4-3
目的地に着いた頃には、お互いの距離はかなり縮まっていた。
「そうだムトナ。」
「え?」
「これから長い間一緒に旅するんだ。ルールを決めよう。」
「ルール?どういうもの?」
「例えば、休みの日を作るとか。」
「アハハ!休み欲しいんだ?」
「そりゃ息抜きだってしたいからな。」
「…そうだね。いいよ。作ろう。でもその前に宿を探そう。」
「分かった。宿についてから決めよう。」
多少の価値観の違いはある。それは性別の違いがあるからしょうがない。
譲歩して提案を受け入れると、ホウジュは、飛び上がって喜んだ。
港から歩いて一時半。
やっと宿を見つけて身体を休めることができた。
休みの日を作る
プライベート時間は干渉しない
しかし、命の危険を伴うなら例外とする
儲けたお金は折半
荷物とお金の管理はホウジュ
旅のリーダーは私
お互い隠し事をしない
たとえ口論になっても思ったことを言い合う
「こんなもんかな。」
「うん。何かあればその都度加えればいいし。」
「そうだな。じゃ、今日は休んで、明日から頑張ろうぜ。」
「うん。おやすみ。」
誰に気兼ねすることも抑えつけられることもない自由を味わっていた。
多分ホウジュだって同じ気持ちだと思う。
ラムセス様やネフェルタリ様のことで遠くまで足を運んでいるくせに。
自由など矛盾している。
でも、自分が自分であり続け、等身大の自分を認めてくれる仲間は今までいなかった。
それが出来たのが嬉しいのかもしれない。
翌日。
「…何…それ……誰?お前……」
「…どういう意味よ。」
ちゃんと化粧をして、服も着飾り、いかにも都で儲けて来ましたアピール。
準備が整い部屋から出ると、廊下で待っていたホウジュが固まって呟いた。
「可愛い。」
「え?」
「可愛いって言うより綺麗。スゲーな!よく見れば美人だし。」
「あ、ありがとう。」
「うん!綺麗だよムトナ!こりゃ商売繁盛間違いなし!兄弟設定より、夫婦設定の方が得したかも。」
「…お世辞上手いわね。何も出ないよ。」
「ムトナ!設定変えようぜ!」
「何で今さら?」
「こんな美人の奥さん、鼻高いじゃん!」
ここまで褒められると、こっちが恥ずかしくなってくる。
お母さんにもシン様にも言われたし、そこそこ自信をもっていいのかもしれない。
だったら、商売の方法をいろいろ変えられるから面白そうだ。
「いいよ。その設定でいこうか。」
「マジで?やった!」
「明るく自由な奥さんだからね。」
「…………へ?」
「じゃ、行こうか?」
宿を出ると、顔のひきつったホウジュを連れて、市の立つ広場へと足を向けた。
到着するとまず、周りの店から楽器の売っている店を発見。
「いらっしゃい!」
「こんにちは。色々売ってるのね!ねぇホウジュ。何か買ってもいい?」
「おや、おねだりが上手な奥さんだね。旦那、買ってやりなよ!」
「ムトナ、何に使うんだよ?」
「いいでしょ?買って!お願い。」
甘ったるい声を出しながら、ホウジュに目配せした。
仕事に使うと理解したのか、
「ったく。しょうがないな。どれがいいの?」
「やったぁ!おじさん、レクとサガットが欲しい!上等のものを選んでよ!」
「あいよ!ちょっと待ってな!」
直ぐにお金を出してくれた。
「そうだ、おじさん。私たち、今日この街に着いたんだけど、私たちも流れ者の商人なの。ここでみんなとお店出したら怒られる?」
「そんなことないよ。市は誰だって自由に商売出来る場所なんだから心配しなさんな。ほら、レクとサガット。大事に使えよ?」
「うん!ありがとう!私たちの店にも遊びに来てね!あっちの方で店を出すから!」
楽器を購入すると、笑顔で店主と別れた。
「それで?何すんの奥さん?」
「客引きに決まってるじゃん?」
「客引き!?」
「コレが売れなきゃ生活できないし、アメンモセ様との取り引きも出来ないじゃない。とにかくやってみる!商売商売!ほら、店を出すよ!品を出して並べよう。」
ホウジュも私も商売なんてやったことはない。
でも、いろんな場所の市を見たことはある。
どんな方法で売っていくのか、どんな方法で客を呼ぶのか。
とにかく声を出すこと。
そして、みんなの目を引くパフォーマンス。
つられて店の商品を見たり買ったりしていく。
「よし、こんなもんでいいか?」
「そうだね。じゃあやるよ?ホウジュは合わせて声を出してね。」
「分かった。」
まずは音。
みんなに聞こえるように大きな音から。
レクを手に取り、派手に鳴らせる。
「さぁさぁ!皆さまお立ち寄り!!さっき着いたばかりのホウジュとムトナがこの街にやって来ましたよ!!品は首都テーベで人気のものばかり!どうぞ手に取り品定め!手にした瞬間一目惚れ間違いなし!!さぁ!いらっしゃい!いらっしゃい!!」
市の端っこにしか空いてなかった場所を確保し、そこに構えた店の前で躍りながら声を上げる。
そこで一気に注目を浴びる。
楽しませるような踊り、誘惑するような踊り、悲しくさせるような踊り、嬉しくさせるような踊り。
レクを巧みに操って、店の前には音と踊りと声に引かれた人たちが群がった。
「皆さん?踊りだけ楽しもうって?」
「おっとここは市場だぞ!ダメダメ!買い物しなきゃ!旦那!うちの商品見てやって!どれもこれも首都の品!奥さんにプレゼントしたら、夫婦円満だぜ!」
