夢と出会い
東一郎はこの世界に来て3回目の夢を見た。
転生してから半年以上するのにたったの3回だ。
そして過去2回同様に今回も同じ風景。
何もない空間に人が歩いている。
水島瞬だ。
毎回声をかけるが、彼は気が付かない。
だが今回は違った。
水島瞬はかなり遠くを歩いているが、東一郎に向かって歩いているのだ。
このまま歩いているのであればすれ違うことができる。
東一郎はある程度水島瞬が近づいてくるの待ってから早る気持ちを抑えて声をかけた。
「おい!お前!水島瞬だよな!聞こえるか?」
東一郎は水島瞬に向かって叫んだ。
水島瞬は、東一郎の声に反応して、キョロキョロとしている。
どうやら東一郎の姿は見えていないようだ。
「なんでだよ!?おい!声は聞こえるな!?おい!」
東一郎は更に声をかけた。
水島瞬はあたりをキョロキョロしていたが、声の方をじっとみている様子であった。
そして少し目を凝らしてから、驚きの表情を浮かべた。
「おい!俺が見えるか?俺だこっちだ!」
東一郎は手を振りながら水島瞬のところに向かって走った。
水島瞬は明らかに戸惑いと驚きの表情をしていたが、東一郎を見ると察したのか改めてじっくりと東一郎をみた。
「おい!俺が分かるか?お前水島瞬だよな?」
東一郎は出会えた嬉しさで、水島瞬の肩を抑えて揺さぶった。
「俺は神崎東一郎だ!お前俺のこと知ってるよな?」
東一郎はさらに水島瞬に聞いた。水島瞬は驚いた顔をしたままであったが、コックリと頷いた。
「そうか!お前、今神崎東一郎になってんだろ?そうなんだろ!なぁ!」
東一郎は水島瞬に更に聞いた。
水島瞬はゆっくりと頷いた。
「そうか!良かったな!ようやく会えたよ!これはきっと夢だけど夢じゃないだろ!お前今どこに住んでんだ。俺が住んでたはずの場所に行ったけど、誰も居なくてさ!ずっと探してたんだぜ!早く会いに来いよ!」
東一郎は一気に水島瞬に話をした。
「……。」
「まぁ、驚くのも無理はない!俺だって驚いてんだ!とにかく良かったな。お前、俺すげー苦労してんだぜ。お前の未来変えないように頑張ってんだ!とにかくこのおかしな状況を早くどうにしないとさ…」
嬉しげに一気にまくし立てる東一郎を制するように、水島瞬は口を開いた。
「神崎…東一郎さんですよね?」
水島瞬はゆっくりとそう言った。
「そうだよ!俺が神崎東一郎だ!なんだかわかんないけど、おそらくお前と入れ替わってる。お前だってそうだろ?お前水島瞬だよな!お前が神崎東一郎なんだろ?」
東一郎は達成感で一杯であった。思わず叫び出したいほどの感情に駆られた。
この半年上、ずっと謎に思っていた仮説、神崎東一郎は6年前にタイムスリップした上で、水島瞬になり、水島瞬は神崎東一郎になった。
この仮説が正しいと言える状況が目の前にあるのだ。
「とにかく、夢から覚める前に、言っとくわ!お前どこに住んでんだ?ていうか、お前の家は分かるだろ!早く会いに来いよ!そんで今後の事相談しようぜ!お互いもとに戻る方法を!」
勢いよく話す東一郎に水島瞬は冷静に言い放った。
「アナタに協力するつもりはありません」
水島瞬は静かにそして冷静に言った。
「は?え?お前、何いってんの?」
東一郎は混乱しすぎて何がどうなっているのか、思考が一旦停止した。
「アナタは水島瞬として生きていってください。僕は神崎東一郎してこの先、生きていきますので…」
「ちょ、ちょっと待てよ!お前何いってんの?はぁ?!意味わかんねー!」
「アナタとお話することはありません」
「いやいやいやいや!ちょっと待てよ!お前、何いってんの?」
「……。」
「このままで良い訳ねーだろ!あ!?お前まさか、もう自暴自棄になって死のうとしたりしてないか!なぁ!そんなのやめろよ!マジで!」
「死にもしませんし、僕はちゃんと生きています。新しい神崎東一郎としての人生を…」
「いや、ちょっとまってくれよ!お前、マジイカれてんのか?お前、本来高校生だろ!それが30過ぎのオッサンになって何が嬉しんだ?」
「アナタには心底幻滅しました。その上で僕は生きています。だから水島瞬に戻る必要はありません!」
「はぁ!?お前、マジで死のうとしてない?てかもう死んだりしてないよな!?」
「ご安心を、しっかり生きてます」
「なぁ、じゃあ、冷静に話し合おう!お前にとってのメリットなんて何もないだろ?俺だってこのイカレタ状況で頭が変になっちまいそうだ。お前だって混乱すんだろ?なぁ!」
「僕は冷静ですよ。アナタと違って…」
「そんな訳あるか!?たかだか15,6のガキが、俺のハードモードの人生に入れ替わって生きていける訳ねーだろ!お前が自殺でもしたら、俺が死ぬことになるんだぞ!そしたらこの関係はどうなる?俺は死んで、お前はもとに戻る!なぁ、だから死ぬなんて考えるなよ!」
東一郎は必死に水島瞬を説得した。東一郎の考える一番最悪なシナリオを話しただけで裏付けはまったくなかった。
「アナタはいつもそうやって、自分勝手に考えるんですね。とにかくもうこのまま生きていくしか無いでしょう。僕はもう諦めました」
水島瞬の態度は常に冷静であった。
「おい!嘘だろ!やっと帰れるチャンスだろ!お互い!俺はお前のためを思って…」
「そろそろ行きますね。お互い元気にやりましょう」
「いや、理由は?なんで戻りたくないんだよ?」
東一郎は必死に水島瞬に声を掛けた。
水島瞬は足を止めて振り返ると東一郎に言った。
「色々分かったからです。だからもう水島瞬は僕にとって必要ありません。アナタも第二の人生を楽しんでください。それでは」
水島瞬はそう言うとすっと歩いていってしまった。
東一郎は叫びながら追いかけたが、ついに追いつくことはなかった。