第4話:生活魔術士見習い、ファーストコンタクトする
アタフタと4話更新。主人公の容姿がここでやっと分かります
「うひょあああああぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
戸を勢いよく開け放つ。同時にモエギが戸の外に向かって飛びかかった。
カケルは捧きれをひっつかみ、刻紋灯ランプを掲げ、モエギに押さえつけられた人物に近づいた。弓と矢筒を背負った弓使いらしき汚れたフード付きの外套を羽織った青年だった。
青年はかすれた呻き声を零す。
モエギは押さえつけただけで攻撃をしていない。眉を顰めて観察する。外套の肩部分に滲んだ血。顔には疲労の色が濃い。痛みこらえているようだった。
激しく動揺してしまったが、この人物がどういった目的で近づいて来たか確かめなければいけない事を思い出した。
「アンタ、誰?」
しゃがみこんで訪ねると、青年は静かにカケルを見つめた。
「ノエ村の……、セキだ。助けを求めにミカーゴ村へ……」
カケルは目を丸くした。近くに村があるのだろうか。故郷に助けを求める。どんな事情だろう。興味が沸いた。青年の装備を見るに、ミカーゴ村まで距離があるのにずいぶん荷物が少ない。旅人でもないようだ。
抵抗するそぶりが無いということは敵意は無いのかもしれない。肩の傷は深そうで、青年の言葉を信じるならば、この状態でここまで来たのはよほどの急を要するのだろう。
「念のために、武器は預からせてもらうかんね」
ごそごそと青年の弓と矢と、腰につけた短剣を没収する。青年は大人しかった。
「モエギ退いてあげて。治療をするから。もし危害を加えようとしたら、ウチの護衛がすぐ動くかんね?」
モエギがカケルの側に戻った。警戒を解かずにジッと青年を見つめ続ける。青年は頷き、ふらつきながら肩を押さえ立ち上がった。力が入らなく座り込んだので肩を貸して家の中へ連れて行った。
「この傷は矢傷か……ちょっと深いね。顔色良くないのはろくに食べて休んでないからなの? そんな状態でミカーゴ村までは無理だよ」
リュックから外傷用の薬と包帯を出して処置をした。傷から血がジクジクにじむのでウエストポーチから金属板を抜き出して傷部分に当てて魔力を送った。板が淡く発光した。
青年は驚き身をよじらせたが、魔力を送り続けていると表情を緩めた。まじまじとカケルを見つめる。カケルはニンマリ笑って、時間をかけて治癒力活性術を刻紋したカードで出血する傷口をふさいだ。
出血が止まり、痛みが和らいだ青年に滋養のある薬茶を飲ませた。自分の羽織っていたマントを被せて休ませると青年はすぐ眠った。
事情を聞くのは明日にしよう。今日は良く働いたと自分を労った。緊張を重ね、魔力を送り続け疲労感と眠気を噛み殺しながら警戒線を描き直して、モエギに見張りを任せてカケルも眠った。
「助かりました。有り難うございます」
翌朝。深く頭を下げて礼を言う青年セキは、改めてカケルを見つめた。
日除けのフェルト帽子、ポケットが沢山ついたゆったりとした丈夫で上質なコート、腰ベルトにはウエストポーチと短剣をぶら下げている。長ズボンに履きおろしたばかりであまりくたびれていない皮長靴。荷物を入れたリュックは大きすぎ素材が謎だが、旅人なのは間違いないだろう。むっつりと青年を見返す大きな瞳は柔らかい青。ふぞろいの黒い短髪は艶やかだ。
歳は13歳前後に見え小柄。一見頼りなさそうだが、昨晩魔術らしき術で治療してくれたり、今も火を使わずに湯を沸かしてみせた事から魔術士と判断する。側にいる珍しい色をした大きな狼犬は強そうで、良く馴れている。魔術士なら力を借りることができれば。セキは希望が沸いてきた。
「何……? ジロジロ見られるほど変?」
自分の服を見なおして、カケルは落ち着かなくなってきた。今更気づいたがやっと出会った、初めての外の人だった。
外の人からジロジロ見られるほど突飛な格好だろうか? どう思われているんだろう?
