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「交流戦」見学

「お互いに礼」

 審判が礼を言うと、互いに頭を軽く下げて中央によって握手をした。


「武田さん、試合では色々あったけど今後もよろしくお願いしますよ」

 満面の笑みの明和キャプテン長田が握手を求めた。


「…いやぁ。流石にお強い…」

 武田は顔を真赤にしながらも無理やり笑顔を作ると長田の手を両手で握った。


「まぁ、そういったことなんで、お互い仲良くやりましょうね」

 長田は満面の笑みで武田に言った。武田はやり場のない怒りを押し殺してひたすら笑顔を貫いたのだった。


 だが明和としても優勝しない限り、いくらこの試合で勝ったからと言って、優位に立てるわけではないため、あまり強くでられないと言う面もあった。

 それでも長田は勝ちさえすれば、全て我が物にできるという夢の生活を思い描いた。


 東一郎たちの試合が終わると、次の試合は王者である東西大付属と南多摩総合の試合が始まった。

 ここでもまた口頭でのやり取りがあったようだが、遠目にはよく聞こえないものであった。


 とは言え、南多摩総合高校は少し前まで南多摩商業高校として、比較的女子生徒が多い学校であった。それ故にスポーツはさほど有名ではない為、この交流戦においてもあまり良い成績を残したてきたわけではなかった。


 南多摩総合高校のキャプテンはあまり好戦的な態度ではなく、比較的温和で問題もあまり多くを起こさないような人が歴代選ばれてきているという伝統もあった。

 現キャプテンの武藤もまたこのパターンの人物であった。


 一方で東西大付属は私立のスポーツ強豪校という立場はここ20年揺るがない。あらゆるスポーツでトップレベルの生徒を集め、野球やサッカーも甲子園や全国大会を狙えるだけの力の入れようだった。

 柔道や空手、剣道などの武道においても、同様で空手部は一学年20名、合計60名も居る大所帯であった。


 そのエリート集団のトップが、キャプテンの東という事になる。

 東は小学生の頃から空手の全国大会で活躍し、中学に上がっても全中大会で連覇をする程の実力であった。


 第2回戦の南多摩総合と東西大付属の対戦は、実にあっさりと終わってしまった。


 スコアは東西大付属の先鋒が4人抜きし、その後キャプテンの武藤が取り返したものの、次鋒の選手にあっさりと負けてしまった。

 キャプテンの武藤も負けても特に悔しがるでもなく、実にあっさりとした態度であった。


 ちなみに長年に渡るこの交流戦において、南多摩総合高校は前身の南多摩商業高校時代からも一度も優勝したことがない学校であった。

 つまり彼らは一度も優勝校としての優越感に浸ることなく現在に至るのであった。


 画して今年度の決勝戦は、東一郎の居る明和高校とスポーツエリート校の東西大付属の戦いになったのである。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「相手は強豪だけど、俺たちはやれる!今年こそ勝つぞ!」

「おお!絶対勝とう!」

「絶対勝ちます!アイツラだけは絶対に許さない!」

 明和の長田や2年生のモチベーションも高かったが、実は最もモチベーションが高いのは蒼汰であった。


「え?お前なんでそんなにテンション高いの?」

 東一郎は蒼汰に聞いた。

挿絵(By みてみん)

「そりゃそうだよ。この一年東西大付属の学生がいたら避けて歩いたからね。それに一番許せないのは、アイツラ事あるごとに、ねーちゃんを呼び出しやがって、あれだけは許せねぇ!」

 蒼汰はどうやら姉のそらが、東西大付属の生徒に嫌な目にあったらしい。


「そうか…まぁ、お前の姉ちゃん、性格はともかく見た目はまぁ…カワイイしな…」

 東一郎はやや目を伏せて蒼汰に言った。

 蒼汰はややシスコンの雰囲気がある事は、周知の事実であった。


「でしょ!姉ちゃんてさ、凄いカワイイと思うし、優しいし!そんな姉ちゃんがあのハゲ軍団に呼び出され、稽古だと言われ、あらゆるセクハラじみた事をやられたんだ!絶対許せねぇ!」

 蒼汰はそう言っていきりたった。


「あー、いや、そんな事も無かったと思うけどな…。」

 長田は蒼汰の意見は極端に歪曲されている事実を知っていた。


「まぁ、なんとなく想像はつくな…、見た目のカワイサを余裕で凌駕するあの性格だからな…」

 東一郎は柿崎そらの性格を踏まえて渋い顔で言った。


「でもまぁ、勝てばこの一年空手の大会や街で出くわしても、惨めな態度を取らなくてもいいわけだ。この一年は辛かったぜぇ!」

 長田は悪い顔をしながら、晴れ晴れとした顔で言った。


「まぁ、でも、せいぜい挨拶をするとか、後片付けをやるとかそんな程度だろ。何をそんなにキタイしてるわけ?」

 東一郎は疑問をぶつけてみた。


「いや、この優勝校の生徒の言うことを聞くっていうのは、何も顔を合わせたときだけじゃない。例えば街で女の子とデートしていたとしよう。そこに東西の奴らがいたら、今から稽古だと言ってデートを面白半分で台無しにしたり、奴らの気分次第でいきなり呼びつけられたりと、ろくなもんじゃなかった!ここで勝ちきれたら、今度はオレたちの番だ!」

 長田は力のこもった熱弁をした。


「ああ、デート邪魔されたのね…」

 東一郎はぼそっと副キャプテンの柴田に聞くと、柴田は黙ってうなずいた。

「まぁ、デートですら無かったけどね…長田の場合…」

「ん?どういう事?」

「ああ、要は街で偶然クラスの女子と会って、少し話していたら東西大付属の奴らに邪魔されたって話だよ…」

「ああ、そういう事か…」

 東一郎は長田に少し憐れみの目を向けていた。

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