補習とノート
空手の交流戦が終わってから、東一郎は期末試験に向けて勉強を始めていた。
元々高校生2回目とは言え、初回がほぼ勉強らしいものをしなかっただけに、日々の授業自体を非常に苦労した。
英語だけは、比較的実践で使う機会があったことで多少マシであったが、それ以外は壊滅的であった。
このときばかりは、ヤマトはもとより勉強を教えてくれるものに徹底的に頼り切った。特に完璧女子こと、桜井こころは学年トップクラスの成績を収めているだけあって、テスト期間近くなるといつも勉強を教えてもらっていた。
それがいつも勉強を開始すると、金刺遥も必ずといっていいほど付いてきた。
更にそれが気に入らないという理由で、エマとそれに付き合う形でユリも参加し、東一郎とヤマト、女子4人の6人で勉強する機会が多くなっていた。
この勉強の成果もあって、ヤマトを含みこころ以外の女子生徒の成績は大いに上がった。東一郎は何とか赤点を免れるという点数を取ることができたのだった。
「水島さぁ。もともとトップレベルの成績だったのに…何があった?」
ヤマトはいつも不思議がった。
「水島さんのお役に立ってるのであれば嬉しいです」
こころはクールな普段の姿と違い活躍できる場のせいか、笑顔が多かった。
「委員長ちゃんは、凄いよねー」
エマとユリもこれに関しては、あまり張り合おうという気はないらしい。
だが一点問題もあった。
「今回のテストは、全部クリアしたの?」
「ああ、それがさぁ…一個赤点あった…」
「えぇ!?何ですか!?」
「あー、いや、ほら選択でさ。俺なんか世界史選んでるんだよね。これがまたさっぱり…」
「あー…世界史ですかぁ」
こころはがっかりした表情で言った。
この中で世界史を選択している生徒は東一郎だけであった。
なのでポイントを絞った問題説明等を受けられなかったため、世界史を落としていたのだった。
東一郎としては、記憶だけに頼れる世界史は他に比べて多少マシという扱いであったが、他の教科が酷かった事もあり、世界史に時間を取れなかったと言う状況であった。
「という事で、明日から補習ですぅ…」
東一郎は天井を見上げてうんざりしながら言った。
「そうですか…私も一緒に出れないか聞いてみましょうか?」
こころは東一郎に真剣な表情で言った。
「ああ、いいよいいよ。こころちゃん。そんな時間ワザワザ大丈夫だよ」
東一郎は笑いながら必死に否定した。
「いや、そもそも委員長ちゃんが補習出るとか意味わかん無くない?しかも選択してない教科で…」
エマは呆れ顔でこころにいった。
「こころさんは、幅広い知識を得るために補習を自主的にでたいって言ってるのであって、別に問題はないんじゃない?」
遥はこころの味方をした。
「はぁ?お嬢様と委員長ちゃんは学校のルールガン無視でウケる!」
エマは挑発的に返した。
「はぁ?別に家とか関係なくない?」
遥は即座に反応した。
「私はそもそもクラス委員長ではなく、生徒会の…」
こころもいつもの反論をしようとした所で東一郎が入った。
「ああ!いいよいいよ!みんなサンキュー!本来なら全教科赤点でもおかしくなかった俺が、世界史だけの1教科で済んだんだから!皆のおかげだよ!サンキューな!」
笑顔で東一郎がいうと、エマもこころ、遥は何も言い返せなかった。
「じゃあ、早速今日からだから俺行ってくるわ」
東一郎は手を振りながらフラフラと教室を出ていった。
「私、やっぱり補習を…」
こころが言った。
「いや、委員長ちゃん!意味分かんないから!」
「はぁ、こころさんの意味分かんないってどういう事!?」
「うわー、ちょっとめんどくさく無いこの会話!」
ずーっと何も言わなかったユリがついに口を出した。
「ユリは黙ってて!」
「いやだって…」
「だってじゃなくてさ、そもそも委員長ちゃんが…」
「こころさんは何も悪くなくて…」
ヤマトはこのやり取りを横目にいつ帰ろうか、タイミングを見計らっていた。
「で、どう思うのやまと君!?」
突然エマに振られて、ヤマトは飛び上がらんばかりに驚いた。
「え!?な、なんで俺??」
ヤマトは苦笑いを浮かべながら、こころから逃げ出したいと思っていた。
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世界史の補習を受けているメンバーは、東一郎を含め6名だった。
「学年で世界史取ってるのが100人として6人が補習か…」
東一郎はぼそっと呟いた。そもそも東一郎は世界史に興味もなければ、やる気もなかった。
「あの、水島君、このノートのコピー借りてきたんだけどいる?」
一緒に補修を受けている女子生徒がそう言ってコピーを見せてくれた。
「おお!これってテスト範囲がバッチリかいてあるじゃん!」
そこにはとてもキレイな字で、きっちりとまとまった世界史の内容がノート4枚にまとめられていた。
「うわー、超わかりやすい!サンキュー!助かるよ!」
「うん。クラスの子がノートコピーさせてくれて、凄いわかりやすいから皆どうかなと思って…」
「いや、マジ助かるよ!その子にもお礼言っといてよ」
「うん。まさか補習の皆に分かってるとは思ってないと思うけど、喜ぶと思うよ」
東一郎は、ノートを元に記憶をした。
とてもキレイな習字の先生のような字であった。どこかで見たような…そんな気がした。
その日、また夢を見た。こちらの世界にきて3回目の夢だった。




