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「交流戦」王者の先鋒

 東西大付属の先鋒東野の前に、為すすべもなく3人抜かれてしまった明和はキャプテンの長田が副将戦ででてきた。


「長田!頼んだぞ!」

「行けー!」

「長田さん!お願いします」

 メンバーは口々に応援をしている。


「長田ー!長田ー!」

 明和側の応援席からも長田コールが巻き上がる。

 一方で東西大付属のお膝元でやっているにも関わらず、シーン静まり返っている東西大付属側の応援席は余裕の応援、王者の応援と言う雰囲気なのだろう。

 ちなみに東一郎の応援に駆けつけた、エマとユリ、こころ、遥の4人は東一郎以外に興味はあまりないらしく、試合を見ていると言うよりも携帯をいじっているかおしゃべりをしているだけに見えた。

 だが、男子生徒が9割以上を占めるこのアリーナにおいて、この4人は否応もなしに目立ちに目立っていた。


「長田さーん、ウチら勝ったらあの子達紹介してくださいね!」

 先鋒の東野は笑いながら長田に呼びかけた。


「抜かせ!調子に乗るのもここまでだ!俺と大将は簡単には抜かせないぞ!」

 長田は余裕の口上を返した。


「あのさ、キャプテンって強いの?そもそも?さっき秒殺されてなかったっけ?練習時も基本的に指示役であんまり練習してないよな…」

 東一郎は何となく聞いた。


「……。」

「……。」

「……。」

 誰も何も返事をしなかった。


「ん?」

 東一郎は少し驚いたように聞き返した!


「やめ!青一本!」

 審判が東西大付属の東野に3ポイントのコールを告げた。


「え!?もう!?」

 東一郎は試合開始、数秒でポイントを取られたことに驚いた。


「水島君頼んだ!」

「君だけが頼りだ!」

「俺たちの分まで頑張ってくれ!」

 蒼汰と2年生2名は長田のことには触れずに、東一郎にお願いをした。


「やめ!青一本!青の勝ち!」

 審判はまたもや数秒で青の3ポイントを宣言した。ちなみに点差が6ポイントつくと勝負アリとなるため、長田は10秒もたずに敗戦したのだった。


「長田はさ…いいやつなんだよ…」

「そう。アイツ、頑張り屋で成績もいいし…」

「空手以外ではすげー尊敬できる人だよ!」

 チームメンバーは口々にいった。


「…そ、そうか…。確かにアイツ良いやつだしな…」

 東一郎は少し長田に憐れみを感じながら無理やり笑顔を作った。


「お互いに礼!」

 東一郎は少し頭を下げるとコートに入ってきた。


「白帯君よろしくね!」

 東西大付属の東野は笑顔で東一郎を迎え入れた。


「ああ。よろしくなー」

 東一郎はニコリともせずに言った。


「水島クーン!」

「イケイケ水島!!」

「頑張って下さーい!」

「瞬!ファイトー!」

 エマ、ユリ、こころ、遥の4人がこのタイミングで生き返ったように声援を送った。

 この歓声を受けて、東野の顔色が変わった。


「へー君モテるんだねー。確かに顔はかっこいいねー」

「あ?モテるとかどうでも良い」

「は!?白帯イケメン君は男前だねぇ!」

「ふーん…。お前もハゲじゃなきゃ、それなりだったんじゃね?」

「な!?ハゲ!?」

「あ、坊主ってのか、まぁ、どっちでも良いか…」

「お前、瞬殺してやるよ!女子の前で泣かせてやる!東西大のスピードスター東野を舐めんなよ!」

「ははは、おもしれーやってみろよ」

 東一郎はニヤリと笑って東野を挑発した。


「君たち!私語は慎むように!」

 審判は二人を軽く注意してから、試合開始位置につかせた。


「勝負はじめ!」

 審判の合図に東野は瞬間的に飛び込んできた。


 東野はスピードタイプの選手であった。素早いフットワークを武器に切り返し、先攻攻撃を得意としていた。スピードに対しては絶対の自信を持っており、ほぼ初見で見切られることは無かった。

 ましては白帯の東一郎相手であったから、万が一にも遅れを取ると思ってもいなかった。


「やめ!赤!上段突き有効」

 開始2秒。東一郎の攻撃が有効打となった。


「あ、あれ?何だ!?どうした?」

 東野は混乱していた。いつの間にポイントされたのか分からなかった。


「おい、瞬殺ってのはどうした?スピードスター」

 東一郎は東野の前に立ちはだかっていった。


「な、そんな馬鹿な!?」

 東野は混乱しつつも、スタート位置についてまた軽くフットワークをしてタイミングを測っている。


 東野は今度は慎重かつ最も得意な左右に揺さぶるステップワークを東一郎に対して行った。


 ワンツーを打ち込んで、すぐに左にステップしそこから右の中段蹴りを打ち込む一般的なコンビネーションであるが、このスピードが東野の場合尋常ではないスピードだった。


 東野はこのコンビネーションをやるため東一郎の前にワンツーを放った。

 東一郎はそれを軽く受け流すとまるで分かっていたように東野を追うように右サイドにステップした。


 これにより東野は、右の中段蹴りをするつもりが、目の前に東一郎が来てしまったため、慌てて後方にステップバックした。


 ところが東一郎も同じタイミングで前にステップ・インしてきた。

 慌てて東野は更にバックステップをして逃れようとした所、東一郎も再び追うようにステップ・インしてきた。


「やめ!」

 審判がストップを掛けた。ふと見ると東野は場外にでていた。


「どのへんがスピードスターなの?」

 東一郎は笑うでもなく真面目な顔で首をひねっていた。


「て、てめぇ!」

 東野は自慢のスピードを完全に潰されて、更に余裕を持って場外に誘導されたことで、プライドが大きく傷ついた。


 再び試合を開始線につくと、彼の最大速度での攻撃を繰り出した。

 だが攻撃に移る瞬間、東一郎が目の前に突然現れた。


「う、うわ!」

 一瞬で攻撃の間合いを潰された東野はバックステップで逃れるつもりが、そのまま後方に転んだ…。


「え?」

 東野は自分に何が起こったのか理解するのに数秒要した。バックステップを東一郎の足払いで転ばされていたのだ…。

 彼の人生で初めて味わう試合での足払いによる転倒であった。


「ハゲにしたって、大して早くならねーよ!」

 東一郎は東野に対し髪の毛をかき上げながら言い放った!


 王者の先鋒東野は、為すすべもなく東一郎に敗れ去ったのだ。


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