
……だが。
「ほら」
思ったよりも早く、
フィアさんが声を上げた。
「やっぱり、あった」
彼女の手の先には、
見覚えのある薬草。
「……これを貼れば?」
「今使っているものより、効果は高いです」
胸を撫で下ろしかけた、その時。
「でも……」
フィアさんは、首を振った。
「本当に探しているのは、これじゃありません」
俺は、少し考えてから言った。
「……時間は、まだある」
「初期対応もできてる。
それに……少しでも回復の可能性を上げたい」
「……探索、続けよう」
フィアさんは、静かに微笑んだ。
「ありがとうございます」
こうして俺たちは、
さらに森の奥へと、足を踏み入れた。
森は、朝のはずなのに暗かった。
木々が高く、枝葉が重なり合い、
陽の光が地面まで届いていない。
湿った土の匂い。
どこか冷たい空気。
(……昨日までの森と、空気が違う)
エルフ夫のセイルが、足を止める。
「この先だ」
フィアさんは何も言わず、ただ頷いた。
歩き方が変わる。
慎重で、それでいて迷いがない。
しばらく進むと――
森の奥に、異様な空間が現れた。
巨木だ。
一本だけ、明らかに違う。
幹は太く、根が地面を這い、
その周囲だけ、空気が澄んでいる。
そして――
(……いる)
俺には姿がはっきり見えたわけじゃない。
だが、気配だけは分かった。
視線を向けた瞬間、
空気が、ぴりっと張り詰める。
鑑定。
――判別不能
――情報取得失敗
(……だよな)
次の瞬間。
風が、逆巻いた。
葉が舞い、枝が揺れ、
見えない何かが、こちらを測っている。
「――待って」
フィアさんが、前に出た。
セイルが反射的に弓へ手を伸ばすが、
彼女はそれを、静かに制した。
「大丈夫。敵意は……ないわ」
声を張らない。
呪文もない。
ただ、語りかけるように。
「私たちは、命を取りに来たわけじゃない」
一歩、近づく。
空気が、さらに張る。
(……正直、怖い)
俺は息を殺した。
この距離で何か起きたら、対応できない。
「お願いがあるの」
フィアさんは、巨木の根元を見つめた。
そこに――
淡く光る草が生えている。
背は低い。
だが、葉脈が細かく、
朝露を弾くように光っていた。
「この子が、必要なの」
精霊の気配が、ざわめく。
一瞬、
“拒絶”に近い感情が伝わってきた気がした。
だが、フィアさんは退かない。
「百年……いえ、もっとね」
静かに、続ける。
「この森で生きてきた命。
勝手に取るつもりはない」
彼女は、腰を落とした。
目線を下げ、
巨木と、精霊と、同じ高さになる。
「助けたい命が、あるの」
沈黙。
長い、長い数秒。
やがて――
風が、ふっと弱まった。
空気が、和らぐ。
(……通った?)
フィアさんが、ゆっくりと立ち上がる。
「……いいって」
誰に言うでもなく、そう呟いた。
彼女は、短刀も鎌も使わない。
素手で、根元の土を丁寧に掘る。
一本だけ。
他には触れない。
薬草を手にした瞬間、
精霊の気配が、すっと遠のいた。
森の音が、戻る。
鳥の声。
風のざわめき。
(……終わった)
俺は、ようやく息を吐いた。
「……すごいな」
思わず、そう言う。
フィアさんは、小さく笑った。
「精霊はね。
奪う人と、借りる人を、ちゃんと見てるの」
セイルが頷く。
「だから、この薬草は希少なんだ」
「うん。
ここで百年以上、生き続けた子だから」
(……なるほど)
チートでも、万能でもない。
条件が揃わなければ、二度と手に入らない恵み。
俺は、その重みを噛みしめた。
「帰ろう」
フィアさんが言った。
「間に合う」
その言葉が、
この時はじめて、少しだけ俺を安心させた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この開拓団、
「まあ、悪くないな」
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たのんます。




