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生活魔術士見習いカケル!  作者: 七夏 香
1章 生活魔術士見習いの出来ること 
1/8

第1話:生活魔術士見習い、決意する

初投稿作品です!

「明日には立ち退け、か。あのゴリゴリ魔術士め」


 カサカサと乾いた葉ズレの音が響く人気の無い場所で、敬愛する師匠の墓前でカケルは独り言を吐き出した。

 森の木々は緑色から落ち栗色に変り始め、風は肌寒さを運ぶ。身震いひとつし、両手一杯に抱えた師匠の好きな秋の花を、パサパサと大木の根元に落とした。

 家のそばの大きな樫の木を墓石代わりにして欲しいと師は願った。今は木の根元で眠っている。病気という病気にかからず、老衰で人生を閉じた。志は半ばだったが大往生だと微笑んでいた。

 

 後のことを考え、師匠が所持していた貴重な品々はすでに隠し地下倉庫へ封印されている。あの傲慢で強欲な魔術士は隠さなかった品々で満足するだろう。

 師匠と共に過ごした家を明日には出なければならない。「あのゴリゴリ魔術士」に家を追い出されたのだ。立ち退き期限は明日だった。

 村の人たちの中には師匠に恩がある人が多い。身を寄せる家もあったかもしれないが、カケルは村を出ることにした。


 ――村を出て、王都にある魔術学校で魔術を学ぶのだ。決意は固かった。残り準備をするためにカケルは家に入っていった。


 が、すぐ出てきた。


 腹がたってあの魔術士のことを考え続け時間がたつのも忘れていたが、お腹は空くものだった。カケルと師匠が住む家は、村の家々が建つ場所より高い場所に建っていて遠かった。足首まである麻のスカートをうっとおしそうに持ち上げながら、ブチブチと呟きながら村へ下って歩いて行った。


 「おぅーい、モエギぃ。 ご飯だよー!」

 山道を下りながら、周りに広がる森を切り開いて造られたヤギの牧草地へ大声を出す。『ウォン』と応える鳴き声がして、追い立てられたヤギと一緒に少女より大きい狼犬が現れた。陽光に照らされた毛は深緑色で耳はピンと立っている。狼犬は昼寝をしていたヤギ飼いへヤギたちを追いやり、カケルの側にやって来た。尻尾を振りながらお座りし目をくりくりさせカケルを見上げる。

「モフモフ〜モエギぃ〜。モフモフモエギぃ〜!」

 溜まった鬱憤(うっぷん)を晴らすように、グリグリとしばらく冬毛に頬ずりした後、気が済み歩き出す。モエギは心得た様子で真横について歩いた。カケルが4歳のとき師匠が子犬のモエギを連れてきた。それ以来一緒に育った友達で心強い護衛モエギは、放牧の手伝い以外はほとんど側にいる。師匠が亡くなった今唯一頼れる存在になった。


 村の入り口から中央噴水広場と一番奥の村長宅を結ぶ石畳の道に沿って建つ家々を回って、昼ごはんと晩御飯を調達する。今日は何所も無料にしてくれた。山羊ムグの生肉はモエギに。燻製(くんせい)肉はナイフで切り分けて黒パンを一緒によく噛んで飲み込む。大抵の食べ物は噛み砕けると、微妙な気持ちで誇っていた。


 カケルが住むミカーゴ村では本来は黒パンの原料である黒麦は育ちにくいが、カケルの師匠であるマルス・リングソーが土壌と黒麦の改良をし少量ではあるが実るようになった。この村ではパンの代わりは(あれ)イモを主食にする。村で育つ荒イモも師匠の改良の結果収穫量が増えた。生まれ育った故郷の味を噛み締めるのも最後になるかもしれないと、じっくり味わった。焼き荒イモにムグ山羊バター添えは美味だが、正直黒パンは不味いと思いながら。


