「再会」夢での再会
「なぁ、ヤマト!あの子のこと知ってるか?」
「え?あの子とって?藤村さんの事?」
「そう!唯さん!何で気が付かなかったんだろ!?」
「いや、知らない。余り目立つタイプじゃない気がする」
「なんていうか、昔から奥ゆかしいっていうか、すげえいい子なんだ」
「そうなんだ…。で、何で知ってるの?どこで知り合ったの?」
「ああ、それは…なんつーか…前に会ったとしか…」
「いや、そんな絶賛する程の出会いを忘れるの?」
「いやいや。覚えてる…でも説明しにくいんだよな」
「なぁ、藤村さんにあのテンションで行くと彼女驚くよ…」
「そうかなぁ。でもこの思い抑えられねぇ!」
「いやいや、驚いてたじゃんか。ちょっと落ち着いたほうがいいよ」
「あの子はめちゃいい子だから、俺は嬉しいんだよ」
「ああ、でもさ、周りのことも考えてみろよ。お前目立ってるから、いきなりあんな接し方したら周りから浮いちゃうよ…」
「え!?…それは…困る。唯さんには楽しく過ごしてもらいたい」
「だったら、ちょっと控えたほうがいいよ。何か蒼汰君が水島を空手部に誘いに来たときと同じ匂いがするぞ」
ヤマトはそう言って笑った。
「え!?それは…嫌だな…。分かった…ちょっと抑えるよ…」
東一郎は蒼汰の名前を出されて少し、客観視できるようになったようだ。
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東一郎はその晩またも夢を見た。
また同じ風景。何もない空間に今度は面と向かって水島瞬が立っていた。
「お!?よう!また会ったな。何なんだろうなこれ?」
東一郎はキョロキョロとあたりを見渡しながら言った。
水島瞬は見るからに不機嫌そうな顔をしたままだった。
「一体何なんですか?何故アナタと会わなきゃならないんですか?」
「何って…そりゃ元に戻るためだろう」
「元になんて戻りませんよ!」
「いやいや!意味わかんねーって。お前何で?」
「これ以上アナタに会う必要もない」
「まぁ、そう言うなっての!お前今何やって暮らしてんだ?」
「アナタには関係ない」
「無くもないだろ。俺の人生だぞ」
「いえ、これはもう僕の人生です」
「なあ。瞬!お前もまだ若いし、オッサンの体で何がいいんだよ?」
「僕はもう全てを手に入れたので」
「お前、何いってんの?お前32歳の俺って言ったら、ちょうど商売失敗して借金作って離婚した最悪の時期だぞ。お前ちゃんと生きてんの?」
「アナタとは話したくない。もう現れないでください」
そういうと水島瞬は背を向けて歩こうとした。
「いや、俺だって好き好んでこうやって会ってるわけじゃないんだ。何でこうしてお前と夢であえるのか。わかんねーし、次いつ会えるのかもわからんじゃん!」
東一郎は水島瞬に大声で言った。
「神崎さん、アナタ、本当に何も知らないんですか?」
水島瞬は怒りに近い表情をして東一郎に聞いた。
「全然わからん!何で俺がここに居るのか?何でお前と入れ替わったのか?」
東一郎は首を振りながら言った。
「わかりました。アナタに真実を話します。実際にお会いしましょう。明日の夕方、神社であいましょう。どの神社かはわかりますよね」
水島瞬は表情をほとんど変えずに東一郎に言うとそのままどこかへと歩いていってしまった。
ようやく東一郎は、水島瞬と直接会う機会を得たのだ。
だが東一郎もふと思った。結局約束と言っても夢の中の話だ。
夢はただの夢であって、現実世界の水島瞬が現れるのだろうか?なぜなら単なる夢なんだから。だが、そもそもこの現実がもはや夢ではないと物語っていた。
聞きたいことが沢山あった。
アイツは水島瞬は神崎東一郎として無事に生きているのだろうか?
かなりのハードモードな状態なはずで一高校生が生きていけるレベルの状況ではなかったはずだ。
この現状から元の世界に戻るには、どう考えても水島瞬が絡んでいるのに間違いはないし、この世界に来て普通の夢は一切見なくなった。見た夢はたったの3回。今回を入れても4回目。あの夢は絶対に水島瞬と共有しているとしか思えなかった。
東一郎は家の部屋に閉じこもりベットに寝転んでいた。
ようやく事態が動く、その胎動を感じたのだ。
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コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「お兄ちゃん。ちょっと屋根裏の本見たいんだけど、はしごセットしてくれない?」
水島瞬の妹のリナが水島瞬の部屋に入ってきた。
「屋根裏?なにそれ?」
東一郎はリナに問いかけると、リナは渋い表情をした。
「うそでしょ!?ちょっとしっかりしてよ。2回の廊下にある折りたたみ式の階段はしごで行ける物置だよ」
リナは二階の天井を指さして言った。
リナの言われるとおりに確かにそこには、よく見ると天井部分にハンドルのようなものが着いていた。長身の水島瞬の体でも流石に届かないので、東一郎は椅子を持ってくるとその上に乗りくるくるとハンドルを回した。
ゆっくりと屋根裏に繋がる「はしご」が天井から降りてきた。
ようやくはしごが降りきるとリナはさっさとはしごを登って屋根裏部屋に入っていった。
「ふーん。こんなものがあったのか…」
東一郎は上を見上げて言った。
3分ほどしたらリナが降りてきて手には、ホコリを薄っすらと被った本を数冊抱えていた。
「ありがとう。もういいよ」
リナはそういうと、自分の部屋に戻っていった。
東一郎は階段をしまう前に、一度屋根裏部屋に登ってみることにした。
ほとんど好奇心であった。