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我が身を案ずることなかれ  作者: 水嶋つばき
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宿の中に入ると、私たちは抱き合って喜んだ。

そして、直ぐ後についてきたタラプガエラムハ様の従者が声を掛けた。


「お見事な立ち回りでした。私など不必要だったかもしれないですね。」

「とんでもない。安心できましたし、フォローも入れていただきました。ありがとうございます。」

「恐らく民は、あなた方のことを信じるでしょう。ここまで来たら、後はタラプガエラムハ様に一任くださいますよう。」

「…え?」

「どういうことだよ?」

「タラプガエラムハ様のご命令です。あなた方は、次々と街を廻っていかれるおつもりだと。ならば、この街での噂が確定に向かったなら、次の街に向かわせよと。」


この街のことは地主であるタラプガエラムハ様が取り仕切ってくださるならば、住民はさらに確信できるはずだ。

何より、自ら動いてくださるとおっしゃってくださることに感謝した。


「…そうですね。一つの街に長居するほど時間はないです。私たちは、品が届き次第次の街に向かいましょう。」

「はい。ではそのようにお伝えしておきます。」

「夕刻にご挨拶に伺いますゆえ。」

「畏まりました。」


従者様と別れ、バタバタした朝が終わった。


「ホウジュ。アメンモセ様からの品は?」

「今日、明日にも届くはずだ。ここは川が近いからな。下れば直ぐに着ける。」

「じゃあ、ここから南の方へ行こう。そこではお金をたくさん稼いで、注文は考えながら品切に注意しよう。」

「確かに、砂漠の方へ向かえば、発注した品が届くのも遅くなるはずだ。」

「あとは……そうだ。昼にもう一度市場に行かない?楽器屋のおじさんには挨拶しておきたいの。」

「そうだな。そうしよう。」


これからのことを話し合い、部屋で時間を過ごしたあと、市場に向かった。

そこではもう、注目の的。

人混みに揉まれながら、楽器屋まで辿り着く。


「おじさん!こんにちは。また来ちゃった!」

「おお、お前らか。今朝はありがとう。それから疑ってすまなかった。」

「何を!誰だって余所者は信用できませんって!頭を上げてください。」

「…俺は…ラムセス様にも間違った憎しみを抱いてた。…家族は、俺の信じていた奴に殺されてたんだな…」

「…おじさん。この事はラムセス様に必ず伝わるよ。そして、復讐してくださる。ラムセス様を信じて。」

「…分かったよ。姉ちゃん。ラムセス様を信じて待つ。」

「うん。」

「それよりどうした?何か買いに来たのか?」

「ううん。私たちは旅の商人だよ?一つの街にずっといないの。明日、明後日には出発する。挨拶に来たんだ。いろいろありがとうね。レクとサガットも大事に使わせてもらう。」

「そうか。気を付けてお行き。」

「うん。いつかまた会えるといいね。それまで元気にしててよ?」

「ハハッ!分かった。」


挨拶を済ませ宿に戻ると荷車が停まっていた。


「あ!やっとお帰りになった!ホウジュ様、ムトナ様。アメンモセ様からの品々でございます。」

「「…ええっ!こんなに?」」

「はい…参りましたよ…」

「どうしたの?」

「店を開けた当日ですべて欠品になったとお伝えしたら、商いの手腕があると大笑いされてこのザマです。ザフナテパネア様もわたくしもお止めしたのですが…」

「アメンモセ様…旅にこんな大荷物って有り得ねぇだろ!これだから金持ち貴族は…」

「プッ!…首都に戻ってアメンモセ様の御前でその台詞を言うことね。」

「言えるかよ!」

「「アハハ!」」


ついでにと遣わされたもう一人のアメンモセ様の従者。

荷物番につけてくれたのだろう。

とりあえず、次の街で張り切って商売できそうだ。


「今のうちに船を予約しておくか。」

「そうだね。ホウジュ、頼める?」

「いいよ。お前は?」

「この方たちにお食事を。」

「そうだな。じゃあ後で。」


このあとホウジュが、住民たちに英雄扱いされて必死で逃げてきたと分かるのは、もう少し後の話。

荷物も届いたので、明朝に出立することにした。

その日の夕方、タラプガエラムハ様の許を訪れた。


「それで、明日向かうのか?」

「はっ。これより支度を整え南へ向かいます。」

「そうか。…ホウジュ、ここへ。」

「はっ。」


呼ばれたホウジュは、立ち上がって頭を垂れながらタラプガエラムハ様のお側へ近付いた。


「…お前もムトナと共に過ごし、これの忠義心に触れていよう。その心は我が姪と共にある。姪とてこれに信頼しきっている。ムトナを守るのだぞ。ネフェルタリのためだと思い、命を守ってくれ。」

「必ずこの身に変えましても。」

「お前にこれをやろう。私の持っている剣の中で一番の優れものだ。」

「タラプガエラムハ様!このような高価なものを私には扱えませぬ!」

「…言ったであろう。これはムトナを守るためのもの。抜くときは、守るときのみだ。」

「…はっ。」


正規軍が使用するような大きな剣。

ホウジュはそれを頂いた。

溢れんばかりのもてなしと親切を受け、何度も頭を下げて感謝し、屋敷を後にした。


それから私とホウジュは街や商業都市を転々とし、弟君たちの噂を塗り替えていった。

上手くいかないときもある。

だが、粘り強く言葉を伝え、時には住人たちの世話をしたりと信頼を獲得していった。

強盗に何度も襲われた。

その度にホウジュが先陣を切り守ってくれた。

私の命、そして、アメンモセ様から預かった大切な品を。


こうして旅を続け、噂を流し始めて三月(みつき)

辺境の街は、ラムセス様の噂で広がっていた。

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