表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が身を案ずることなかれ  作者: 水嶋つばき
8
29/35

8-2

(まさか…あの方が執着する理由は他にある)


私の心配というより、ラムセス様のご意向の為。

ネフェルタリ様の笑顔がラムセス様の望みならば、カエムワセト様は望みを叶えるために尽くされるお方だ。

…しかし、副隊長という重要ポジションの方を易々と殺していいはずはない。

どうにか命令違反の罪を軽くすべく、鞄の中からパピルスと筆を執る。


「マリンダ様。カエムワセト様、もしくはラムセス様にお会いされたらこれをお渡しくださいませ。」

「これはなんだ?」

「…命の書にございます。」


偵察は我が判断

この者は任務を全うされたし

貴重な存在を消すは誤判なり

このように書けば、分かってくれるだろう。


「お約束ください。あなた様が直接お渡しくださいませ。他の誰にも任せてはなりませぬ。」

「なぜだ?」

「あなた様が渡してこそ、発揮する命の書だからです。」

「…よく分からぬ。しかし、お前はラムセス様にお仕えする忠節な者だということは分かる。気を付けて行かれよ。ここは我々が守り抜き、ヒッタイトを通しはせぬ。」

「安心できるお言葉です。では、行って参ります。あの斥候たちもお任せ致します。」


深く礼をすると、馬を駆け、国境を越えシリア領へと入った。


翌日、日が高くなるのを待って、市場に足を踏み入れた。

国境の街ということもあり、様々な人種の人がいる。

まずは服。

エジプトの独特な服は、ヒッタイトでは目立ちすぎる。

これも男の服を選び、出来るだけ動きやすい服を購入。


(そういえば、何も食べてないや…)


空腹を満たすためと旅の食料を買い、それから馬を調達する。

馬をゆっくりと歩かせながら干しナツメを食べ、お腹いっぱいになると高速で走らせた。

とにかく北を目指す。

軍がいるならば、そこは要塞都市周辺だろう。

…ネフェルタリ様はお元気でお過ごしだろうか?

ラムセス様が出立間近ということもあり、さぞお気を揉まれているだろう。


「ラムセス様ご帰還の際、あなたは皇太子妃です!ネフェルタリ様!」


全エジプトの期待を向けられた、エジプト史上初の皇太子の誕生、そして、ファラオの誕生だ。

そのお方が唯一無二と言うほどの女性。

ラムセス様同様、歴史に残る后になる。


(私が必ずお助けいたします!)


思いを胸に、馬を走らせた。


それから数日。

必死に馬を走らせていた。

まさか、エジプトの東から攻めるとか?

もしくは地中海を渡り、船で攻めてくるか?

いろいろ推察してみたが、やはり対ヒッタイト戦は陸路だろう。

不意をつくためとはいえ、大回りして無駄な体力を使うようなことも考えにくい。

船ならば、陸に到着する前に火矢で集中砲火でもすれば、簡単に落とせる。

戦上手のムルシリ2世が、考えなしの行動は取らないはずだ。


いろいろ考えながら、真っ直ぐ北へ向かうこと7日。

シリアの中心都市、ダマスカスに到着。

そしてやっと見つけた。

街の娼館は、ヒッタイト兵で埋め尽くされていた。


(…ダマスカスにいるのか!意外と近い!)


心を落ち着かせ、馬屋で馬を預けると、街の様子を探ってみた。

一番知るべきことは、この兵が誰の指揮下の兵なのか。

そして、軍の総数。

しかし、要塞都市にいるだろうと考えていたが、このような街で何をしているのだろう?

地中海中心にあるため、貿易商を始めとするいろんな人種が行き交う場所。

ヒッタイト人やエジプト人、アッシリア人やミタンニ人。

そのど真ん中で堂々と居座っているなんて。

浮かれ騒ぐヒッタイト兵。

しばらく見ていても、軍事情報を口にするものなどいない。


(…これは注意するべきか?)


戦争を何も考えていない兵か。

それとも相当訓練された兵か。

どちらにせよ、指揮官を知れば分かること。

街から離れて東の方へ歩いていく。

西が海なら東は平原。兵の夜営があるはずだ。

そう思って進み、日も大分傾いた頃に発見。

戦車隊、歩兵隊、弓兵隊。

全部合わせれば、一万ほどの軍だ。

目を凝らし、旗を見つけて誰かを悟る。


「ネルガルの使者…ムルシリ2世の親征軍だ!」


やはり正規軍を纏めて進軍していたのは、皇帝ムルシリ。

それから、親征旗の隣で靡く旗は、ガル・メシエデイ旗。

国のトップと軍のトップ。

ヒッタイトは本気モードだ。

その平原にいる兵たちは、思い思いに鍛練している様子。

歩兵隊は剣を交え、弓兵隊は的に矢を当て、戦車隊は戦車の操縦を。

その様子を伺っていると、少し違和を感じた。

何だろう?何かが違う。


「……ッッ!!」


しばらく眺めて気付く。


(戦車に三人の兵!?)


当時の戦車はチャリオットと呼ばれ、二頭から四頭の馬に二輪をつけて戦場を走っていた。

その際、乗り手は操縦手と応戦手に分かれ、応戦手は盾と剣を持ち戦うのが主流。

しかし、ヒッタイトの戦車には三人乗っており、見たことのない動きで鍛練していたのだ。

なるほど。

これならば、左右の敵に対応できる。

もしくは攻めと守りを分散できる。


(…さすがムルシリ。考え方が違う)


だが、ここで一つ疑問があった。

荒れ地を猛スピードで駆け回る車輪にかかる負担は大きく、直ぐに壊れてしまうのが普通だった。

だからこそ戦車隊の選別は慎重で、より体重の軽い兵を当てていたラムセス様。

少しでも軽量化を図り、車輪に負担をかけぬようにと配慮した。

だがどうだ。

ヒッタイトの戦車は三人乗って尚、壊れずに駆け回る。

常識を覆す戦法に、必死で頭を捻る。


「…!?…!!そうか!読めた!!」


その閃きは一瞬過った鉄の使い道。

どこか引っ掛かるヒッタイトの斥候の言葉を表しているのではないか?

何より強い鉄。

つまり、ムルシリは壊れやすい部分を強化したと考える方が妥当だ。

恐らく、車輪と車軸。

そこを強化すれば、重くなろうが暴れまわろうがビクともしない戦車の出来上がり。


「ラムセス様に伝えねば!」


この目で見た光景、そして予想。

ここから直ぐに進軍すれば、態勢が整っていないエジプトにとって大打撃になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