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「交流戦」決勝最終試合

「おい!一年。空手で俺には絶対に勝てない!覚悟しろ」

「まぁ、でも、お前ら嫌われもんじゃん!ははは」

「だからガキだっつんてんだよ。嫌われようが何されようが、俺たちが一番強くて一番権力がある!それが俺たちだ!」

「あ、そう。まぁ、だからといって俺には勝てねーよ。空手だろうと何だろうと」

「調子に乗るなよ!クソガキが!」

「俺から言えば、お前のほうがクソガキだけどな」


「お互いに礼!勝負始め!」

 審判の合図を聞いて、二人はコートの中央に対峙した。

 いよいよ最終戦となる大将戦を迎えることになった。


 東は背の高さを活かした遠くからの攻撃が得意であったが、実は彼のチート能力は、その多彩な攻撃パターンであった。

 あらゆる攻撃パターンを超一流レベルで繰り出せるため、ほとんどの選手が翻弄されてあっという間に終わる事がほとんどだった。


 東はむやみに攻撃を出すことはしなかった。

 東一郎の動きを伺っているようだった。

 なぜならここまで東一郎は全てカウンターで各選手を完封してきたのだ。

 東は東一郎のことをカウンター使いと判断したのだろう。


 ジリジリと距離を測る東は東一郎への攻撃を仕掛ける寸前に、東一郎の動きを徹底的に警戒していた。

 ジリジリと続く時間の中、東は少しばかり焦りを感じていた。


「こないのか?ならこっちから行くぞ!」

 東一郎はそう言うとパーンと歩いたかと思うと、次の瞬間は東の前に既に到達していた。


「おりゃ!」

 東一郎はそのまま沈み込んむと中段の突きを打った。


「やめ!赤中段突き、有効!」

 東一郎のポイントはあっさりと認められた。


「な、何つー速さだ…」

 まさに全国レベルの選手である東も、東一郎の速さに驚きを隠せなかった。


「続けて始め!」

 審判の開始の合図を受けて、東はもう一度タイミングを図るかのように、低く構えた。だが東一郎はもはや待つという事をしなかった。


 あっという間に間合いを詰めると、そのまま凄まじいスピードで突きを出した。

 実力的には東が劣っているわけではないのだが、東一郎との戦いにおいては、いつもの感覚とは違うズレがある事に戸惑っていた。

 東一郎は間髪入れずに蹴りを出した。


 バン!という音とともに、東は片膝を着いた。


「く…まじかよ…」

 東はそのまま片膝を着いたまま、思わず自分を疑った。

 東はなぜ東一郎の攻撃を貰ってしまうのか?自分の間合いが遠いのか理解できなかった。


「ふざけるな!俺は東だ!空手の日本一にもなったんだ!お前ごとき白帯に負けるかよ!」

 東は怒りに似た感情のままに攻撃を繰り出した。


 東はワンツーを放ったが、東一郎は見透かしたかのようにすすっと避けて様子を見ている。


「なめんなぁ!」

 その体勢から渾身の蹴りをフルパワーで打った。おそらく制御できていないと言う理由で当たっても反則扱いされるほどのフルスイングだったが、東一郎は余裕で避けていた。


「うらぁあ!」

 東はもはや技のスピードも制御もお構いなしに攻撃を出しまくった。

 だが東一郎はあくまで攻撃を出さずに、その様子を見るだけだった。


 東からしてみれば完全に子供扱いされている東一郎にもそして自分にも腹が立っていた。

 東はついに攻撃をする流れのままに東一郎の空手衣の袖を掴むと、そのまま思いきり顔面を打ち抜いた。

 至近距離から空手衣を掴んでの攻撃であったにもかかわらず、東一郎はそれすら首をひねって避けていた。


「やめ!青、忠告!」

 審判は当然の反則を宣言した。


「何笑ってやがんだ!この野郎!」

 審判の開始を待たずに東は東一郎に飛びかかった。


「まて!!」

 審判が静止するも東は止まらなかった。

 ピー!と副審判が笛を吹くが東はそのまま東一郎を捕まえると、そのまま殴りかかろうとした。


「甘いっての!」

 東一郎はそう言うと、東の袖をすっと掴むと代わりに足払いを掛けると同時に、まるで柔道の技を繰り出すかのように東をぶん投げた。


 東の身体は空中で一回転するとそのまま背中からドンとコートに叩きつけられた。


「うぅ…」

 東が呻き声を上げてうずくまると、明和のコートからは歓声が上がった。

 中には柔道と勘違いしたのか、「一本!」という声も聞こえた。


 審判が集まり競技をしてたが、先に反則を仕掛けたのは東西大付属の東であったが、投げ飛ばした東一郎に反則を与えた。


「ふたりともいい加減にしろ!次やったら反則負けにするぞ!」

 審判は怒りと呆れが半分ずつに、二人に宣告した。


 東一郎はニッコリとそれを受け入れたが、東はそのまま膝をついて立ち上がろうとしなかった。もはやプライドも何もかもを失い、我をも失っていた。


「ちくしょう…ちくしょう…」

 東は悔しさと情けなさから、アリーナの床に拳を叩きつけた。


 その時だった。

 応援席の端から女子生徒が叫んだ。


「負けるな!頑張れ!東くん!!」

 その凄惨な状況に静まり返る体育館において、その声はよく響き渡った。


「リコちゃん…」

 東は思わずその女子生徒の名前を呟いた…。


「東くんはいつも強かったじゃん!どんなに負けてもいつも最後は勝ってたじゃん!負けないでよ!私達の学校の代表でしょ!」

 女性生徒は涙ながらに叫んだ。


「そうだ!東!まだ負けじゃねーぞ!」

「そうだ!お前特待生だろ!ちゃんとやれ!」

「東西大舐めてるやつ!叩きのめせ!」

「東!いけえええ!!」

「明和なんて叩きのめせ!」


 その流れに会場は、その大半の生徒である東西大付属の生徒たちの大合唱が巻き起こった。


「リコちゃん…みんな…」

 東は思わず呆然としながら会場を見渡した。


「これで決めなきゃ嘘だぜ!」

「頼むぜキャプテン!」

「俺たちゃ最強!東西大付属だぜ!」

「決めてこいよ!」

 チームメイトたちは、東に向かって笑顔で親指を立てた。


「うおぉおおおおおお!」

 東はすっくと立ち上がり、東一郎の前に立った。


「おい!白帯!勝負だ!」

 東は東一郎を指差し宣言した。


「……。」

 東一郎は何も言わず、試合の開始線についた。


「続けて始め!」

 審判の合図で試合が再開した。コートは大歓声に包まれた!大合唱の東コールの中、エマたちの必死の応援の声はかき消された。

 が、次の瞬間、東一郎はあっという間に踏み込むと東の頭に蹴りを放った。そのスピードに東は何もできないまま、尻餅をついた。


「赤!上段蹴り!一本!赤の勝ち!」

 試合は東一郎の完封勝ちとなった。


「はーい。お疲れさん。正義は勝つと思った?てかお前、正義じゃないだろ。な!」

 東一郎は東の肩に手を置くと、にやりと笑った。そして会場全体はシーンと静まり返ったした。

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