「再会」自己対決
東一郎は一気に踏み込むと、水島瞬の顔面近くにワンツーを出した。
だが、水島瞬はそのパンチを鼻先でかわすと、そのままゆらりと揺れて後退した。
「へぇ…なんだ、お前、やるじゃん」
東一郎は楽しげに笑った。
「……」
水島瞬は何も言わずに、東一郎を睨みつけた。
「まぁまぁ、焦るなよ。この世界じゃよくある話だ。不意打ち上等じゃなきゃ!」
東一郎はそういうグルグルと腕を回して、足のストレッチをした。
「あんまり弱い者いじめは好きじゃねーんだ。早めにギブしろよ!」
東一郎は先程よりも更に早く水島瞬の間合いに飛び込むとそのまま、お腹をすっと叩こうとした。水島瞬はそれを身体を半歩下げて、避けると返しのストレートパンチを打ってきた。
東一郎はそれを寸前で回避すると驚いた表情を浮かべた。
「へぇ!瞬!お前結構やるじゃん!」
東一郎は余裕を見せた発言だったが、今の動きだけで何となく分かった。明らかに水島瞬は強いということを悟ったのだ。
「なぁ、瞬教えてくれよ。お前、俺のこと…神崎東一郎のことを知ってたんだろ?」
東一郎は構えを変えないままで話しかけた。
「……アナタが僕に勝てたら教えてあげますよ」
水島瞬は落ち着いた声で静かに言った。
「そうかいそうかい。なら遠慮なくパパッと終わらせるぜぇ」
東一郎は言い終わるかどうかのタイミングで、ポンとステップすると同時に2メートル近くほぼ水平移動するかのようにものすごいスピードで踏み込んできた。
踏み込みながらも、正面からの攻撃ではなく拳を上から放ついわゆるオーバーハンドブローを水島瞬に打ち込んだ。
ガッと結構な手応えがあった。勝ちを確信した東一郎は水島瞬に対してこういった。
「わりいな。兄ちゃん。経験が物を言うのが格闘だぜ」
東一郎はそういうとフーっと息をついた。
その瞬間だった。
水島瞬はまるで何もなかったかのように東一郎に向かってミドルキックを放ってきたのだ。
てっきり戦える状態ではないと思った東一郎は油断していたことで、避けることができずにそのまま腕のガードでミドルキックを受けた。
「ぐぅっ!」
思わず東一郎は驚かざるを得なかった。
今まで見たことも、感じたこともない衝撃だった。まるでハンマーをフルスイングされたものを受けたかのような強烈な衝撃だった。
だがその攻撃だけでは終わらなかった。
水島瞬は、そのままパンチのコンビネーションを東一郎に浴びせかけた。
東一郎はその驚くべきスピードに避けきれないと判断し、ガードを固めた。
素手のパンチはガードからすり抜けてくるリスクが高いが、別の方法を取れるほど水島瞬の攻撃は強烈だったのだ。
水島瞬の攻撃は合計3発。いわゆるジャブ・ストレート・フックの連続コンビネーションだった。東一郎は何とか攻撃を受け切るとその場から一旦離れた。
「おい、瞬!お前どうなってやがる?」
東一郎に余裕は既になく、先程の攻撃を受けた事で腕が結構しびれていた。
「教えてあげましょうか?」
「はぁ?何をだ?」
「少年時代から武道・格闘技をやり続け、プロボクシングの新人王、日本タイトルマッチ前に無敗のまま引退。総合格闘家に転身し、アメリカを中心に活躍した伝説の日本人格闘家は僕であって、今のアナタではない!」
水島瞬は余裕を持って東一郎にそう宣言した。
「なんだと?素人が、まともに戦ったことも無いくせに!」
東一郎は水島瞬に対し大声で返した。
水島瞬はものすごいスピードで間合いを詰めるとそのまま蹴りを放ってきた。間合い、スピード、タイミングがほぼ完璧で、避けられないと感じた東一郎は再び腕で蹴りを受けた。
水島瞬のケリは尋常じゃない衝撃であった。
明らかに骨が太く硬い事が蹴りから伝わってきた。
「っち!何だコイツ…痛ってえじゃねーかよ!」
東一郎は文句を言いながらも必死に考えた。自分の攻撃よりも相手の攻撃の方が圧倒的に上であることを認めざるを得なかった。
「不思議でしょ。僕は格闘技なんてやったことなかった。蹴り方も知らないし、殴り方も知らない。でもね…」
そういうと素早いステップからあっという間に、距離を詰められると水島瞬はパンチの連続攻撃を仕掛けてきた。
東一郎は間一髪で攻撃を見切って何とか避けきった。だが、パンチを受けた腕は赤く腫れ上がり、蹴られた部分はジンジンと感じるだけで感覚はなかった。
「覚えてるんですよ。身体が!蹴り方、殴り方!僕は知らないけど、身体が動くんですよ!」
「まじかよ…コイツ…てか、俺ってセンスで強いと思ってたけど、俺の身体が化け物レベルだったのかよ…」
東一郎は自分の攻撃を受けてはっきりと分かった。
ボクシングのチャンピオンよりも、並み居る格闘家、武道家と対戦してきたにもかからず、今水島瞬から受けた攻撃は、明らかにこれまでの誰よりも強く、強烈で絶望的な攻撃だった。
「な、なぁ。てかさ、これお前の身体じゃん?お前自分の身体思いっきり殴れんの?」
東一郎はやや焦って水島瞬の動揺を誘おうとした。
だが、水島瞬はまた間髪入れずに強烈なパンチを合計5回も打ってきて、東一郎はギリギリで避け、何とかガードでしのいだ。
「本当に!本当にがっかりだよ!神崎東一郎!」
水島瞬は物凄い形相で東一郎を睨みつけた!
「アンタに憧れ!アンタになりたいと願った日から、実際にアンタと入れ替わった!だけど!アンタはとんでもないクズ野郎で!最低な男だった!」
水島瞬は怒りに震えながら東一郎を睨みつけたのだった。