「交流戦」快進撃
先鋒を圧勝したことで、会場の雰囲気はにわかに盛り上がってきた。
明和側のチームメイトはもちろん、それほど多くはないが、一画を占めている明和の応援席も異常な盛り上がりを見せた。
「きゃあああ!!勝った!」
「ヤッター!」
「凄い!よかった!」
「流石だね!瞬!」
エマ・ユリ、こころ、遥は興奮しながら歓声を上げた。
キャッキャしている雰囲気が異常に盛り上がってるように見えた。
その時、ふと応援席から意外な声が聞こえた。
「流石は私の水島瞬だ。あの強さ!だからアイツは私にふさわしい」
空手部OB席に居た一人の声に4人は一斉に振り向いた。
「ねぇ、誰あれ?怖くない?」
エマは聞こえるように、ユリに言った。
「ちょっと!何がふさわしいですって?」
文句を言ったのは、遥だった。
「あ!?お前らさっきからピーチクパーチクうるさい。さっさと帰れここはお前らが来る場所じゃない」
声の主はパーカーのフードを脱いだ。
「!?」
思いの外、美人が突如現れたので、四人は一瞬怯んだ。
だが、顔で言うと劣っていない4人は一斉に文句を言い始めた。
「ああ、ごめんねぇ!この人ちょっと変わってるから…」
隣りにいたどうやら空手部のOBの男が、4人対しにこやかに謝罪をしてきた。
「ちょっと、また変なこと言わないでよ。そらちゃん!」
「私は事実を言ったとおりだ」
「ああ、この人、前キャプテンで柿崎そらさん。あの蒼汰くんのお姉さんね」
男はさっさとこの混乱を収めて試合を見たいらしく、急遽幕引きを測った。
「誰が何言おうと勝手だけど、勝手に私の水島君みたいに言わないでもらえる?キモい」
エマはお構いなしにそらに文句を言った。
「あいつはお前らとは違う。私にこそふさわしい」
「はぁ?ちょっとマジでキモいんだけど。ウケる」
「お前らちょっと後輩だと言うこと思い知ったほうが良いな」
そらはそう言うと立ち上がった。
慌てた男子生徒が数名そらを止めに入ったが、あっという間に叩きのめされた。
「ちょ、マジ怖いんだけど!」
「チョー暴力反対!」
「ちょっと暴力はどうかと思います!」
「きゃー!怖い怖い怖い!」
女子生徒たが騒ぎ立てると周りに居たOBが全員そらを止めに入って騒然とした雰囲気になっていた。
だが、あまり珍しい光景ではないのか、他校の生徒だからなのか、誰もが遠巻きにぼんやりとそのいざこざを眺めるだけだった。
「なんか、お前ンとこの応援席揉めてるぞ?」
東西大付属の次鋒の西岡は揉めてる応援席を見ながら言った。
「ああ、まぁ、気にするなよ。騒がしくして悪いな」
東一郎は応援席を呆れ顔で見ながら、ため息まじりに言った。
次鋒の西岡もまた空手の実力は自他ともに認める実力者であった。
応援席での騒ぎをよそに東一郎の快進撃はここから始まったと言ってもいい。
ほぼすべての攻撃を捌いて反撃する、いわゆるカウンターのみで次鋒の西岡だけでなく、中堅の南の副将の北村に至るまで、完封し続けたのだった。
しかも動きがほぼ無く、東西大付属の全国クラスの選手たちが為すすべもなく、敗れ去っていくさまは、東西大付属の昨今の活躍を知る者にとっては驚愕と言っていいほどのインパクトを与えた。
明和、東西大付属の応援席だけでなく、武蔵サイエンス高校や南多摩総合高校の応援席からすら驚きの声が上がり、副将の北村を完封した際には驚きの声がいつしか歓声に変わっていた。
それだけにここ数年の東西大付属の戦力は充実し、強さは圧倒的であったからだろう。先鋒から副将までの4人を東一郎はカウンターのみで勝ち上がってしまったのだ。
「流石すぎるだろこれ…」
明和キャプテンの長田も思わず言葉出ないほどに、驚愕の試合内容であった。
「これが水島くんの実力ですよ!」
蒼汰はまるで自分のことのように言って胸を張った
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「東西大付属選手前へ!」
審判に促されて現れたのキャプテンの東だった。
東一郎は省エネ戦法で勝ち上がったのも作戦なのだろうか、全く行きも乱れておらず、試合前かと思うほどに行き一つ乱れていなかった。
「白帯君、結構やるね!正直驚いた。ウチのメンバーを軽くひねるとは…」
東は少し焦りつつも余裕の発言をした。
「あのさ、ちょっと思ったんだけどさ…」
東一郎は東に対し、不思議そうに聞いた。
「はい?何でしょうか?」
「お前らさ、同じ学校の奴らこんなに居るのに、応援がないっての変だなーって思ってたけど、お前ら結構嫌われてんのね」
そう言うと東一郎は思わず吹き出してしまった。
「な、何だと!?このガキ!」
これまで冷静を装ってきた東はこの日初めて怒りの態度を示した。
東西大付属の東は入学当時、自分よりも強い人間が居ると思っていなかった。
空手では全中を制覇した実績を元に複数の空手強豪高校からスカウトが来た。
そんな中熱心に勧誘を受けたのが、東西大付属だった。
インターハイ3位という輝かしい実績を優勝で締めくくって欲しいという監督からの口説き文句で特待生として迎え入れられた。
だが、彼には東西大付属を選んだ別の理由があった。
その理由とは、小さい頃から同じ道場で一緒に空手をやっていた幼馴染の女子生徒が東西大付属を受験すると聞いたからだった。
彼は愛に殉じこの学校を選んだのだった。
ところが入学してみると、その女子生徒は空手部ではなくバスケ部のマネージャーになり、そのわずか半年後にはバスケ部のイケメン彼氏をゲットするという東にとっては許しがたい自体になってしまったのだった。
その為、東は部員全員を成績不振を理由に気合を入れるためと称し坊主頭を推奨し、更にその武力を持って学校中のあらゆる部活動に対し揉め事を起こし続けた。
結果、空手部が通る道は生徒が消え、揉め事が起きないように、空手部を恐れた。空手部自体学校中を敵に回して、体育会部活動の立場上頂点に立っていた。
従って学校中で嫌われていたのだった。
その中心人物こそが空手道部キャプテン東、その人であった。