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「雪女」帰京

 東一郎とこころが社に現れたのは、吹雪の音が収まって静かな未明の朝だった。


「おい!皆無事か!?」

 東一郎は部屋に入るなり大きな声で皆に声をかけた。


 濡れた靴下などを脱ぎ、皆で寄り添い暖を取っていた4人は東一郎とこころの姿を見ると、信じられない表情をしていたが、遥が立ち上がるとこころに飛びつくように抱きしめた。


「こころさん!生きてた!生きてたのね!!」

「はい…ご心配をおかけしました…」

 そう言って、遥をギュッと抱きしめた。

 二人は涙を流しながら再会を喜びあった。


「お前らも大変だったな!もう安心して大丈夫だ!」

 東一郎は3人の所に来て言った。

挿絵(By みてみん)

「うわああああ!」

「よかったぁ!!よかったぁ!!」

「!!」

 三人とも声にもならない声を出して東一郎に飛びついてきた。

 東一郎は若い3人を抱きしめると、心からホッとした。

 自分がもっと早くに気がついていたら、自分もスキー場に一緒に行っていたら、こんな目に合わさなかったのに、と自分の行動を悔いたのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 6人はこうして神社を後にして、山を降りると、心配して駆けつけた時田さんと町の人達が駆け寄ってきた。

 時田さんも東一郎が電話してから、慌てて宿泊施設に来たようだが、誰も居なかった為、地元の消防団と一緒に捜索を開始するところだったそうだ。

 時田さんも涙を流して喜んで、町の人達も安堵の表情を浮かべていた。


 後で聞いた所によると、吹雪で方向感覚を失い体力を奪われて遭難事故になるということは、この地域では昔から存在していて、今回も山の中で遭難したという事実に半数以上の人は、最悪のケースを覚悟していたそうだ。


 凍傷の疑いがあるということで、救急車で桜井こころが麓の病院まで搬送された。


「あの、時田さん。ここの従業員の娘さんの小雪さんってどこに居ます?」

 東一郎は小雪の行方が気になり聞いた。彼女のことだから遭難するということは無いだろうとは思ったが、礼の一つも言いたいと思ったからだ。


「小雪さん?って誰です?」

「ああ、いやその保養所の従業員の娘さんって聞いたけど…」

「いえ?あそこは私が管理しているので、他に従業員はいませんよ?」

「え?小雪さん、藤堂小雪さんっていう俺らと同じくらいの年の女の子…」

「え?藤堂さんなんてこの地区にはいないですよ…」

 時田さんも東一郎の突如出した名前に困惑気味に答えた。


「なぁ、お兄ちゃん。それってどんな感じの子だった?」

 消防団の団員のオジさん達が東一郎に聞いてきた。


「どんなって、高校生くらいに見えたけど、酒は飲めるから20歳以上だと思うけど、黒くて長い髪で、何かこうシュッとした美人というか…でも吹雪の中でも全然普通に動ける地元の子って感じで…あれ…」

 東一郎は小雪の事を思い出そうとしたが、何だか思い出すに出せなかった。彼女と小さな神社で会話した時の違和感が出てきそうで出てこなかった。


「これは…まさか…」

「でも、そんなことって…」

 消防団のおじさんたちは口々に何かをいいたげな素振りだったが何も言わなかった。顔がやや青ざめていた。


「ちょっと何かあっちゃいけないから」

 そう言って、東一郎だけを麓の神社に連れて行った。


「え?何なのこれ?小雪ちゃんに会えるの?」

 東一郎はよくわからないままに、麓の神社にやってきた。


「よく来たね。無事そうで良かった。こっちにいらっしゃい」

 宮司と思われる高齢の男性は、東一郎を境内横の建物に案内してくれた。


「この子が例の…」

 消防団のオジさんが宮司にそれだけ伝えた。


「君が会ったっていう小雪っていう人のことだけど、それ多分、人じゃないよ…」

 宮司は東一郎にあっさりとそう言った。

 近くにいた消防団のおじさんたちも、何も言わなかったが同意見のようだ。


 宮司はそう言って、5枚の紙の絵を持ってきた。


「こんな感じの子ではなかったかい?」

 宮司が見せてくれた5枚の絵は子供、高校生くらいの少女、妙齢期の女性、中年の女性、高齢の女性だが、全て長い黒い髪で日本人形のように整った顔立ちだった。

挿絵(By みてみん)

「あ、多分これがそっくりだ…まさか幽霊とか言うんじゃないですよね?」

 東一郎は少女の紙を指さしていった。


「やはりね…。これはね幽霊じゃないよ」

 宮司はふーっと息を吐いてから言った。


「まさか雪女とか?」

 東一郎は引きつった笑顔を作って聞いた。


「いや、これはね。この辺りの山に昔から住んでいらっしゃる御山の神様だよ…」

 宮司は冗談を言っている雰囲気もなく言った。


「え?神様?」

「そう、この神様はね。出会った人と同じくらいの年代の女性の姿をして現れると言われているんだよ。君が出会ったのが少女に見えたらな、それは君が少年だからだろうね」

「え?あんな、リアルにいた小雪ちゃんが神様?え?そんな無茶な?」

「聞いたことないかい?山の神様は女だから、山に女性が入ってはいけないと…この神様もやはり男の前にしか現れないと言われているのだよ…」

「えぇ、そうなんだ…でも、神様にしては威厳が…」

「君は、この神様に魅入られてしまったかもしれない。そうなったら君の命も危ないかもしれないんだよ…」

 宮司はそこまで話すとふーっと息をしてこういった。


「うそ!?あのノリの小雪ちゃんが??」

「まぁ、冗談だと思うだろうけど、実際この絵は皆、神様を見たっていう人から聞いてかいたんだ。そしてこの絵を書いた人は皆、半年以内に死んでしまうか、行方知れずになってしまったんだ」

「え!?死ぬか?行方不明?」

「まぁ、ただの偶然かもしれないけど、昔からの言い伝えでね。だから気をつけるに越したことはない」

「そうなんですか…」

 東一郎はどうしても、小雪との出会いや話したこと、内容からそんな事が起こるとは信じられなかった。


「一応お祓いだけはしておこう。気休めかもしれなけど…」

 宮司はそういって東一郎をお祓いしてくれた。


 午後になるとこころも無事病院から戻り、夕方の新幹線で帰る事になった。

 色々とあった疲れが出たせいか、皆帰りの新幹線では静かになっていた。

 だが、東京が近くなってくると元気を取り戻し、笑顔も見えるようになった。

 特に女子4人は、旅行前の雰囲気とはガラリと雰囲気が変わり妙な連帯感が生まれていた。


 東一郎はもう一度、小雪のことを思い出していた。

 浴室で全裸で出会い、酒を飲んで盛り上がり、雪山を走り回った。

「神様って…意外と…」

「え?なにか言った?」

 ヤマトは東一郎に聞いた。


 東一郎はにやりと笑うと言った。

「意外と子供っぽいんだな!色んな意味で!」


 電車は間もなく東京駅に到着するというアナウンスが流れた。

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