013 「大丈夫」の裏側
翌朝。
夜明け前に、俺は目を覚ました。
夜明け前と言っても、空の半分はすでに白んでいる。
東の端が、ゆっくりと色を変え始めていた。
「……寒」
息が白い。
焚き火はすでに落ち着き、村全体が静まり返っている。
夜警の交代の時間だ。
俺は外に出て、見張りについている猫夫――ニケさんの方へ向かった。
「大丈夫ですか?」
いつもの挨拶。
考えもせず、自然に口をついて出た言葉だった。
「ええ……大丈夫ですよ……」
返ってきた声は柔らかい。
いつも通りだ。
……だが。
(……?)
笑顔が、硬い。
目が、わずかに泳いでいる。
鑑定。
――傷
――炎症
――命の危険:有
――☠・ドクロマーク
「ぜんぜん! だいじょうぶじゃーなーい」
思わず、声が裏返った。
自分でも分かるほど、顔から血の気が引く。
(……俺は)
昨日の夜、ニケさんが傷を負ったことを知っていた。
軽傷だと言われて、
「大丈夫」という言葉を、
そのまま信じてしまった。
信じた――というより、
甘えていた。
「……見せてください」
声が、震えた。
ニケさんは一瞬ためらったが、
そっと腕を差し出した。
――言葉を失った。
皮膚は紫色に変色し、
腫れは、明らかに異常な大きさになっている。
触れていないのに、
熱が伝わってくる気がした。
「……」
何も言えなかった。
そこへ、足音。
「……どうした?」
エルフ夫のセイルだ。
状況を一目見て、
彼の表情が変わる。
「……妻を呼んで来る」
それだけ言って、踵を返した。
ほどなくして、フィアさんが駆けて来る。
彼女は一切無駄な動きをせず、
すぐに処置に入った。
傷口を洗い、
軟膏を塗り、
薬草を貼り付け、
包帯を巻く。
「……しばらく、絶対安静です」
穏やかな声だが、言葉は重い。
心配そうに寄り添う猫妻に、
フィアさんは看病を頼んだ。
「……ひとまず、応急処置はできました」
一件落着――
そう思いかけた、その直後。
猫夫妻のテントから、少し離れた場所で。
フィアさんが、俺に向き直った。
「……正直に言いますね」
胸が、嫌な音を立てた。
「今は、危機は脱していると思います。
でも……かなり危ない状況でした」
「……最悪の場合は?」
フィアさんは、視線を落とした。
「……腕を、切り落とすことになるかもしれません」
頭が、真っ白になる。
「……なんとか、ならないのか?」
自分でも、縋るような声だと分かった。
フィアさんは、少し考えてから言った。
「……薬草を探したいんです」
「この七日で、近くの森はだいぶ歩きました。
でも……この森なら、たぶん、あります」
「効果の高いものが?」
「はい」
俺は、即座に頷いた。
「……わかった。行こう」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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たのんます。




