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「友達以上」ナンパ

 唯に失礼を働いた東一郎は、非常に落ち込んでいた。

 唯に話しかける事もせず、生気を失っているかのようだった。


「もっとちゃんとしなよー」

 エマは東一郎の背中を持っていたバッグでぽんと叩いた。

 心配したエマとユリはヤマトを連れて街に出てきたのだった。


「いや…俺なんて生きてる価値無いだろ…」

 東一郎は淋しげな顔で答えた。

挿絵(By みてみん)

「こりゃ重症だねー」

 ユリはそんな東一郎を見ながらさっき買ってきたクレープを食べながら言った。


「まぁ、そのうち復活するでしょ!」

 エマはとりあえず自分が欲しかったアイテムを見ながら店を行ったり来たりしていた。普段であれば東一郎が真っ先に面倒くさがってどこかに行こうとするのだが、落ち込んでいる東一郎は言われるがままにゾンビのようについてきた。


「これはこれで良いかも…」

 エマはフラフラと歩く東一郎を眺めてはニヤリと笑った。


 時間は午後3時過ぎ。

 春の気候は心地よかったが、花粉症持ちのヤマトとユリは常にくしゃみとの戦いになっていた。


「あー、もうしょうが無いなぁ。じゃあ、どっかお店行こうよ」

 エマは花粉症持ちの二人に気を使って、室内での遊びを提案した。


「じゃあ、室内スポーツ施設にでも行くかぁ。カラオケもあるし!」

 エマの提案で、4人はカラオケボックスのついている大型のスポーツ施設に行くことにした。


「ねぇねぇ!何する?カラオケは後回しで、最初はちょっと身体動かそうよ!」

 エマはそう言って3人に提案した。ヤマトとユリは花粉症で室内であれば何でも良かったので、同意した。

 東一郎はフラフラとしながらも同意した。


 それなりの大きな施設で、色々な遊び道具が用意されていた。

 意外だったのが東一郎が、なんだかんだとバッティングセンターや射的など楽しげに過ごしていたこと。バスケやフットサルは屋外だったので出来なかったが、結構普通に復活してきたので、一同ホッとしたのだった。


「なんかわりいなぁ。気を使わせちまって…」

 東一郎は半分引きつった笑いで、照れながら言った。


「何よ!今更!だいたいアンタに気なんて使ってないっての!」

 ユリはそういうと東一郎の背中を平手でバンと叩いた。


「いった!何すんだよ!」

 東一郎は笑いながら言った。


「本当だよ。心配したんだよ。ちょっとだけ。藤村さんに対して何か一生懸命でさ…」

「はは、唯さんはちょっと過去あってさ。でもエマありがとな。あんまりくよくよ考えるのは性に合わないってか、俺には無理だわ」

 東一郎はそういうとエマに笑いかけた。

挿絵(By みてみん)

「まぁ、別にいいけどさ…」

 エマは顔を少し赤くして視線を外した。


「あれ!?ちょっとあれ…」

 その時、ヤマトは驚いたような声を上げた。

 ヤマトがふと見た目線の先には、唯が居た。


「え!?マジで?」

 四人はまるで隠れるかのように建物の隅に移動した。


「あー、アレ違うクラスの子達だね。3人組かぁ」

 ユリは唯たちのグループを観察していった。唯達3人組はおそらく1年の頃のクラスメイトと言ったところだろう。

 何やら様子がおかしい。唯は何やら下を向いているが、ちょうど3人組の男が声をかけているようだった。


「てかさ、あれ…ナンパされてるよね…」

 エマは冷静にそれを見ていった。


「うーん。たしかにそんなふうに見えるよね」

 ヤマトは二人の友だちが少し面倒そうにしているが、会話には応じているようだ。

 唯は下を向いており、会話に加わるつもりはあまりなさそうだ。


 東一郎はその姿を見ていたくはなかった。

 ただここで怒鳴り込むというのも流石におかしいと思うし、助けに行くと言うには雰囲気的にそこまで悪くない。

 そもそも東一郎も自身が若い頃は散々声をかけていたわけで、唯が声をかけられてるだけで口を出すのはおかしいと理解はしている。


 だが、気持ちの整理がつかないのが実際のところだった。


「もう行こうぜ。ガキじゃないんだから…」

 東一郎は、振り切るように言った。


「でも…」

 ヤマトはなにか言いたげだった。


「ねぇ。水島君。水島君が嫌だったら言ってきたらいいよ。声掛けるだけでもいいじゃん。そしたらあの子達も無茶しないでしょ」

 エマは東一郎に対して声をかけた。エマは自分の手のひらをギュッと握った。


 男達は懸命に唯たちの気を引こうとしているのか、笑顔で身振り手振りで大げさなジェスチャーをしている。


「なんかさ、あんなちょっと悪そうな感じの男達に、なんかあの子達慣れてなさそうだし、大丈夫かな…」

 ユリは少し心配そうに言った。確かに少しやんちゃそうな若者たちであった。

 唯の友達2名は普通に笑顔で答えていたし、唯も少しずつ会話に入っているようだった。


「いや、良いんだ。あの子達も子供じゃないし…。まぁ、ただ見てるのも何だし、俺らは俺らで別のとこ行こうぜ」

 東一郎はにこやかな表情でいった。


「うん…」

「…。」

 誰もが何も言えずにいると、東一郎は黙ってその場所を去ろうとした。


「じゃあ、カラオケでも行くか!?久々だなー」

 東一郎はそう言って笑顔を作って3人を引き連れて移動した。3人共何も言わずに着いてきた。


 

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