010 正解だったはずの布陣
「……六日後だ」
焚き火の音だけが、静かに響いていた。
* * *
そして――七日目の夕暮れ。
太陽は海の向こうへ沈みかけ、空は赤と紫が混じった不穏な色に染まっていた。
潮風が、崖の上を吹き抜ける。
丘の上。
完成したばかりの、防衛拠点。
背後は切り立った崖、その先は海。
正面だけが、敵の来る方向だ。
(……ここだ)
俺は焚き火のそばに立ち、改めて拠点を見渡した。
左右には松明を灯し、できる限りの明るさを確保している。
一番奥は避難場所。
資材を積み上げた場所と、ドワーフ妻のピリカさん。
その手前に、テント小屋と焚き火。
第二防衛線――
腰ほどの高さの塀。
その中央に、高さ一メートルほどの簡易高台。
エルフの夫婦がそこに立ち、射線を確保している。
その前、同じく第二線に俺とミーラ。
最前線。
二重目の塀の外側。
右の出口を狼夫婦。
左の出口を、ドワーフの夫と猫夫婦が守る。
「塀は、止めるためのものじゃない」
俺は、静かに説明した。
「背の低いゴブリンを、ここに“流す”ためだ」
誰も口を挟まない。
全員が、正面を見据えていた。
俺は、視界の端に浮かぶ【鑑定】を見つめる。
――次回のウェーブまで:00:07:48
「……残り八分を切ったな」
数字が、確実に減っていく。
森の奥。
木々の隙間で、黒い影が揺れた。
(来る……)
最初に見えたのは、動きだった。
低い。
小さい。
だが、数が多い。
夕闇の中、ゴブリンたちが姿を現す。
裸同然だった前回とは違う。
粗末だが服を着込み、手にはこん棒。
中には、トゲを巻き付けたものもある。
頭には――
鹿やネズミの骸骨を削った、歪な兜。
「……二十以上」
誰かが、息を呑む音を立てた。
そして――
その後ろ。
地面を揺らしながら現れた、異様な影。
イノシシ。
巨大な体躯。
牙をむき、鼻息を荒くしている。
その背に――
槍を持ったゴブリンが騎乗していた。
視界に、赤いラインが走る。
予想通り、左右の二方向。
塀の入口へと、進軍ルートが重なっていく。
左右に、二本。
塀の入口へ、はっきりと分かれて伸びている。
(左右分散……狙いは侵入)
「ガルド達は、右!」
「左はドンとニケ夫婦!」
声を張り上げる。
ゴブリンたちは、迷わず動いた。
誘導された通りに。
「……効いてる」
第一防衛線。
左右の入口に流れ込んだゴブリンを、前線が迎え撃つ。
ガルドの太刀が、一閃。
ゴブリンが、真っ二つになる。
狼嫁・ルナが滑り込み、喉を裂く。
左では、ドワーフのドンがこん棒を振るい、
猫夫婦が隙を突く。
上から、エルフの矢が降り注ぐ。
数を減らす。確実に。
この戦法は、遠距離攻撃を持たないゴブリンへの必勝法だ。
敵戦力を左右に分断し、
中央から、最大の強みである弓で仕留めていく。
二十匹以上はいた歩兵の、半数近くが倒れた。
(戦える――)
胸の奥で、確信が生まれる。
(この布陣は、正解だ)
その瞬間だった。
【警告】
視界に、新たな赤いラインが走る。
真っ直ぐ。
一直線。
中央――。
「……っ!?」
後方で構えていたイノシシが、動き出していた。
左右に分かれていた戦力を無視し、
四体のイノシシが一斉に――中央へ。
「中央突破だ!」
叫んだ時には、遅かった。
ドンッ!!!!
地面が、砕ける。
イノシシの突進が、塀を正面から吹き飛ばした。
木材が宙を舞い、土がえぐれる。
土埃が、一気に立ち上がる。
視界が、白くなる。
(裏を――取られた)
手薄な中央を突かれ、
塀は破壊された。
白い煙の中、
イノシシに騎乗したゴブリンのシルエットが浮かび上がる。
「くっ……」
俺は、歯を食いしばった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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たのんます。