 村の中央の噴水広場で腰掛けてご飯を食べていると、ふくよかな体を揺らして、白いエプロンに白い三角巾のチャミおばさんが、ランプを数個抱え持って小走りでやって来た。

「チャミおばさん、こんにちは。今昼間ですよ? ランプ持って何しているんですか」

「カケルちゃんに修理をしてもらいたかったの。村を出るって聞いたから。忙しいかしら……?」

 全部師匠が紋章を刻んだランプだった。このランプ全て獣油が要らない。刻んだ紋章が磨耗(まもう)しない限り魔法の灯りを灯し続ける。村にあるランプの多くが刻紋(こくもん)灯ランプだ。ランプに手を伸ばし、誇らしい心地になった。「あのゴリゴリ魔術士」へのムカムカも晴れた。


「身支度は全部終わりましたんで承ります。彫り直すだけですから今日中に終わります。明日出発前にドアの横に置いておきますよ」

 ニカと笑いランプを預かる。


 マルス・リングソーは「紋章(もんしょう)魔術の権威」と称されていた。その唯一の直弟子で養女がカケルだった。

 紋章魔術は紋章を用いて魔術を発動させる。紋章魔術には刻紋魔術と描紋(びょうもん)魔術がある。

 刻紋魔術は物品に刻んだ紋章を、魔力を込めることによって効果が得られて、何度も使えるのが特徴。

 一方の描紋魔術は魔力が篭った特殊染料で紋章を描く魔術で、刻紋魔術に比べ使い捨てだが、魔力の無い者でも効果が得られる。

 マルスは紋章魔術で不便な寒村の暮らしを、少しでも楽で豊かにしようとした。希望を込めて「生活魔術」と呼んだ。亡き師匠の意志を継ぐに足りないのは更なる魔術の知識、経験。王都にたどり着けば叶う。努力と執念は誰にも負けないつもりだ。


「本当に有り難うねぇ……」

 チャミおばさんは目尻に涙を浮かべ、カケルをそっと抱きしめた。静かに座っていたモエギの頭も撫でて手を振り帰っていった。


 チャミおばさんを見送ったカケルは肩に肉の入った小袋の紐をかけ、ランプの持ち手を腕に通して案山子のように複数のランプのガラスが擦れないようにして家へ戻ろうとした。


「うあああああぁっ!!」

 石つぶてが数個ランプ目掛けて飛んできた。モエギがサっとカケルの前に壁になってくれたので割れずに済んだ。低い体制で唸り声を向けた先に、ムカムカの原因が居た。

「何すんじゃワレぇ!!」

 銀糸の縁取りの刺繍を施した長身の魔術士の黒いローブ。師匠と弟子共通で最悪の間柄。師匠が亡くなったその日に予め用意した手管で家を差し押さえたのは、師匠の残した遺産の品々を奪うためだ。血色の悪い目元と口端しをゆがめながら、村長の甥のゲルバーハ・フライシャは、土属性の石つぶて呪言(じゅごん)魔術を放ってご満悦の様子だった。

「こんな初級魔術も防げないクソ弟子様、ご機嫌いかがでございまぁすかぁ〜?」

 ケタケタとそれは愉快と嬌声を上げた。

「預かりモノのランプが壊れるだろうがあああ!!」

 抗議の言葉を無視し、また呪言魔術を発動させようとする様子にカケルは堪忍袋の尾が切れた。ポケットに入れておいたコイツ専用のとっておきの餞別を取り出した。最後の日くらい差し上げて構わないだろうと、出会ったとき使ってやろうと精製しておいた特性粉薬だった。

「モエギ!」

 モエギがゲルバーハに飛び掛る。紡ぐ言葉と体制を崩す。その瞬間を狙って、握った小袋の口を縛っていた紐を解き口をゲルバーハに向けて、袋に魔力を込めた。小袋の外側のに染料で描かれていた紋様が輝いた。これぞ、紋章魔術の一つ描紋魔術の力が発動された証。直後、小袋からブフーっと、なんか茶色い粉がゲルバーハの顔に吹き付けられた。カケルは会心の笑みを浮かべた――――。











 

 



 誤字脱字が無いほうが珍しいくらいですので、誤字脱字指摘はもちろん、アドバイス、感想も待っています。


 不確定な人に読んでもらうことも初なのでドキドキしている小心者ですが、ヨロシクお願いします!


 あと1人でもいいからこの物語を読んで「楽しかった」と思ってくださることを願って……。

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