「あの……さぁ、ここに来た理由とか話してくれる?」
気まずさを感じたので、話を切り替える。
「そうでした。私はここから南東にあるノエ村に住む、セキと言う者です。現在ノエ村は……、賊に占領されています」
うわぁっと、カケルは息を呑んだ。セキは険しい表情で話を続ける。
「私は村長に頼まれマルスという魔術士が隠居しているというミカーゴ村へ助けを求め村を脱出しました。矢傷は賊の見張りに見つかった時射られました。なんとかこの廃村までやって来たら、人が居ないはずの家から灯りが。それで……」
そこまで聞いてカケルは手をかざして話を止めた。真顔でゴクリと唾を飲み込んで青年ににじり寄った。
「そんな手負いで、賊かもしれないのに危険を犯して近づいた理由って。もしかして…………」
「は……? あぁ、変わりたいから旅に出たんですよね。えっと旅立ちの気持ちが分かる良い詩でした……ね? ホッとしまして助けを求めてみようと」
「やっぱり聞こえたんだ、聞いたんだあああああーーーー!!」
誰も居ないと思っていたので、つい口に出して詠んでしまった詩をまさか聞かるとは。羞恥で顔を赤くして暫くゴロゴロとのたうち回った。
モエギが落ち着けと顔を舐めたので、落ち着きを取り戻した。
焼き芋の残りと干し肉、薬茶を渡して朝御飯にする。よほどお腹が空いていたらしく、夢中でほおばるセキに自分の芋も渡した。
「で、残念なお知らせがあります。マルスは師匠ですが……亡くなりました。この廃村からでは距離がありすぎ時間がかかります。森は害獣が居ますし完治していない身では行くのはお勧めしません。ミカーゴ村の人々は自衛するだけで手一杯です。助けは望めません」
青年はやはりとため息を付いた。そしてカケルを真剣な表情で見つめた。カケルは「ウゥ」と後ずさりした。
「魔術士様お願いします。村を救う手助けを! 私独りでは無理ですが、貴方が居てくれれば……!」
村にいる人々を思い不安を押し殺して、セキの言葉はかすれた。
グッと奥歯を噛み締めた。
村に賊が居るという。賊と戦うというパターンはできれば避けたい。けれど見捨てておけない。
紋章魔術は準備に時間がかかる。必要だと思う術を込めた刻紋・描紋道具を用意したり、無ければ必要な魔術効果を得るために紋章を描く時間が必要だ。呪言魔術のように、呪文を唱えれば即座に術を使える訳でもない。戦いに不向きだ。
カケルは紋章魔術専門で生活魔術が得意分野。さらに、炎の玉を打ち出したり、風の刃を出して攻撃したりする攻撃魔術は使えない。そういった戦力を求められているとしたら、期待してくれているらしいセキに申し訳なかった。
カケルはウエストポーチに手を触れた。
セキを生活魔術で助けることはできた。戦力にならない私に何ができる?
出来ないことは出来ない。無いものねだりをしても仕方が無い。
出来る範囲で何とかする。精一杯。結果は後で付いてくるものだ。
この出会いは外の世界で初めての縁だ。断ち捨てたくない。セキは悪い人に見えない。今を一生懸命生きる人にこそ、生活魔術は必要であるはずだ。ならば――――。
「出来ることは少ないかもだけど。ノエ村に居る賊の事、もっと詳しく教えてもらえる?」
カケルは決意した――。
誤字脱字フォーエバー……orz
投稿後の修正が激しいです。某所では「誤字脱字パッシブ」と言われるくらいです。修正更新多くてそのせいでシステムダウンさせたらどうしよう!
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