「首都の?…ほう!こりゃ安いな!しかも一級品だ!」
「安いって?本当に?」
「よし、兄ちゃん!買った!!」
「お目が高い!これは首都で流行している髪飾りだぜ!毎度あり!!」
ホウジュもノリノリで商売を始めた。
…これならいける。確信した。
「姉ちゃんは商品じゃないのかい?」
「俺は姉ちゃんが欲しい!買った!」
「ダメですよ!旦那さんに殴られちゃう。」
「なんだお前ら夫婦者か?」
「そこ!俺の妻を誘惑するな!!」
「ほーら、怒られた!」
「ワハハハ!こりゃいいや!本物のおしどり夫婦だ!」
客の中にも、こういう冗談を言ってその場を湧かせてくれた。
気が付けば、持ってきた商品はほとんど売り切ってしまった。
その日は店をたたみ、宿に戻ってお金を振り分ける。
「ムトナの分と俺の分。こっちがアメンモセ様に渡す商品の購入金額。」
「うん。じゃ、これはホウジュに預ける。」
「え?」
「いいの。これから旦那様にねだって買ってもらうから必要ない。
それに、お金の管理はホウジュの役目でしょ。女より男が持ってる方が安全だし。」
「そうだな。じゃあ預かっておく。それにしても、俺たち、商売に向いてるんじゃないか?結構上手くいったな!」
「うん。初日からあんなだったとは驚いたけど、とっても楽しかった。
…さてと。そろそろ作戦を決行しましょうか。」
「お?今から行くのか?」
「当たり前じゃない。ここからが本番でしょ。」
「酒場?」
「うん。行こう。」
夫婦らしく腕を組んで、宿から近い酒場に足を踏み入れる。
お酒とおつまみを頼み、二人仲良く楽しむ。
「……お?お前ら、さっきの夫婦!」
「あ、楽器のお店の人だ!こんばんは。」
「店の楽器があんなに売れた日はなかったぞ!お前たちのお陰だ!」
私が買ったレクとサガットが、その場で使うことにより同じものを欲しがる人たちがたくさんいたらしい。
上機嫌のおじさんは、一緒に飲もうと同じテーブルについた。
「お前ら、結婚してどれくらいだ?」
「もうすぐ一年になります。」
「なんだよ。新婚じゃねぇか。どうやって知り合ったんだ?」
「なに?質問ばっかり!おじさん面白いね!」
「そうか?お前たちの商売見てて面白くてな。」
「そうですか?元々は旦那さんの方が上手なんですよ。でも、私もやってみたいって言ってみたらやらせてくれたの。優しいでしょ?」
「なんだい?のろけか!」
酒も入り笑いも取れると、心がおおらかになっていく。
例えば、しゃべろうとか思ってないことまで。
「このご時世だ。仲良く協力するんだぞ。」
「分かってますよ!仲いいから大丈夫!ね!」
「ああ。俺が守ってやるからな!」
「そうだ。お前が女を守らなきゃいかん。こんな辺境の土地で商売するってんなら尚更だ。」
「ずっといる訳じゃないけど…」
「その言い方、何かあったの?おじさん?」
笑みが消えて、ちょっと俯いたおじさん。
ホウジュと目を合わせ、軽く頷く。
「…今はな、この国は荒れてるんだ。荒れてないのは首都だけだ。」
「「……え?」」
「お前たちは首都から来たんだろ?だったら分かるわけないさ。」
「おっさん、どういうことだよ?」
「首都以外では最悪だ。食料はないし飢え死にするものばかり。セティがファラオになって、若干は良くなったと言われているが、ここら辺は悪くなる一方だ。」
「例えば?」
「辺境に配置されている兵が好き放題しすぎている。それを配置したのはあのラムセスだと言うじゃねぇか。あいつはファラオになれば、絶対恐怖で支配するに決まってる。」
「「……………」」
「国庫も独り占め。皇太后を抑圧し、開かず自分のものにしている。先の戦争で瀕死とか言ってたが、さっさと死ねば良かったんだ。」
「「……………」」
「それに比べ、ハンダブアメラーム様は、エジプトの西の辺境で金を配ったとか。いずれ南下し、この地にも来られる予定だと聞いた。皇太子になるのは、民を見てくれる人がいい。ラムセスは絶対ダメだ。俺はラムセスに妻を殺されたんだから。」
「…え?どうして?」
「ラムセスの配置した兵に殺された。ただ目の前を歩いただけで、前を歩く無礼者だと切られた。
…腹には…俺の子供がいたのに…俺は一瞬で家族を失った!」
…なんて……むごいこと…
奴隷制度が主流の現在、怯えて暮らす人も多い。
貴族の館に従事する者でさえ、身分ある者に粗相をしたなら、斬首か鞭打ちに処される。
目下の者が目上の者の怒りに触れるようなことがあれば、足を折られたり腕を切られたりしていた。
それが当たり前だったが、ラムセス様は日々嘆いておいでだった。
辺境の兵と言えど、命を簡単に切られるようなことはない。
あるとすれば、正当な理由の時だけ。
(これだ…!)
そう思って、テーブルの下でホウジュの足を軽く蹴って合図を送る。
「おじさん…辛い経験したんだね…可哀想に…」
「……………」
「でも、おかしくねーか?だって」
「ホウジュ!ダメだよ!おじさんは辛かったんだから!」
「でも、勘違いしてるだろ!」
「こういうときはおじさんの心を考えるの!!」
「なんだと!!俺が考えてないみたいな言い方するな!」
「ホント、デリカシーのない男ね!!」




