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「交流戦」一回戦

 この交流戦と言う名の大会は実に特殊な大会であった。

 本来の空手の試合ではないルールもいくつか存在していた。


 ・試合は1チーム5人のトーナメント戦

 ・勝ち残り制で、勝ち越したチームの勝ち

 ・拳サポーター、すね当てを利用する

 ・試合は3分間、10ポイント先取制

 ・突き技1点、中段蹴り2点、上段蹴り3点

 ・ノックアウトしてしまった場合は反則とする

 但し虚偽のダウンは即刻反則負けとする

 ・判定への意見・確認は、各校キャプテンが代表して行う。


 このようなルールが設けられていた。


 第一回戦は、明和高校対武蔵サイエンス高校の戦いとなった。

 明和高校のメンバー

 先鋒・・・蒼汰

 次鋒・・・丹羽

 中堅・・・柴田

 副将・・・長田

 大将・・・水島


 のオーダーで戦うこととなった。

 武蔵サイエンス高校は毎年東大・京大に10名程度合格者を出す名門男子校である。

 文武両道の精神で空手道部の練習もなかなかハードな練習を行っている。

 その為比較的落ち着いた生徒が多い校風なのだが、空手道部のメンバーは例年全く空気感が違う面々が集まることが多かった。


 その中で今年度新主将となった武田は、実力も高く歴代のキャプテンとしてもダントツの呼び声が高かった。

 その中で鍛えられた武蔵サイエンス高校の実力は例年になく充実していたのだった。


「正面に礼!お互いに礼!」

 東西大付属か南多摩総合高校のどちらかのOBが審判をやっているのだろう。大きな声で選手を呼び出した。


 最初にコートに立ったのは、1年の柿崎蒼汰だった。サイエンス高校の強敵である武田は5番目に登場するようだ。

 武田は鋭い目つきで先鋒戦を見ている。


「やっちまえ!こらああ!」

「ぶっころせー!」

「叩きのめせ!おら!」

 サイエンス高校の応援席からは強烈な野次が飛ぶ!


「舐めんなこら!ぶっ殺す!」

「黙ってろ!オタク高校が!」

「やっちまうぞこら!」

 明和高校の応援席からも辛辣な野次が飛び交っている。


「蒼汰!負けるんじゃないぞ!」

 蒼汰の姉である柿崎そらが一際甲高い声で蒼汰に声を掛けた。

 OBとして3年生も複数応援に駆けつけているようだ。

挿絵(By みてみん)

 異様な雰囲気の中で、第1試合が始まった。


「勝負始め!」

 審判の合図で蒼汰はふーっと息を吐くと、眉一つ動かさずに滑るように動いた瞬間、上段の突きが相手の顔面を捉えていた。


「おお!」

 思わずキャプテンの長田が叫ぶ間に、開始わずか数秒で先制点を奪ったのだった。


「うおおおおお!」

「よっしゃ!!」

 明和の応援席は大騒ぎになっている。


「まだまだ!これからだぞ!」

「叩きのめせ!」

 武蔵サイエンスの応援席も負けじと大声で応援している。


「蒼汰!落ち着いてけ!」

 キャプテンが大きな声で蒼汰に声をかける。

 いつに無く蒼汰も真面目な顔でうなずいた。

挿絵(By みてみん)

「続けて始め!」

 審判が試合続行のジェスチャーをした。


 蒼汰は待った大きく息を吐くと、素早いステップをしながら相手へと向かっていった。声援はより一層大きくなった気がする。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よっしゃ!」

 蒼汰は腕を突き上げた。

 この大会の特殊ルール、勝ち残りで蒼汰は4人抜きを演じてみせた。


 武蔵サイエンスの生徒が弱かったというわけではない。むしろ例年以上に強かったと言ってよいレベルだった。

 だがその実力を蒼汰はあっさりと上回ってしまったのだ。


 伝統派空手の試合は瞬発力を要するため、3分の試合時間中ほとんどダッシュをしているような疲れ方をする。

 その状況を蒼汰は既に10分近く過ごしているのだ。


「蒼汰!ナイスだ!行けるぞ!」

 副キャプテンの柴田も声をかけた。


「落ち着いて、ゆっくり時間を使って!」

 長田は蒼汰に落ち着くように指示を出している。


「おい!蒼汰!この交流戦の歴史の中で、5人抜きした選手は一人も居ないんだ!歴史作っちゃえよ!」

 同じく2年の丹羽も興奮した様子で声を掛けた。

 観客席の明和側の観客席も大いに盛り上がっている。


「選手前へ」

 審判員が選手を呼び出す。応じて蒼汰が跳ねるようにスタート位置に着いた。

 一方でいよいよ後のない武蔵サイエンスは、キャプテンである最強の男。武田がゆっくりとスタート位置にやってきた。


 蒼汰もかなりの体躯の持ち主だが、武田はその背の大きさと体重の重さで他の選手とは一線を画していた。

 蒼汰と並んでも中学生と高校生位の違いがあるような錯覚を覚えるほどであった。


「おい。あんま調子に乗るなよ。ガキが」

 武田は蒼汰を睨みつけた。


「いや!調子になんて乗ってないですよ!全力で行きますよ!」

 蒼汰はいつもの調子で、ニヤリと笑うほどの余裕を見せ動じずに返した。


「勝負始め!」

 審判のスタート合図と同時に蒼汰はまた跳ねるように、ステップすると一気に武田に襲いかかった。


 蒼汰の飛び込みからのワンツーを打ち込むと、武田はほとんど動くこと無く、パンと前の手で蒼汰の突きを避けた。


「あ!?」

 蒼汰は思わずしまったという顔をした。

 武田はその巨体からは想像もつかないようなスピードで沈み込むと蒼汰のお腹に中段突きを放った。


 体重の載ったフルパワーの突きは、流れるようなスムーズな動きの中で一瞬で蒼汰の腹部を捉えていた。


「うぁ!」

 蒼汰は思わずその場に膝をついた。強烈な突き技は蒼汰の身体をくの字に折り曲げる程の威力を持っていた。蒼汰はそのまま膝を着いた。

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